2020 . 8 . 14

こめかみリフトは剥離次第!

リフト手術は読んで字のごとく持ち上げることですが、他の部位と同様に切る手術と切らない手術があります。当たり前のことですが、切らない手術は糸で引っ掛けるだけです。眼瞼でも鼻でも必ず皮膚からずっこけてきますから、戻ってしまうことがあります。リフトでは昔は、溶けない糸を入れたら長持ちしましたが、かなり多くの症例で糸が露出してきたりしてトラブルを生じました。今は溶ける糸を使っていますから露出は無いにしても、当然戻ります。糸の跡が瘢痕になり保てるという説は眉唾ものです。

なお移植術は保てます。入れたものは残ります。対してたるみの皮膚を切除して引き上げても、後戻りは生じます。皮膚は術後早期にもまた伸びるからです。チェーン店では皮膚を切除して`テキトー`に縫うだけの”なんちゃってリフト”が横行しています。患者さんに聴くと、早いと1ヶ月で元に戻るようです。

そこで切開切除手術は剥離と縫合法が重要事項なのだと強弁しておきます。リフトについて言えば、皮膚を切開したら皮下脂肪層の最浅層を皮膚につけたまま同じ深さで剥離していきます。引き上げて余った皮膚を切除して、縫合します。剥離して挙げた皮膚は下面と癒着していきます。面ですからしっかり癒着してずれが少ないのです。縫合は真皮縫合を細かくぴったり合わせれば後日傷跡に幅が出ませんから後戻りを防げます。

これが切開リフトの仕組みです。それでも後戻りはゼロではありません。靭帯縫合で防げるとか、SMAS弁で防げるとか言ってもゼロにはできませんし、顔面神経損傷の危険もあります。特にこめかみ部の生え際付近には顔面神経が浅いので、絶対に層を違えてはいけないエリアです。ただし逆に、こめかみリフトは皮膚だけを頬骨隆起を超えた範囲まで剥離し、頬前のゴルゴ線の外側までをぎゅっと引き上げればかなり挙がります。鼻唇溝も伸びます。ただし申し訳ないのですが、これより前まで剥離しようとしても、顔は丸いので道具が届かないし、視野が得られません。内視鏡を使えばできますが、結局手が入りませんから止血が不能です。

症例は41歳女性。これまで幾つかの手術を受けてきました。眼瞼はよくできているます。口周りもスッキリしました。ご覧のようにJowl lift を広範囲剥離で見事に挙げた(患者さんの提案)のが見て取れます。ブログにも載っています。今回こめかみリフトを同様に広範囲剥離で行おうと提案されました。実はブログに何例か載っています。視たそうです。5年前に他院で頬前(ゴルゴライン部)に脂肪注入を受けていて、針で剥離したそうです。ハニカム化した訳です。ご覧の様に何か入っているのに線が見えて、たるみ感が見えて効果が足りないし、Jowl lift で下顔面がすっきりしたいからバランスをとりたい輪郭を呈しているます。

ならば私の得意な頬骨隆起までの剥離を加えたこめかみリフトでしっかり挙げてみましょうとプランが一致しました。

画像は、各方向の術前の術前と術直後から載せます。

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術前にはゴルゴ線に何か見えます。デザイン画で剥離範囲が描いてあります。ゴルゴ線の外側まで眼窩の下までです。術直後は腫脹で横に拡がります。皮膚が白くなった範囲は麻酔が入ったところです。血管収縮剤としてアドレナリンを含有しているからです。麻酔で白い範囲は剥離しました。デザインの範囲に一致していますよね!。

下四列には、右側面、左側面、右斜位、左斜位の順に。

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デザイン後の側面像では、切開線と剥離範囲が判ります。引き上げ方向は約45度にしますから、自ずから切開線は決まります。術直後の縫合線は生え際ギリギリです。

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斜位像や側面像では腫脹による横への広がりが見えませんから、挙がりが判ります。斜位像では鼻唇溝の浅くなったのも判ります。

術後1週間で抜糸しました。

IMG_9154正面像では腫脹に依る横への膨らみが半分減りました。

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斜位像や側面像で頬前のたるみ感がなくなっています。なお黄色いのは皮下出血が溶けてビリルビンだけが残っているからです。次週には吸収されるでしょう。患者さんに「黄疸と同じようなものです。でも別に肝臓障害でなく手術というイベントのためですから吸収されます。」と説明したら、納得されていました。

今後腫脹の軽減と共に、後戻りがどれだけ生じるかは経過を診ていきましょう。お楽しみに!

術後1ヶ月で診ました。

IMG_9723頬骨隆起部(頬の角)の腫脹が吸収されて、顔が小さくなります。ゴルゴ線は見えません。頬骨隆起部の下の腫脹も吸収されて、シュッと細くなりました。このあたりがこめかみリフトの効果としてよく解る点です。

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両斜位像でも両側面像でもシュッとした輪郭が診られます。たるみは見えません。さすがに術後1ヶ月では後戻りは見られません。傷跡はまだ赤い線が診られますが、訊くと「視てもらおうと思って、髪を引っ詰めてきました。」ですって、私「ちゃんと生え際を切っていますから、白くなれば見えないでしょう。」と言い訳しました。その点については次回診ましょう。

IMG_1795術後3ヶ月です。まだ全く?後戻りを見出せません。

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傷跡は白くなりかけています。必ず白い線になります。

ところで、患者さんが右顔面で見られる黒子の位置を測ってくださいました。画像も送って下さいました。私は思い付かなかったのですが、そういう話をしたことがありました。DSC_1794DSC_2059

左の目尻の横にホクロが二つあります。そこで傷跡から後方の一個のホクロの距離を測ってくださいました。上左図が術後2週間で3㎝です。上右図が術後3ヶ月で2.5㎝です。

なぜか3㎝が2.5㎝に縮まっています。術後経過で短縮しています。つまり手術効果が増強しています。私はこれを見せられた際に、一瞬言葉に詰まってしまいました。それではダメな医者に見られるから、数分間なぜかと考えました。考えられることとしては拘縮でしょう。そして口を開きます。「剥離した皮膚はベースと癒着する際に間の面にコラーゲンが糊の作用をするために析出します。」と説明しました。さらに「創傷治癒過程で析出するコラーゲンは最初はコラーゲンタイプⅢで、幼若なコラーゲンです。要するに糊が乾いていく過程で縮まるでしょう?。それと同じで面を拘縮させることで強固に癒着していくのでしょう・・。」とかなんとか難しい説明を繰り返して逡巡したことを誤魔化しました。

紙上で説明します。コラーゲンは日本語で膠質。膠、糊の意味です。身体の構成は上皮細胞と支持組織です。上皮細胞は細胞がシート状に引き石の様に場合によっては重層して積み重なって面を作ります。その深部の組織は支持組織です。支持組織は主にコラーゲン繊維の糸玉の間に血管と神経と間葉系細胞が詰まっています。

コラーゲンは支持組織の構成要素ですが、アミノ酸の組成からタイプが分かれます。軟骨はよくTVCMで流れている様にコラーゲンタイプⅡです。皮膚の真意層と骨は主にコラーゲンタイプⅠが含有されています。そして幼若なコラーゲンタイプⅢは創傷治癒過程で析出しますが、皮膚のコラーゲンは3ヶ月でリモデリングと言って旧いのが新しく置きかわるのですが、左の際はタイプⅢに戻ります。ちなみに幼児はタイプⅢが多いので少しずつ置きかわることで成長できるのです。

したがって、今回コラーゲンタイプⅢによって拘縮して短縮してリフト効果が増強したのですが、創傷治癒過程が進んでリモデリングされてタイプⅠに置き換わっていく過程で、どの様に変遷していくかは自明です。だって、そうでなければ後戻りは起きない訳ですから・・。

でも今回、こめかみリフトを広範囲剥離で行ったのですが、効果は高いことが証明できました。患者さんのお陰です。昨今は美容医療の知識をネットから取り入れている人が多く、「リフトに於いてははリガメントの処理はするのですか?。」と訊いてくる人さえも居ます。本症例の患者さんにも説明しました。一言「本邦ではDr. Utが唯一の術者ですが、長時間のオペでものすごく高額です。Jowl に付いては意味がありますが、私が前回行った広範囲剥離は効果が得られました。彼(Dr.Ut)もエクスパンドリフトはSMASリフトより効果があると言っていました。」「時間も掛かりませんが、手間はかかります。でも料金は普通です。」ということでコストパフォーマンスが高いです。さらに、こめかみリフトは本症例だけならず(私のブログに載っているのを視て本症例は希望しました)15年以上前から施行しています。調子に乗って説明しました。「ここだけの話ですが、昔約18年前ですが、そのDr. UtがSMAS下でこめかみリフトをしたら、見事に顔面神経を伸ばしました。治るのに1年以上罹りましたよ。ここは浅いし筋膜に密着しているから難しいのです。」「それに比べて、私の行った広範囲剥離こめかみリフトは安全で見た通りに挙がります。むしろ皮膚が癒着すれば後戻りが少ない結果を造り出せました。」口角泡を飛ばして偉そうに説明していたら外来診療が滞ってしまいました。今考えてみたら、この様に強弁出来るのは本症例の患者さんのお陰です。ありがとうございました。

もう一つ、そう言えばホクロ等があれば、リフトの距離を測って効果を確認する方法は、そのDr.Utが学会発表の際に使っていた方法です。本症例の患者さんにも教えました。考えてみれば彼は美容医療を学問的に確立しようとしていた訳です。ご存知の様に、私もいつも学問的観点から、計測したり、診察に時間を掛けたり、手術中でさえ乗ると周囲(見学医やナース)に講義を始めてしまいます。そう言えば昔父に「一彦先生!、教授!。」と呼ばれていました。私は産まれながらにして美容外科医でしたが、形成外科医局で受けた教育が、医学としての美容形成外科学を私の中で醸成しました。Dr.Utもその一人です。そうか!。今ある私は彼に多大な経験値を与えられたのです。上に書いた様に批判してしまい、すみませんでした。恩を仇で返すとはこのことですね。申し訳ありませんでした。でもこれも学問です。

さらに思い出しました。私が医学博士を得たテーマは一重まぶたと二重まぶたの構想の違いを走査型電子顕微鏡で描出しました。美容医療の学問の極みです。その際二重まぶたでは上眼瞼挙筋から枝分かれするコラーゲン繊維をも画像に載せました。私は上に説明したコラーゲン繊維を実際に目で見たことがある数少ない美容形成外科医です。これも北里大学形成外科・美容外科の医局での賜物です。その研究題材を与えてくれた前の教授は10歳上ですが、入局当時から私淑していました。今でも感謝しています。ついでなのでコラーゲン画像をアップしたいと思います。31万倍で視たコラーゲン繊維です。

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上左図はその説明で、上半分が50倍での眼瞼挙筋の走行図。注釈は英語ですが、倍率がかいてあります。上右図は二重瞼のご遺体では眼瞼挙筋から皮膚に枝分かれする繊維が描出され、一重瞼のご遺体ではそれが存在しないことを画像上証明しました。

この画像は、医学博士を取得するために今から20年前に北里大学医学部形成外科・美容外科講座で研究した結果得られたものです。論文に書いてアメリカの美容外科学会の機関紙に投稿して掲載され、北里大学の教授陣3人に口頭試問で審査されました。滞り無く答え、直ちに合格しました。

1原著と言って、各専門分野の大学病院の医師が、科学的に正しい方法で偽計が無いかを審査してから掲載する論文が3通必要です。そのうち最もインパクトファクターが高い物を主論文とします。インパクトファクターとは掲載誌が引用される数を計算した数字でつまり以下に有用性が高いかを示す値です。上記の論文が主論文です。

患者さんは大変満足されています。その結果次の別の部位の手術へと話題が進みました。もしその際も画像提示しただける際は引き続きお願いしたいところです。お楽しみに!。

当院では、厚生労働省より改定され施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守し、ホームページの修正を行っています。

施術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・抜糸までの間、鼻下を伸ばす表情はお控え下さい。・口唇部の違和感は、2~4週間程度かかります。・手術後2週間は、口を大きく開けることはお控え下さい。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、鼻孔部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。

費用の説明も加えなければなりません。こめかみリフトは40万円+消費税です。リフト手術は顔面全体を載せますから、ブログ掲載の契約を受けてもらえたら、出演料として40%オフとなります。