口周りの手術はＧＩＤ(M to F)の患者さんには、必要性が高い手術です。何故なら、GID患者さんは肉体的な性別と異なる精神的、または社会的性別で生活していますが、男性の肉体は女性と標準的構造が違うからです。口周りの中でも平均的に男性は白唇が長く、赤唇が薄いのは誰もが知っていると思います。GID患者さんには手術適応の患者さんが多いと考えられます。
最近は口ばっかり手術しています。この分野では第一走者?奏者?となってきました。であれば手術適応者の多いGID患者さんがちょくちょく訪ねてくるのも当然です。真面目な美容外科医は容貌を治すだけでなく、社会性を持った人間を診るべきです。その点でジェンダーは重要です。男性が女性的な容貌を得る為には両性の差異を理解していなければなりません。その所以は長年の真摯な診療経験が培った”診断力”です。
本症例はその上に、骨切り手術後の修正も兼ねています。本症例患者さんんは骨切り手術の前に予め口唇の手術を計画していました。私も、鋭意努力して患者さんの希望を汲み、手術計画を立てていく意気込みが湧きました。そのような訳で、先ずは診療内容から書き始めます。本症例のブログを見ていた人は今後の動勢に注目していたでしょう。ですから、前回の画像は前後だけにします。
症例は４９歳、法律上は男性(当時はGIDが認知されていなかった。)ですが、数十年来女性として社会生活を送って来た。ただしさすがに年齢を感じさせる。約１年前にＬｅ－ＦｏｒｔⅠ型骨切り術を受けて上顎の対称性を得た。男性特有の両顎(上下顎)突出に対して上顎を後退させた為、口唇の傾斜が平坦になると予想されていた。前医でも予め白唇部短縮の必要性を説明されていた。他院では理解されなくて拒絶され受けられなかった。先ずは診察すると、白唇長２２㎜と同年代の女性の平均値に比べ圧倒的に長い。顔面縦比が、上顔面７０㎜：中顔面６３㎜：下顔面６５㎜と合計値も縦長な上に、下顔面が中顔面に比べて長い。上口唇(白唇＋赤唇)２６㎜：下口唇(赤唇〜頤尖)３８㎜と黄金比率より上が長い。上白唇を７㎜切除して比率が合います。顔面部品の横比は内眼角間３４㎜：鼻翼幅３８㎜：口唇幅４４㎜と口唇幅が黄金比率より小さい。
「最近は白唇部を５㎜以上切除していません。創跡に負担が掛かり数ヶ月後には幅が広がるからです。」と説明していて気が付きました。そう言えば、男性では創の癒合が強固だから、拡がらないで済むのでは無いかと。それに数字的には７㎜切除したい。頑張って縫合する気合いを込めて、７㎜切除を予定しました。赤唇が薄いので軽度外反を求めて、口輪筋上まで切除し、口輪筋を折り畳んで外反をさせるプランとしました。人中やCupidの弓は術前でも明瞭なので作らなくて良いと考えました。口角は当然相対的に下がるので、挙上術の併施は必要です。口唇幅が無いので４５度方向に７×７ｍｍの三角形の切除し、横にも上にも４㎜の移動を意図しました。
術前とデザイン後と術直後の正面像を比較します。
手術後に術前の画像を見せたら、「すごいですねェ～！。」と感嘆していました
両側面の術前と術直後を並べます。
側面像で比較すると明らかな短縮化が見られます。もちろん力を入れないと閉じません。
両斜位の術前と術直後も並べます。
腫脹で外反がオーバーに見られます。数週間かかりそうでした。定期的に診療しました。肉体的には男性の要素が有る為に、ダウンタイムが遷延しました。
この手術の目的、意味をよく理解している患者さんですから、喜びもひとしおと感じていられました。ところが、不足感を訴えられました。さらに鼻翼や鼻尖も検討したいそうです。わたしは真摯に対応したいのですが、いかんせん時間が足りないのです。それは手術が一杯だからでもあります。それに診察にも体力と頭脳の限りを要します。
術後３か月を経て評価しました。簡単に診療所見を書きます。口角は満足。白唇短縮術の追加は１０月以降。鼻翼縮小術は同時が好ましい。鼻中間延長術は不要。鼻尖軟骨移植はその後。
一回目の手術から４か月経てもう一度診察しました。
白唇長は２２㎜を７㎜切除したので１５㎜の筈ですが、１６㎜でした。僅かに戻りました。でも画像を見て下さい。創跡の幅が拡がっているのではありません。画像が証明しています。たった４か月でも白唇部の組織＝皮膚、皮下脂肪、口輪筋の３層ともに伸展したとしか考えられません。そう言えば患者さんは表情として口を伸ばす運動を時折見せていました。女性には口をキュッと閉めておとなしく魅せる人が見かけます。若しかして伸びる原因かも知れません。だってえこれまでの患者さんで伸びた人いないもん！。
ただし、その問題で追加手術を求められたのではありません。要するに良くなる事が判ったら、もっと効果が欲しくなったのです。具体的には歯牙を魅せたい。白唇が長くなると、笑って口唇挙上筋群を収縮させても、歯牙を出せないのです。骨切り手術の影響も推測されます。顔面神経の信号不通(顔面神経麻痺であるとの診断はしていない。)が診られます。画像を見ても判りますよね。
いずれにしても笑っても歯牙が出ないと年齢を感じさせてしまいます。かといって切除量が過剰になり得るので、私は初療時から取りまくる事はしません。特に若い人なら、過剰切除の結果口がずう〜っと閉じない状態になったら口唇が乾燥してかぴかぴになってしまいます。これまでの症例を見ても術後早期にはその様な合併症を呈している人が居ました。もちろん私は切除量を適切にしていますから、口は閉じる様になります。その面では(たぶん)最多の症例経験を持つ私が最もよく知っています。
本症例の特殊性は、身体が男性的であった事。その為に創傷治癒機転が旺盛な事と表情筋の回復も早いだろう事。どう考えても長かった。歯牙が出せないのは可愛くないとの点を理解している事を私もそれは正しいと考えます。若々しさには鼻の下が短いだけでなく、表情の豊かさも寄与するとの考えにも私は同意します。美容医療は静的形態はもちろん、動的形態つまり内面からの表出も社会的適応を高めると私は父から教えられました。こんな事考えているのは本邦の美容外科医の中で私と亡き父だけです。であればやはり、私が本症例に呈して追加手術をするべきだと念じました。
ぐだぐだ言ってないで、何をしたかを説明しようと思ったら、詳しい資料が手許にありませんでした。説明は次回以降にして、先ずは画像を！。今回は、各方向別に比較して診て行きましょう。正面像から、術前、術直後。
２列目は、近接像。中はデザインです。何㎜でしょう？。
下の２列は、両側面と両側斜位像の四葉。１列目が術前、２列目が術直後。
赤唇が外反したら若々しいのですが、術直後は腫脹で引っ張られてオーバーコレクションです。確かに口が開いて歯牙が見られますが、口輪筋への侵襲と局麻の影響です。もちろんまだ笑えないので表情は不明です。今後の経過を診なければ根治性は判りません。
次週画像を頂きます。説明も加えます。お楽しみに！
下は術後１か月
下は術後３か月ですが、他院でフェイスリフトを受けて来られました。
頤から下顎の感じが変わっていますが、口唇はいい感じのままです。
周囲から、「可愛くなったね！」と云われたそうです。はにかみながら私に伝えてくれました。
当院では、2018年6月に厚生労働省より改定され施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守しホームページの修正を行っています。
施術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは１～２週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、３ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに２週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・抜糸までの間、鼻下を伸ばす表情はお控え下さい。・口唇部の違和感は、2～４週間程度かかります。・手術後２週間は、口を大きく開けることはお控え下さい。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、２週間程度で改善していきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後３日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後１週間（抜糸まで）は、鼻孔部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。
６月から費用の説明も加えなければなりません。上口唇短縮術は２８万円＋消費税。口角挙上術は２５万円 ＋消費税。局所のブログ掲載の契約を受けてもらえたら、出演料として２０％オフとなります。
