2023 . 5 . 25

なんとまたもや下眼瞼にアクアミッド注入されて変形。頑張って除去します。

これは大変に難しい手術なんです。やってみないと結果が見えないからです。アクアミッドは化学的名称をポリアクリルアミドと言います。つまりアクリルの一種です。アクリルウ〜、着るものじゃあるまいし、目の前にある透明の板や箱もそうですが、要するにこれらを重合してゼリー状にした注入物で、吸収されないからと、一時は称揚されて一部で行われました。いまだに使っている悪い奴も居ます。私は忌避しましたが、いわゆる非形成外科医のビジネスに特化した美容整形屋が頻用して、永久だからと広告して高額で注入しました。

非吸収性の注入物は歴史的に多くの問題を発生してきました。生体親和性がないからです。毒性の問題ではありません。体内に入れたからといって、さすがに癌化を惹起したり、内臓機能障害や、神経への毒性はありません。そんなもの使ったら犯罪です。でも非吸収性注入物は生体親和性がなくあくまでも異物で、しかも確かに永久的に残りますから、中長期的に反応して、変形をきたすことがあります。

生体親和性がないとは溶けない訳です。だからいつまでもそこに居ます。体内にいても血管内へ、または体内の他の臓器内へ移動しません。ただし、注入された局所では、あくまでも異物ですから、異物反応は起きます。細菌やウイルスなどの異物は白血球がやっつけて殺して排除します。これは免疫反応です。でも生体親和性の無い異物に対しては、免疫反応でなく、異物巨細胞に誘導された被包化が起きます。要するに、異物であると身体が認識したら、コラーゲンを動員して膜を作って、異物の周りを包みます。身体は、こうして異物と周囲との接触をなくして、体内に異物が居ないふりをするのです。

問題はこの被包化が、空間的にも時間的にも多様な態様を取ることです。コラーゲンはタンパク質で、線維となっています。私の博士論文で描出した画像を下に再掲します。コラーゲン線維を電子顕微鏡で10000倍で写しました。糸状の線維は一本が直径が訳10nano,ナノメートルです。10万分の一㎜です。線維が網の目状に造られて編まれれば膜となります。異物を包みます。さて異物はジェリー状ですから、一体にも粒状にもなります。従って被包化もお饅頭状だったり、葡萄状だったり、蜂の巣状だったりと様々な態様をとります。また外力にさらされると割れたりバラバラになったりします。コラーゲン膜の厚さや硬さも様々です。上に描いた様に、空間的にも時間的にも変化し得ます。

1960年代にシリコンジェリーが豊胸術に使われました。時間的に5年単位でゴツゴツとザクロの様になるケースが多発しました。すると皮膚を突き出す様になり、多くは痛みを伴う様になります。多くは高齢者ですから、乳房摘出術をすることになります。北里大学形成外科・美容外科でも私が何例か取ったことがありますが、一例だけ父が入れたのを取った際に、片側だけはお饅頭型に一体化していて、柔らかくて形が良いケースがありました。空間的にも多様性があります。

今回の症例では形態的に、美容的に、不満なアクアミッド注入症例です。しかも内科医が施行したそうです。これだけでも半ば犯罪行為ですが、その後巷間SNS等で、次々と問題症例が公表されました。時間的多様性として、後から変形したからです。本症例では涙袋に入れたアクアミドが、重力により徐々に被膜ごと下垂して形態が不満足となったそうです。そこで、これまでにブログに載せたことがある私が依頼されました。

症例は46歳女性。内科医?!?!で、アクアミッドを注入された患者さんです。4年前から当院に罹って簡便な美容医療を受けていましたが、当初から見えた涙袋の形態不良についても、当院の常勤医に尋ねた。手を付けたくないので、当院に月に一回程度診療にくる眼形成外科医に診せた。彼も手を付けたくないので、よく知っている美容形成外科医にかかる様に話がついた。その後そちらにも行ったが、受けてもらえなかった。

突然今年に入って再来しました。ブログに載せた症例を御覧になったそうです。非吸収性注入物は態様が多様な事。どんな形態的変化なら除去する必要性があるかも様々な事。原則的に毒性は無いはずな事。うまく再建できるかは注入時の入り方次第で、はっきり言って開けてみないとわからない事。等など説明しても、本当に難しい事のです。私は患者さんに満足いただけるか不安です。

患者さんは細かく要望します。まず二言「形が変で、むくむと膨大してなめくじ状になるのが嫌です。」私「ほとんどの注入剤はむくむと局所の水分を吸収して増量します。」上に書いた様に時間的多様性があるのです。要するに患者さんは異物が入っているのが嫌なのです。患者さん「このままでは無くならないのですよね?。」私「非吸収性で生体親和性がないからそこにずっと居ます。」患者さん「幅があります。縁にないのもいやです。」確かに瞼縁のまつ毛の下から遠い涙袋は変です。要するに経年変化で下垂したのでしょう。患者さん「ブログの症例では涙袋を丁度よく再建していますよね。」これも「でも開けてみないと判りません。」触診では一回に入っていそうです。粒々でない感触でした。私「涙袋の再建は眼輪筋を残して、吊り上げて折り畳んで丸めて造れますが、どれだけ残せるかは不明です。なんとも診察所見と説明が堂々巡りになっていますが、患者さんの、”とにかく除去して欲しい。”気持ちを汲んで、除去手術に挑む事をなりました。

画像を視ると何をしたいのか解ります。術前術後を比較しましょう。

上に術前の正面像と下からの煽り画像。造られた涙袋が幅が大きく、瞼縁にないのが変な形。下から見ると、ボッコリしています。

デザインは涙袋の下縁に点線でここまでは剥離要。瞼縁のまつ毛の生え際の下1㎜に切開線。

手術開始です。局所麻酔は1%リドカイン10万倍アドレナリン添加を片側で約1.5cc。2分間じっくり待って良く効いたら、切開します。瞼縁は眼輪筋は薄いので瞼板の前まで切開します。そこから眼輪筋の裏側を下方へ剥離しようとしたのですが、何か硬いものがあります。アクアミドでしょう。剥離層を変更して、硬い異物の前を皮膚と眼輪筋を薄く剥がしていくと、一塊になったアクアミドが棒状に存在しました。周囲を探してもあまり散っていません。

眼輪筋ごと取りました。一部はばらけてつまみ取りました。結局この部分の眼輪筋の筋繊維の隙間にアクアミドが散って、被包化は粒状ですが、筋と一体に棒状に取れました。下方に残った筋の裏側を剥離して引き上げ、外眼角部の骨膜へ縫い付けました。すると、皮膚が余るので最大(目尻の下)5㎜切除しました。トリミングして皮膚は一層縫合だけします。真皮縫合は不可です。

手術直後にはご覧んの様な形態です。正面像でもボッコリした涙袋は診られません。4方向でよく判ります。

側面像で術前は棒状。

除去したアクアミドが術前の棒状の涙袋と同じサイズです。

術直後の側面像では除去したアクアミドの分平坦化しました。

斜位像でも術前から。

入っていたアクアミドの分量。

斜位像の術直後でも除去した分の平坦化が判ります。術直後に結果を説明します。涙袋の再作製も念頭に入れて手術しましたが、「この様に今回は全摘されました。一塊になっていたのでこうなります。」と言うと、患者さん意外にも「ウワー嬉しい。これでさよならできました。」とお悦びでした。「涙袋は場合によって再建しましょう。」と希望を持たせて、「では来週診ましょう。」となりました。

翌日常勤医に診てもらい、写真も頂きました。主張は亢進していますが、内出血は少ないです。48時間がヤマですと説明してくれましたかね?。

術後1週間で抜糸しました。

聴くとちゃんと48時間からダウンタイムが解消してきて、1週間では軽快しています。抜糸時に引っ掻くので傷痕線は赤いです。下から診ても、変な涙袋は無くなりました。

上列の側面像でも、下列の斜位像でも、除去した棒状の注入物の分が無くなりました。

なにしろ上に書いた様に、手術の結果は術中に判断されますから、もう一度説明します。「結果的にアクアミドは眼輪筋層に一塊になり、棒状に除去することになりましたが、全て除去されました。ですから涙袋は再建できませんでした。」と述べた瞬間に患者さんは「良かった〜!。それなら満足です。」とホッとさせてくださいました。私念を押して「ご覧の様に異物除去術の後は創治癒が良好ではないので、引っ張ったりしないで下さいね!、開きます。」と教えて、次回は傷跡が落ち着いていることを祈りました。

術後2週間で診せてくださいました。

正面像では、「エエ〜、涙袋がある!。」それも内側が主体。ところが患者さん「傷跡が?。」と訊く。「術前に申し上げたでしょう。異物除去では創治癒が遷延します。」「傷跡が落ち着くのに3ヶ月いや、半年罹ります。」「先週診た際に心配していた通りです。」「ここなんか開き気味でしたよ。」目尻側は段差が残ります。

それよりも涙袋が見えます。術直後は無かったし、先週も無くて患者さんも喜んでいたのですが・・。患者さん「全部取りましたよね?。」一塊に取れました。逆に患者さんに「想定外ですか?。」と不思議に思われ、私「うーん取りましたが、眼輪筋が働いているみたいで、表情時に膨らみます。」「話しながらも膨らみます。」患者さん「表情が豊かだということですか?。」そうとしか考えられません。

そういえば眼輪筋は外側を骨膜に縫い上げましたから、そこは膨らみません。これからどの様な動きを呈するか興味があります。

まだ創治癒遅延の意味が理解出来ない様なので「だから異物除去は難しいのです。どこでも受けてもらえなかったでしょう?。」「昔、シリコン除去した際なんか皮膚が壊死して拘縮して、あかんべーになったことさえもあります。植皮して治りましたけれど・・。」ともっと困った症例があったことを説明し「〇〇さんの場合は一塊に取れたからまだ経過が良い症例の筈ですが、通常の手術の倍以上は罹ります。半年診ましょう。」と言ったらご理解されました。次回はさらに2週間経て少しずつ治ることを祈ります。私はだいたい経過は頭に入っています。

術後1ヶ月です。

傷痕が見える様に角度を変えて撮って下さいました。下から見ると傷跡の線がまだ溝です。上方視では外反がないか判ります。ありません。

側面像や斜位像では涙袋が見られます。眼輪筋の機能回復に伴って形態に満足されています。

傷痕の線状陥凹と発赤は異物徐去後は遷延します。でも何度も言いましたが、いずれは目立たなくなります。実際には3〜6週間は瘢痕拘縮して一度深くなる時期です。今後徐々に更に柔らかくなって浅くなります。患者さんに言い含めて理解して下さいました。敢えて言えば、この様に経過が長いから、異物除去術は他の医師は手を付けたがらないのです。

術後3ヶ月では完成に到らないのですが、来院して画像を頂きます。

この様に派手な涙袋が消失して、平坦化してそれでも張りができてスッキリしました。

もちろんどこから診ても、不自然な涙袋はなく、綺麗です。目袋は術前からありますが、釣り上げた分減っています。

近接画像を観ますと・・。

まだ傷跡が線状陥凹している部分があります。術後の画像を追っていくと浅くなっていっていますが、皮下で異物を削り取ったので傷んでいる為に瘢痕が埋まるのが遷延しています。ですから、異物除去は時間を要するのです。

次回3ヶ月後にも診せに来てもらえる様にお願いしました。

当院では、厚生労働省より改定され施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守しホームページに加筆を行っています。

施術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・抜糸までの間、鼻下を伸ばす表情はお控え下さい。・口唇部の違和感は、2~4週間程度かかります。・手術後2週間は、口を大きく開けることはお控え下さい。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、鼻孔部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。

費用の提示です。下眼瞼形成術は術式により30〜40万円+税ですが、異物除去では、本物のHamra法に準じて、40万円+消費税です。ブログ掲載の契約を受けてもらえたら、出演料として20%オフとなります。