目の下とか上、鼻の下とか横。口の下等顔面の部位を示す際に部品名を使わずに称する事がありますが、上下左右は際限なく長いのでどこを指しているのか判りません。顔面は解剖学的構造が細分化されていて夫々の部位に名称があります。部位ごとに境界があるのです。
眼窩とは目(眼球)の周りでまぶた(眼瞼)で覆われた部位です。開いている目の下と上ですが、眼窩とは読んで字の如く眼球の入っている窩(くぼみまたは孔)です。窩は骨で包まれた箱ですが、中には眼球の他に血管や神経や筋もある他に、前には軟部組織の蓋(つまり眼瞼)があります。そして上に書いた様に眼窩の前とその周りには境界があります。眼窩前縁の骨の円周から軟部組織のなかを皮膚にに向かって靭帯が立ち上がっているからです。それは眼窩隔膜と眼窩支持靭帯,Orbital retaining ligament です。
ですから、眼窩縁の軟部組織と周囲の軟部組織は弛みや下垂が同様に起きませんし、減量も差が付きます。所謂目の下のクマは、眼窩部の軟部組織が弛んで支持力が減弱して、眼窩脂肪が前に膨らんで来て目袋,Baggy eye になり、眼窩縁の支持靭帯の上に伸し掛かって支持線が凹む溝が出来る事で起きます。瞼頬溝,Palpebrojugal groove と呼びPRPの充填により目袋を隠せます
ところが逆に眼窩脂肪を除去したら、眼窩部の減量だけが生じ、くぼみ目みたいなクマができます。下眼瞼全面がくぼんで瞼頬溝が面になります。本症例はその点でPRPに依る面の作製が求められる難しい症例です。逆に言えば若年者に合併症として生じたこの症例が治せればPRPの有用性は高いということです。
症例は30歳、女性。3年前他院で目袋,Baggy eye に対して下眼窩脂肪除去を受けたら、窪んでしまった。実は顔面の他の部位の治療(口周りに決まっている。)を私が手術して満足頂いている際にこちらも治したくなったのです。
診ると、下眼瞼の内半を主として半円形に陥凹していますよね!。眼窩脂肪除去術は創跡が皮膚側に無く受け易い手術ですが、取り過ぎるとこうなります。仕方ないので涙袋を増強して隠したつもりですが、涙袋は可愛いとしても高さの差異がより目立ちます。
下列の画像を見ると、左が注入前で、下眼瞼に半円形に暗いクマが見えます。陥没している部分は光が当たらないので暗いのです。右の画像が注入直後です。下眼瞼にクマは見られません。
涙袋は温存しました。
斜位像でも色の違いは明瞭です。
側面像では、光が当たらないので、下眼瞼は術前も術直後とも暗いのですが、よく見ると陥没は埋まっています。
この様に瞼頬溝や下眼瞼のクマはPRP注入法が最適です。綺麗に平らになり、自然な形を作り出せます。自然とは自然状態にあり得る形を言いますが、下眼瞼は年齢的に凹んでいるより平らな方が標準的な自然な形です。本症例は眼窩脂肪除去の合併症ですから不自然で、注入により自然な形に戻しました。
ここにはPRP注入が第一選択で、しかもここは一番長持ち=平均2年半持ちます。他の部位に比べてお得で綺麗です。
次回PRP療法について説明します。
2週間を経ました。一時的に経る時期です。
斜位像では下眼瞼内側の色は見られますが、これは色素沈着でしょう。その証拠に側面像では陥没が見られません。
PRP療法は注入治療ですが、主に増量、英語ではAugmentationの効果が高い治療です。皺伸ばし効果は二次的でメインではありません。本症例は下眼瞼乗眼窩脂肪摘出により陥没したので増量治療のよい適応です。
PRP,Platelet Rich Plasma は血液を採取してから遠心分離して、その中の血小板と少量の血漿(血液中の液体成分)だけを吸い出してから注入します。当院では美容医療に対して10年の経験があり、作製技術に精通していますから、丁度良い濃度で作れます。計測すると約4倍の濃度に出来ていて8ccの血液から1ccが作れます。今回は1ccが適量でした。
血小板は多種の成長因子を含有しています。そりゃあ血小板は、創を治す為にあるのですから体表の組織成分を作らせるシグナルになるためです。表から言えば、表皮細胞を分裂増殖させる成長因子EGF,Epidermal Growth Factor は表皮を作り厚くさせて張りを作ります。真皮層はコラーゲンと毛細血管が構成していて、血管を増生するのはVEGF,Vascular Endothelium Grouth Factor ですが毛細血管が組織を形成する材料を動員するので、組織が豊富になります。尚、コラーゲンを作るのは線維め細胞ですが、動員する因子FGF,Fibroblast Grouth Factor は血小板内に微量しか含有していませんが、増え過ぎるとしこりになるので微量だけ添加しています。至適濃度を見出しています。また様々な成長因子は、局所の皮下脂肪をも増量します。本症例は眼窩脂肪乗減量に対してのAugmentですが、皮下脂肪も増量して平坦化を為しています。
PRP療法はAugmentation に最良と考えます。何故なら1、ヒアルロン酸よりも単位当たりの価格と持続性との計算上の単価は安い。2、ヒアルロン酸は硬い注入剤なので軟らかい薄い皮膚皮下組織乗部位に入れるとボコるのに対して、PRPは液体なのでボコリにくく、組織を作るので自然な組織の性状になります。3、ある程度散るから注入部位と周囲に段差が起き難い。
ただしPRPは組織を作る治療なので波があります。先ず注入時には、血小板だけを分離するのは不可能ですから、血液中の液体成分である血漿に溶解した血小板を注入します。その際の液体の分量が予想される増大量に匹敵します。液体成分は徐々に吸収されます。ここがポイントです。外傷(怪我)や熱傷(やけど)で体表が損傷されると、血小板が動員されますが、反応して血管が拡張して血漿成分が浸出(漏れ出す)します。つまり組織の容量が増大します。これを浸出期ともいい、48時間まで続きます。いつも言いますが、外傷と同じく手術後も必ず48時間まで腫脹が亢進します。48時間がピークです。その後血管拡張は治まり、浸出した液体は吸収されます。この時期を吸収期,Refilling Phase と言います。どうです!上に書いた機序と同じでしょう。概ね2〜3週間まではリフィリングされます。PRPも2〜3週間目に一度減ります。上の画像でもそうです。その間に順々に成長因子が働きます。次々に因子が作用するのでカスケード,Cascade(滝)と称します。上記に書いた成長因子が働いて動員(作られるのでない)される毛細血管やコラーゲンや脂肪細胞は、血漿で膨張していたスペースに留まります。このスペースを足場,scafford と言います。こうして液体成分の増量が組織の増量に置き換わります。出来た組織は数ヶ月(平均3か月)のうちにさらに新しい組織に入れ替わります。これはリモデリング,Remodelling と言います。モデルつまり似たものという意味です。何度も置き換わるうちに皮膚の圧力で足場が減って組織も減って行きますが、組織は自然な構造なので長持ちします。眼瞼周囲は皮膚が薄いだけでなく皮膚が柔らかいので圧力がかかり難く、それでいて血行が良い部位なので減量が遅いのです。下眼瞼はPRP療法の最も適する部位で、個体差はありますが長い人は3年持ちます。
長々と説明しましたが、結果は3か月がよく判ります。ちゃんとフォローしていきますからお楽しみに!。さらに注入後1か月の画像を戴きました。いい時期です。
下眼瞼のクマは診られません。少なくとも黒くありません。クマは隈と書きます。奥まったの略でおくまったで、隠れる場や隅っこの意味です。これから暗いまたは悪い印象を与えるから隈取りは疲れて見える顔と表現されます。これがないと明るい印象になるのは当然です。
両側斜位像でも下眼瞼にくぼみは診られません。涙袋と相俟って三次元的に明るいです。涙袋は下眼瞼の抑揚を醸し出します。また若年者は幅がないのに対して、加齢と共に幅が出て目袋化して来て年齢を感じさせるので、幅4ミリ以下の厚さ3ミリ程度の涙袋が綺麗です。その上で下眼瞼に目袋が無く、クマもないと若々しさを魅せます。
洋語で目袋を直訳すると、Eye bag正しくはBaggy eyeと呼びます。またHollow eyeという見方もあります。訳すとうつろな、凹んだ。落ち込んだとなりますが、白人は眼球が眼窩骨より後ろにあるので目袋があるとその下のクマが深いのです。こもったとか、こけたとかいう意味もあり年寄り臭さの代名詞です。また洋語でTear troughとは涙の谷ですが、目袋の下の溝(谷)を表わします。Troughは外来語として南海トラフとか相模トラフ等と海底の谷ですが、地震の種みたいで嫌われています。同様にTear troughは暗い目元に見えて嫌われます
とにかく下眼瞼は三次元的に細かい凹凸が重要です。上眼瞼は動くので凹凸も十人十色ですが、下眼瞼は動かないので、骨と目袋の前後関係がクマを作り出します。本症例は若くしてあった目袋を治したくて、前医で眼窩脂肪除去を受けたら逆に下眼瞼が陥没した症例で、半円形にクマが診られました。出たり入ったりとなってしまったのです。どちらもクマと観られます。歌舞伎の隈取りを観ている場合じゃないです。私がこれまで診療(手術)して来ましたから、今回PRPで修正しました。丁度良い量が入って出ても下がってもない様に出来ました。でもPRP療法は波があります。上に説明した様に今はRefilling stageから線維化期に入ったときでよく出ています。前回の注入後2週間(吸収期)と比べてもいい感じです。今後波が合って月単位で変遷します。
だから、月単位で来月も3か月目も画像を提示したいと思います。こうして経過を見せていくのがこのブログの務めです。来月をお楽しみに!
いい人なのでちゃんと注入後1か月半で撮らしてくれました。
今は増えている時期。適度にクマが無く一番いい感じだと仰います。下の斜位像と側面像でよく判ります。
このまま永久的に保ちたいとは言いませんが、YAG LASERを当てれば長持ちさせられます。次回3か月目には検討しましょう。
ということで術後3ヶ月で再診しました。
露光を変えて二葉。瞼頬溝(クマ)は目立ちませんが・・。術前から経過を見てみましょう。
上左が術前。下眼瞼の内側半分が影です。上右が注入直後。麻酔テープで赤く、私が注入時に押したり擦ったりするからでもあります。でも黒くありません。
上左は術後1ヶ月ですが、若干影になりました。患者さんは自然でお慶びでした。今回の中有乳後3ヶ月では注入前の半分程度の影です。でも本症例は、前医の下手な診断の下に脂肪除去してしまったからですから、年齢の割に重度な【クマ】なのです。下に斜位側面像も。
むしろこうして3次元的に診ると改善度は保たれています。
当初の予定通り、PRP後3ヶ月後から注入部にLASERを照射しましょう。復活して増えるかもしれません。少なくとも保持できます。毎月定期的にYAG LASERを照射していますと、通常1.5〜2年で消失するPRPの効果が平均3年以上保たれます。PRPはあくまでも効果であり注入物が吸収されていくのではありません。
PRP注入療法は、傷を治す作用を応用して減少した身体組織を作らせます。まず注入時に血漿が入るので、量の分補えます。血漿水分は平均2週間で吸収されますから一度減りますが、注入時のスペースが足場になり、そこに成長因子が働いて組織が増えます。血漿板はそのような作用で傷を治すからです。数ヶ月後に効果が落ちてきたらもう一度外傷を加えれば成長因子がまた頑張って働きます。
YAG LASERは深さ約3㎜の増やしたい皮下組織の深部にまでエネルギーが達します。皮下組織が熱傷になり、PRPが働きます。10年前から併用していますが、長持ちさせることができて患者さんはよろこんでいます。
という訳で、本症例患者さんは近々YAG LASERを照射しに来院されます。ですから今後も経過を診ていけます。忘れなければまた画像も戴き、継続的に年単位で診てければいいなと思っています。優しい患者さんなので協力してもらえるでしょう?!
PRP・治療効果は、施術後から3ヶ月間にわたり徐々に現れ、1年程度持続しますが、個人差があります。
施術のリスク・副作用について・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・施術後に、腫れや赤みを伴う場合がありますが、2~5日程度で改善していきます。・施術直後より、洗顔・お化粧をしていただけます。・施術日は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴はお控え下さい。・注入は医師と状態を確認しながら進めますが、効果の現れ方や注入部位によっては直後に凹凸や左右差を生じる可能性があります。微調整が必要となる場合は、別途料金が発生いたします。・稀に、感染する場合があります。その場合は、抗菌剤内服にて対応いたします。・治療効果は、施術後から3ヶ月間にわたり徐々に現れ、1年程度持続しますが、個人差があります。
料金は1CCが10万円+消費税です。