2022 . 8 . 4

非吸収性注入物は、化学的に除去するのは不可能です。経年変化で肉芽化します。今回涙袋の変形を下眼瞼形成術で除去して涙袋形成も。

現在の美容医療(美容外科、形成外科、美容皮膚科)において注入法は花盛りです。さすがに非吸収性の物質は大っぴらには使われていません。たまに長持ちするヒアルロン酸とだまして、非吸収性物質が入れられているくらいです。ただし逆に言えば、未だにそんなことやっている悪い奴が居る訳です。数年前に乳房に使われた非吸収性物質はトラブル続出で、学会から使用禁止令が出ました。振り返れば、15年前くらいにも一時非吸収性物質が流行りました。鼻唇溝(法令線って人相用語で、美容医療の用語ではありません)に入れたら、数年で肉芽化して治すのが大変だったです。それ以前にも本世紀に入って美容外科が国民に認知されてから、時折り発売されて困った状態でした。

1960年代にシリコン注射が開発され、まず乳房にその後顔面にも注入され、悲惨な経過を見ました。吸収されないけれど経年変化でゴツゴツになるのです。当時はまだ美容整形と称していて、日陰というか、患者さんも隠れて受けるから、中々表面化しませんでしたが、他の医師に罹る患者さんが出現すると、問題が見えてきました。その中で、留学して欧米で美容形成外科,Aesthtic Plastic Surgeryを研鑽した医師達が、情報を交わして、美容整形屋を糾弾して、日本でもまともな美容医療を立ち上げようとしました。昭和30年代です。

実は私の父は胸部外科出身です。当時は結核に対して胸郭(肋骨で囲まれた肺や心臓が入った囲み)を潰すことで、肺を小さくして菌の棲む場を減らす手術=胸郭形成術が行われていました。当然乳房も凹み、片側だと服を着ていても変形が目立つので、父は治してあげたいと思い、学術誌を読んでシリコン注入をしました。確かに直後は患者さんに喜ばれました。でも数年後にはやばい!。

非吸収性注入物はなぜ良くない=悪い、やばいかを説明します。体内の皮下、皮内や体表に近い筋肉の繊維間への注入が行われてきました。体内と言っても胸腹部臓器や脳内、顔面の目鼻口や耳などの器官内には注入されません。太い血管内や神経にも刺さない様に気をつけます。つまり注入物が、化学的にも、物理的にも身体機能と生命機能を侵さない様にしています。そして体表に入れた非吸収性注入物は、永久的にそこに留まります。留まるのですが、ジェリー状の注入物は、周囲の組織に包まれます。これを被包化と言います。あたかも、異物が自分の体内に居ないと思い込むために、生体が反応して、コラーゲンが析出して、膜を造り包み込むのです。ところが入れ方にも因りますが、被包化は生体反応ですから、その態様はまちまちです。注入物が皮下脂肪内や筋体内に散っている場合、通常は注入異物を粒状に包み込みます。しかも包んだコラーゲン膜は月単位で、表面積を最小にするために収縮して、徐々に球状になっていきます。こうして皮下で葡萄状に変形していきます。形態的に悲惨な状態になります。またコラーゲン膜で包まれた異物が並んで、ブツブツになった状態を肉芽とも呼びます。収縮した被膜に包まれた異物は硬いので、周囲の正常組織を圧迫して圧痛または自発痛も伴う事があります。何とかしたくなるのですが、こうなると一粒ずつ、または周囲の身体組織も含めて、被膜ごと取らないと非吸収性異物は無くせません。

1960年代から20世紀末までシリコン注入やパラフィン等の注入が行われていました。顔面ではブツブツや重力で垂れ下がったりします。乳房では多量入れるから硬く、パッションフルーツみたいに突起状になりました。当然当たると痛いので、困った患者さんは形成外科医に罹ります。乳房内では皮膚を温存して乳腺ごと全摘するしかありません。私も数例手術しました。中でも大学病院形成外科時代に、私の父が注入した患者さんが来院して(森川で判った)、平謝りして、泣きながら摘出したこともあります。顔面では父がフェイスリフト手術を応用して取ろうとしたら、顔面神経損傷どころか、耳下腺管切開してしまい、結局私が苦労して治したことがあります。

その後今世紀に入ってからは、シリコン注射は供給源を断たれました。もし使ったらさすがに犯罪扱いされます。ところが他に非吸収性物質が次々産まれました。患者さんのニーズとしても、長持ちするものが欲しいから、美容整形屋はそれを説明なしに使うんです。アクアミッドもアクリル!の一種ですから、化学的には吸収されない物です。しかも形態は経年的に崩れます。

今回の症例は涙袋です。いろいろやっても減らないし、形態的には一部に残り下垂変形も伴いました。画像を見れば判ります。ただし涙袋を造るためですから、瞼縁に限局しているから取れそうです。幸いというか、下眼瞼形成術を使って治す方法を患者さんも見出しました。実は私のブログに何例か載っている下眼瞼形成術をご覧になって、患者さんが提案してきました。私が頻用している筋皮弁法に依る下眼瞼形成術です。方法は画像に付随して説明していきます。

症例は45歳女性。数年来他部位の治療をしてきました。当初から涙袋が内側しかないのは見えていました。一通り済んだ昨年末にこれに触れています。私は「いつか削りましょう。」と告げました。「ただしダウンタイムが長いですよ!。」とも説明しています。一回ヒアルロニダーゼを注入して、少し減って左右が揃いました。左は眼輪筋内でしょう?、いやアクアミドでしょう?。なので厚さ半分、幅半分を切除してはどうでしょうか?。外半分は筋を折り畳んで造るのが可能でしょう。等々と相談しました。

今月に入ってもう一度検討しました。昨年のヒアルロニダーゼは足りなくて、2月に他院でダーぜ0.1+0.1CCでも内側は溶けなかった。そこで話しを戻して既往歴を反芻します。20年前にTクリ.でアクアミッド?。直後に取ったが取りきれなかった。しかも傷跡が目立った。15年前に当院に罹り、池田先生が埋没法で吊り上げて治そうとしましたが、巧く出来なかった。やはり除去して自然な形態を取り戻したい。でも眼輪筋に喰い込んでいる。クマもしわもないが、筋皮弁法で吊り上げれば取れるでしょう。涙袋の幅が9㎜。筋ごと異物を切除し、一部温存して筋を外眼角部の骨膜へ吊り上げれば筋が余るから、これを折り畳み、涙袋を再建出来そうと考えました。皮膚は余剰分だけ切除する。経過を診るとこの様な手術プランが立ちました。

術前診察で確認します。全摘を目的とすると、外反の危険が生じます。内側だけあるのが変なので、綺麗にした眼瞼全長に涙袋を再建する。

画像はまず両側眼瞼部の術前後を診ましょう。

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上左図が術前、上右図が術直後。術前は、両側とも内側だけ涙袋が有るので変‼︎でした。術後は疼痛で目が開かないので、形態がよく判らないのですが、患者さんは鏡で一目見て「出来ている!。」と、お悦びでした。

IMG_1055術後9日で抜糸後の画像です。私いきなり「アアーッ!、こうしてライトが上から当たると、ちゃんと涙袋の下に影がある。僕上手いでしょ?。」と自慢げに?・・。すると患者さんも「嬉しいです。」と返してくださいました。

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上は近接画像で術前とデザイン。術前に内側だけにある涙袋は幅が10㎜近く眼窩骨縁の前までです。まるで目袋の様です。デザインは皮下剥離範囲を点線でマーキングしました。切開線は瞼縁のまつ毛の直下にあります。前回の手術痕はこれより下です。

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いきなり術中の摘出物です。ゴロゴロと取れました。筋内に透明な粒々を見つけたら筋も含めて切り取りました。上右図は術直後の画像ですが、眼輪筋を折り畳んで涙袋を形成する前には平坦になっていました。

IMG_1054学会の関係で術後9日に抜糸しました。患者さんは自然な形態が造れてお喜びです。傷跡は赤い線が消えれば見えなくなります。

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近接画像を見ながら手術法を簡単に説明します。1、睫毛下1㎜(今回は前回の手術線も切除するために0.5㎜下)を切開します。目尻を越えたら斜め下へ曲げます。2、皮下剥離は眼輪筋を全層残します。本症例ではこの時点で異物粒が筋内に透見できました。3、次に眼輪筋を全層剥離します。眼窩脂肪を包む眼窩隔膜の前です。隔膜を開くと脂肪が出てきてしまいますから、気をつけます。(3)、通常は吊り上げに入りますが、本症例ではその後摘出をします。異物の粒を包む被膜ごと削り取るのですが、結局眼輪筋を全層ではなく幅5㎜前後切除することになりました。4、吊り上げ前に外眼角の骨膜を露出します。眼輪筋弁を5㎜上で縫合します。5、吊り上げた分眼輪筋は切開線より上に帯状に余ります。骨は後にあるために目尻部は凹みますから、まず目尻より外側では折り返して埋めます。次は、下眼瞼全長に渡って余った眼輪筋をロール状にして涙袋を形成します。涙袋は、解剖学的に瞼板前の眼輪筋が表情が豊かで厚くなった人が、硬い瞼板前に押し出されて膨らんでいると考えられます。眼輪筋の厚みを造る手術法です。6、皮膚は目の前にまで広げ伸ばして、切開線上でマーキングして開瞼してもらい外反(アカンベー)や三白眼の起きない量を切除幅とします。今回は最大5㎜です。

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術後満9日の抜糸後に視ると確かに涙袋があります。目もよく開いて可愛い目元に。自然にあり得る様な形態の涙袋が似合っています。

4方向でそれぞれ術前と術直後を視ると、その形態的変化が判ります。

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上の側面像の術前。下眼瞼の前に粒がくっ付いている様です。IMG_1180IMG_1182

上は術直後の側面像。下眼瞼の瞼縁に涙袋状の膨らみがあります。左が少ないのはアクアミッドが深く喰い込んでいた為に眼輪筋を余分に取らなければならず、涙袋形成に使う分が少なくなったからです。でも涙袋の膨らみはできています。

術後9日目の側面像はDefocus でしたので割愛します。

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斜位像でも術前は内側2/3だけに涙袋があり、幅も広く、下縁が垂れてオーバーハングしてます

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ヒアルロン酸で造る涙袋でも、幅が広く、垂れてオーバーハングしたら不自然です。今時はSNSで「へたくそ1」と、書かれてしまいます。涙袋は自然に持つ人も多く、これが目標です。また自然の涙袋が加齢で垂れたら目袋になり、典型的加齢顔貌になります。こうなったら本当のHamra法が必要です。

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術後9日の斜位像では、涙袋が光っています。次回術後1ヶ月をお楽しみに!。

術後1ヶ月では形態が認識できます。

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だんだん近寄って載せます。上中顔面像でも。両側眼瞼部像でも。

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近接画像でも、涙袋らしいとお喜びです。

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側面像で見えます。

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斜位像では両側の厚さが揃っています。

術後2ヶ月弱で、他の件で来院され、画像をいただきました。IMG_1162IMG_2080

両側眼瞼部像で術前と比較します。上左図は術前、上右図は術後2ヶ月。術前は内側だけにあり変!。術後は自然な涙袋になりました。

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左右の厚さと縦幅は全く同じではありませんが、綺麗です。

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斜位像で診ると、ハイライトの感じが揃っています。次回術後3ヶ月でコメントをいただきたいと思います。

IMG_2468 2術後2ヶ月半で画像をいただきました。「涙袋らしくて嬉しい!。」とお悦びです。

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近接画像でも自然な涙袋の形態になっています。まだまだ足りなければ一回ヒアルロン酸を足してもいいかも知れません。

術後3ヶ月です。

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なにしろ術前の涙袋の形態は、一言「変!?。」でしたから術後は普通で満足です。

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敢えて、もう少し欲しければ、そろそろ注射ができます。今後の他部位の検討課題もあり、まだ診療を続けていきます。その際に・・。

当院では、厚生労働省より改定され施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守しホームページに加筆を行っています。

施術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・抜糸までの間、鼻下を伸ばす表情はお控え下さい。・口唇部の違和感は、2~4週間程度かかります。・手術後2週間は、口を大きく開けることはお控え下さい。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、鼻孔部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。

費用の提示です。下眼瞼形成術は術式により30〜40万円+税です。ブログ掲載の契約を受けてもらえたら、出演料として20%オフとなります。