いきなり面倒くさい標題です。鼻の高さや稜線(鼻スジ)のカーブは正面視では解り難く、側面や斜位からでなければ見えません。鼻尖の丸みや上下の位置は正面視でも判りますが、鼻スジの延長線との前後関係は側面からみなければ判りません。
それに比べて鼻の孔の入り口の形は正面視で目立つ部位です。見える程度は顔面の角度により変わりますが、形はあらゆる方向からでも見えます。特に正面視で鼻孔縁の前面が上に喰い込んでいると鼻の孔が上向いている事になり目立ちます。鼻尖の位置関係にも影響して見えます。中でも特に、鼻孔縁の前方が逆さV字の様な形だと目に着きます。
本症例は、鼻稜が太く低く、その上鼻根が低いからジャンプ台状態で、鼻尖は上方にあり丸い。典型的な鼻が野暮ったい人ですが、この程度の日本人(アジア人)はいくらでも居て、私を始めとして形成外科医なら平均に近づけるのは難しくない。でも鼻孔縁の喰い込みが目立つ症例はは数少なく、形成方法は一般的に知られていないので、経験豊富で可能な医師は限られます。
手術方法は複合組織移植術です。この言葉だけでも知っている医師は限られます。形成外科医の得意分野だからです。医師は卒業後の教育で専門分野を研鑽します。美容外科チェーン店に新人から入職したり他科から参入したりする医師には形成外科の知識と技術を身につける事は出来ません。最近チェーン店が形成外科出身の医師を雇う様になりました。何とかミクスの御陰で余裕ができたからです。でも聴くところに依ると形成外科で6年以下の研修歴しか持たないそうです。そんな奴等は形成外科のケの字も知りません。一緒にすんなってことです。
とにかく私としては、鼻孔縁に対する複合組織移植を先ず行ないました。手術法と内容については後段で説明します。
症例は49歳女性。これまで何年も美容医療の為に当院に罹って来た。本年に入って外鼻の相談を受けた。上記の様に鼻陵から鼻根も高くしたいのはプロテーシス、鼻尖は軟骨移植の適応である。鼻孔縁の喰い込みも治したい。鼻尖を下げても形は変わらないので移植手術が必要と考えられた。
順を検討すると、鼻尖軟骨移植をと鼻穴縁複合組織移植は同時には無理と考えた。鼻尖軟骨移植の為に鼻孔縁切開すると硬くなり下げられなくなるが、鼻孔縁の手術からならその後鼻線軟骨移植の為にガルウイング型オープン切開で鼻孔縁切開をしても複合組織移植物を壊さないで出来ると考えられた。
画像を観ていきましょう。
先ず外鼻の全体像を診ますと、正面像の下から鼻孔縁が上方に喰い込んでいるために鼻が上向いている様に見えています。鼻尖は実際に上方にあり幅があり丸く先端が平坦です。鼻陵は幅があり、側面像では低いだけでなく鼻尖から鼻根、眉間に向けて湾曲があり、鼻スジが通っていません。
でも正面像での鼻孔縁をの喰い込みを治せば鼻尖も改善出来ます。この鼻孔縁に対する複合組織移植の切開は鼻腔内です。皆さんも指で触ると縁に厚みがあるのが分ると思いますが、この後ろを弧状に切開しますから正面から見えません。今回の画像は各方向で術前と術直後を並べて説明します
正面像で鼻孔縁の前方を逆V字から丸く変えました。自然な鼻の孔の形でしょう!
斜位像では鼻孔縁の形が明らかに自然になり、鼻の中も見えなくなっています。
側面像ではもっとよく判ります。結果的に鼻尖の位置まで下がって見えます。
翌日の正面像です。術直後は血液の付着がありましたが、その後拭いて翌日には見られません。鼻孔の形はちゃんと出来ました。術直後よりも鼻尖が下がって見えます。手術直後は、麻酔で腫れていて上に押し上げられていたのかも知れませんが?、若しかして撮影方向が違うのかも知れません。
鼻孔縁下制術と申し上げます。鼻孔縁は読んでの如く孔の入り口のことです。通常全周が円形に近くたわんでいないのですが、円が前に傾いているか下に傾いているかは、連続性に個体差があります。前側が縁より上にある本症例の様な形の場合は、前に向いているだけでなく、鼻の孔の中の黒さがそこだけ見えるから目立ちます。だからその部分だけ鼻孔縁の位置を下に変えたい症例が稀にあります。
方法は難しいものではありません。鼻孔は皮膚で取り込まれていますが、鼻の中にも土手状の皮膚の裏打ちがあります。触ってみれば分かりますが標準的に幅3㎜程度あります。上にある鼻孔縁の部分の土手の後ろの溝を浅く皮膚だけ切開すると、皮下脂肪層があります。その浅層で皮膚を剥離して、下に引っ張ってみますと鼻孔縁が円形になります。でも当たり前ですが、離すと戻ります。ではどうすれば良いのかというと、隙間に何かを挟み込んで、手で引くのでなく移植物でおし下げるのです。材料は複合組織が適切です。
複合組織移植とは複数の組織をくっ付けたまま移植する事です。皮膚と軟骨、皮膚と脂肪、脂肪と筋膜等いろいろあり得ます。移植組織が生着するには血流が再開して栄養と酸素が供給されること必要ですから、大きなものは着きませんし、血流の良くない組織は持っていけませんし、もらう方も血行の豊富な部位が生着率が高いのです。
顔面は血行が豊富で、特に鼻は血流が良いのです。採取部ですが、耳は血行が良好で、軟骨があり硬い。だから他にも使われます。他に有用性の高い複合組織移植の適応部は数少なくありますが、割愛します。一例だけ、耳介からの複合組織移植は取りすぎた鼻翼縮小術に使われたのを見たことがあります。本症例の如くの耳介からの複合組織移植による鼻孔縁下制術は仲良しのV.クリニックでの症例を見たこともありますし、私も経験が2例あります。よく着きます。よく下がります。ご覧の様に形態的変化を達成できます。
ちなみに採取部は、鼻尖に軟骨移植する場合は湾曲が合っているから甲介部が最適ですが、皮膚も一塊に採取する際は縫合ができないです。耳介からの皮膚と軟骨の複合組織移植のドナーとしては耳輪部の後面からなら可能です。傷跡は凹凸に紛れて見えなくなります。今回は3×5㎜の大きさのものを両側分で二つ要しましたから、うまく組み合わせて5×10㎜の紡錘形に採取しました。皮膚は容易に縫合出来ました。
早くも抜糸の術後1週間が来ました。
何しろ生着率が問題なのですが、ちゃんと生着しています。皮膚は血行が不足していますが、再生します。軟骨は必要な大きさが残っています。見てわかる様に鼻孔縁がちゃんと下がっているのがその証拠です。
身体の組織欠損に対して補填が求められます。折角ですから説明します。形成外科医の真骨頂です。「いちいち難しいこと説明しなくてもいいよ!」と思われるかもしれませんが、美容オンリーの医師にはできない話題ですから・・。次回加筆します。
術後2週間です。
正面像でよく見ると、わずかに差があります。でも充分に下がっています。少なくとも前から見て鼻の孔が見えなくなりました。患者さんも理解しています。下方からの画像では、鼻の穴が四角から丸に変えられました。でも移植物が見えます。患者さんに訊いたら、自分では見えないそうです。鏡で見てもらい判って下さいました。もちろん他人から見られる方向ではないですからいいそうです。移植物は腫れています。今後薄くなります。それより何より、「生着しました。」実は術後1週間で抜糸した際には痂皮が付着していて、あたかも壊死した様に見えていました。本日見たら完全生着していました。だからサイズも縮小していません。下がり具合も保たれています。通常組織の創傷治癒反応は術後約4週間まで起きて、収縮する可能性もありますが、複合組織移植は血行が再開すると収縮が少ないのです。何しろ軟骨が入っていますから!
右からの斜位像では下がりすぎにも見えますが、組織の腫れは体積もですが、面積も増大させるからです。側面像でも斜位像でも、術前はカクッと食い込んでいた鼻孔縁が直線上になり鼻の穴の中が見えなくなっています。
今回書き始めてからずっと思い起こしていました。体表面の組織再建の種類と適応の講義です。とは言っても私がする講義ではありません。記憶を辿って三十年以上前の入局時の教授の講義です。いやカンファレンス時に叱責を兼ねての説明です。
北里大学形成外科医局ではすべての手術を、前週に術前カンファレンスします。当日の朝にも確認のためにします。翌日には報告します。10人以上の前で三重の検討です。術者に指名された通常六年目までの若い医師が、術式の適応を説明しながらデザインを描いて教授以下の講師陣に認められないと手術させてもらえません。論理的に説明できないと術者を交代させられることさえありました。10×3人の目と頭で検討するのですから、その結論は医学的に正しいと考えられます。
私が新人で入った頃六年目のチーフレジデントが、確か悪性黒色腫の手術だったと思いましたが、とにかく難しい再建術の説明を始めました。なぜか最初から植皮術の説明を始めながら、皮弁形成術のお伺いを立てようとしました。講師陣は何考えているんだムードとなりました。
すると突然、普段は講師陣に任せ切って聴いているだけで、あまり発言しない教授が、目を吊り上げて立ち上がり、講義の様に説明し始めました。私も周囲も怖い雰囲気を感じました。これを始めたら相手に対しての上から目線つまり、評価に繋がるからです。もちろんその後飛ばされました。
体表面の組織再建の適応は順を追って考えていかないと答えが出ないということです。小さな欠損ならまず局所皮弁形成術、縫縮や切除縫合も含む。面積が大きければ植皮術を要します。植皮術は分層植皮術と全層植皮術に大別されますが、採取部に限りがありますからサイズにも差があります。軟部組織まで深部の欠損の場合、植皮では陥没してしまうので、厚みのある皮弁が適応します。遠隔皮弁と言って血行を保つために茎部が繋がったまま被覆して、ベースと吻合する数週間後に切り離します。血管だけを茎にする皮弁はそのまま移行できます。さらに高度なのが遊離皮弁で、血管をつけた皮弁を欠損部の血管と顕微鏡下に吻合します。
なんか組織再建術の系統的な説明にはなっていませんでした。いつかまた、詳しく書きます。とにかく、次回生着率、つまり鼻孔縁の下制の程度が問題です。後戻りがないことを祈ります。お楽しみに!。
術後1か月は重要な時期です。何故なら、どんな侵襲の後でも、創傷治癒課程の期間で3〜6週間は増殖期で狗縮する期間です。
さて画像を診ると、わずかに収縮していますか?。術前からの画像を見比べると、術前は鼻孔縁が前外側に向かって逆V字に喰い込んでいましたが、複合組織移植で丸くなりました。今回診ると鼻孔縁が前中央に向かってわずかに鋭角な部があります。もちろん術前よりは下です。
下方から診ても、移植組織は見えなくなってきました。診察時に下から見上げてみたら、組織はあります。むしろ確認して安心しました。移植組織は腫れて厚くなりますが、やっと周囲の組織と同じ厚さになって来た様です。
右斜位と右側面では鼻孔の内外がほぼ同じ高さに保たれています。ちゃんと出来ています。
創傷治癒課程は、あらゆる侵襲に於いても標準があります。創傷の面積や深度、緊張力の差。緊張力の頻度が影響して差異が生じますが微々たるものです。
手術や外傷直後は出血します。止血機転が働き凝固しますが、血小板から溶出する成長因子がカスケード(滝:順々に流れ落ちるという比喩)を始めます。数日の出血凝固期です。どの手術後も48時間がダウンタイムのピークなのはその為です。その後成長因子が影響して炎症期となり、治す材料を動員します。毛細血管が新生して栄養を供給し、細胞は増殖し、早ければ4日目に表皮は塞がります。その後Ⅲ型コラーゲンが増殖して深部組織まで癒合するべく硬くなります。こうして強固に癒合する時期は増殖期です。約4週間はコラーゲンが過剰に生成し幼弱なコラーゲンは一度収縮します。創はコラーゲンが収縮して癒合しますが移植の場合全周性で、しかも炎症期から増殖期に移行すると移植組織は、腫脹も軽減すると共に面積も減じます。この後、コラーゲンは成熟したⅠ型に置き換わり柔らかくなります。3か月目がヤマです。
注:コラーゲンは正常の真皮層にあります。真皮には細胞はほとんどありません。格子または網目です。軟骨も骨も多くの支持組織はコラーゲンの網目の間に細胞が詰っています。細胞は必要に応じて増殖しますし遊走しますが、コラーゲンは動員されます。コラーゲンは蛋白の鎖ですが、いくつかの種類があります。コマーシャルでⅠ型とかⅡ型とか素人が言っていますよね。Ⅰ型は真皮の成熟したコラーゲンです。Ⅱ型はTVCMにある軟骨のコラーゲンです。Ⅲ型は創傷治癒機転で増殖するコラーゲンです。幼少時も割合が多いのです。つまりⅢ型コラーゲンは成長因子に惹起される時だけ出来るのですが、しっかり密に癒合させる為に収縮します。コラーゲンは常に3か月でリサイクルされ新しく作られます。よい事にⅢ型コラーゲンも3か月でⅠ型コラーゲンに置き換わるのが正常の創傷治癒課程です。だからこのブログも術後3ヶ月まで提示して経過を魅せて説明しているのです。
さて最上部にも書きましたが、鼻尖や鼻陵の改善術が求められます。最低3か月出切れば6か月待ちましょう。冬場が受け易いでしょう。その節も載せられたら皆さんの参考になりますね。でもその前に術後3ヶ月で収縮が治って鼻孔縁の形が自然になったかが楽しみです。
術後3ヶ月で画像を戴きました。
正面像では鼻孔前縁が円形となり自然です。下面像では、移植軟骨が見えます。私が、『この方向から見る他人は居ませんから、気にならないですよね?」と言ったら、患者さんは鏡を差し出し顎のしたに持っていって「こうして見るとはっきり見えますよ!。凹まないんですか?。」と仰いました。私はすかさず物差しを取り出し移植軟骨のサイズを測り「上下3㎜あります。入れたままです。だからちゃんと下がっています。誰も見ませんし、形態が印象を変えました。」手術の効果が定着している事を強調してお許し戴きました。
斜位像と側面像は術前と比較してみましょう。
鼻孔縁が喰い込んでいると、鼻をおっ広げて怒っている様に見えます。鼻筋横部という筋は表情筋で、怒長時に鼻翼を横に拡げる作用があります。そう見えてしまいます。術後の鼻孔縁はそう見えません。こうして自然な動的形態を作り出せました。
他の面も検討していきます。その際もブログ掲載に承諾が得られるかも知れません。お楽しみに!
更に術後半年でも戴きました。前から見て鼻の孔が見え見えだったのが、現在目立ちません。移植物の萎縮は止まりました。しかも定着しています。
また更に今回も下から覗いてみました。術後当初には鼻孔の前方に複合組織移植物が診られました。移植したのは耳の皮膚と裏打ちの軟骨ですが、色が違いました。白かったのでくっ付いている感がありました。半年経って診ると、赤みを帯びているため区別が付きません。鼻孔の粘膜細胞が遊走して、移植物を覆ったのです。移植物の表面に粘膜が張って同化しました。粘膜細胞は分裂能が高いのです。皆さんも知っているでしょう。口の中を切ったり、下を噛んだりしても直ぐ治りますよね。もっとすごいのは消化管の粘膜上皮細胞で、毎日の食後に、消化する度に剥がれては新しい細胞に置き換わっています。粘膜上皮細胞は強いので移植物の上に乗っかりました。
形態的にもよく出来ました。その形態が定着しました。そしてそもそも、鼻が高くないから、ジャンプ台状の反った鼻だから、鼻尖が上を向いて鼻孔縁が見えていたのですから、鼻稜の形成と鼻尖の形成が求められます。今後検討していきましょう。その際もブログ提示が出来るといいですね。
当院では、2018年6月に厚生労働省より改定され施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守しホームページに加筆を行っています。
費用の説明も加えなければなりません。耳介(耳輪後部)からの複合組織移植に依る鼻孔縁下制術は30万円 +消費税。局所のブログ掲載の契約を受けてもらえたら、出演料として20%オフとなります。
手術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。・効果には個人差があります。また、部位によってはそれほど改善が実感できないことがあります。