2014 . 3 . 11

切る手術と切らない手術 切る、打つ、埋めるは基本 -糸について-

前に予告したように、糸の話を再開します。

切る、切らないの手術内容にこだわらずに、より良い結果とより経過の良い手術法を、検討していきたいと思います。切る切らないを組み合わせて、ダウンタイムと結果と持続性のバランスを取りながら、美容医療を受けましょう。

先に念を押して置きますが、糸を始めとした体内埋入物は、身体に対して害を及ぼす物はありません。生物学的な害=ばい菌等はあり得ないし、化学的な害=毒性のある物質などもあり得ません。この点は医学ですから、科学的にカットされています。生体が反応する異物反応=いわゆるアレルギーを呈する物は原則として使用しません。物によってはアレルギーはごく稀に起きますが、私達は使用不可とします。

体内に埋入するだけで、いやがる人がいますが、食べ物だって異物ですよ、薬だって異物ですよ。内蔵の手術をして糸で縫わなかったら、例えば胃に孔が開いて死んでしまうのですよ。体内に埋入する異物は、必要に応じて使わなくてはならない場合には拒否されない事が良策です。

本論である糸の分類。糸に限らず体内埋入物の、性状と形態です。そして、生体親和性と生体反応性が結果を左右します。

成書(教科書)でははじめに必ず性状として、吸収性と非吸収性を分けています。体内に挿入した後に、いつかは溶けて分解され吸収されるか、残存するかの分類です。糸では使い分けます。永久に残存して形態と機能を保ちたい場合は、非吸収性。体内で形態を作った後に、身体組織がその形に変化して治ってくれる場合には、組織が修復されるまでの数週間から数カ月支えればいいので、吸収性の糸を使います。注入材料では、吸収性が安全です。形態を作った際に変更できるからです。飛球修正の注入物は昔使われましたが、長年減ると身体の組織が慢性的に異物反応して、変形をきたす事があるからです。補足しておきますが、異物反応とアレルギ—反応は違います。アレルギー反応は急性(数日)から亜急性(数週間)で起きます。異物反応は慢性的で月単位です。

次に糸やその他の体内埋入物のの形状ですが、糸ではモノフィラメントと言って表面が平滑な糸と撚り糸、編み糸があります。平滑な糸の代表は、ナイロンやポリプロピレンです。当院ではもっと新しい糸も作らせていますが、まだ社内秘です。モノフィラメント糸は、表面から糸の中に細胞や体内組織が入り込まないので、身体にくっ着きません。糸が通ったところを締めるだけです。だから異物反応も最小限です。ただし身体にくっ着かないので、締めた組織が代謝して行くに従って、ずれて行く事もあり得ます。通常は最小限ながら異物反応で瘢痕が出来て、糸がずれない様に使用します。皮膚表面は顔面では1週間以内に癒合(くっ着くこと)しますから、モノフィラメントで縫って抜糸すれば、反応がないから糸の跡も付きません。これが形成外科的縫合のこつです。撚り糸や編み糸は、繊維の隙間に身体組織が入り込み、身体にくっ着きますが、表面積が大きいため異物反応が強いため、非吸収性だと慢性的異物反応が問題となり、吸収性だと所詮形態を保持できないので、現在では使われる利点が少なく、美容医療分野では、フェイスリフトの組織引き上げの補助として吸収性の撚り糸を使うくらいです。また抜糸するなら、使う事もあります。かみ合って良く締まるからですが、私達形成外科の縫合の腕では不要と言えます。

生体親和性というのは、周囲にコラーゲンを始めとした組織が出来て、身体組織にくっ付きやすい事を言います。吸収性でも溶解して吸収されて行く際にそのスペースにコラーゲンが同量生じれば、形態を保てるのし、非吸収性でも異物反応が最低限でありながら、コラーゲンが周囲を固めれば形態を保持できる可能性が高いので、生体親和性が高いと言えます。美容医療の分野では、真皮縫合(皮膚の裏の中縫い。)を吸収性のモノフィラメントで行うのは形態保持させたいからです。また、ゴアテックス等は非吸収性で異物反応が少ないのに、コラーゲンんが良く着いて形態保持力つまり生体親和性が高い材料だと思います。

生体反応性とは、上で一部述べましたが、身体が反応して良くない結果を及ぼす事ですが、反応が生体親和性をもたらす事もあるので、過去には利用されました。反応とは、生物が起こす生物に対する免疫です。無機物に対しては起きません。有機物、特に蛋白質に対して起きます。生物と言っても自家(自分)に対しては免疫は起こさないのは当然です。ただし癌細胞は自己でないので免疫が生じます。自己免疫疾患という困った病気もあります。同種(他人だが、人)に対しては免疫反応を起こす部位と無い部位があります。輸血は血液型が合っていれば先ず起きませんが、細かい型もあります。コラーゲンは人がみな同じ蛋白質を持っているので、自家でも同種でも使えますが、人からもらうのは申しわけないので、普及しません。糸として古代では、髪の毛で縫合する事が行われていましたが、今時はしませんよね。異種とは、種の違う生物ですが、進化論的に近い生物は組織蘇生が近いので、使用可能な場合があります。注入用コラーゲンは牛や豚から採取し、蛋白組成を一部改変して抗原性を無くしていましたが、異物混入があり得ました。それにBSE発見以来気持ち悪いので牛は使われません。ヒアルロン酸は、蛋白ではなくいわゆる糖質なので抗原性が無く、ほとんどの生物から採取できます。余談ですが、今は遺伝子組み換えで作られます。いずれにしても異物反応は起きません。昔ですが異種生物の糸がよく使われました。絹糸は今でも使われます。もちろん抜糸します。馬の毛、豚の腸などは見た事がありますが、使った事はありません。これら異種生物製剤は生体親和性の為に、生体反応を期待して使っていたのですが、形成外科的縫合という技術的革新と、稀に起きる激烈な反応が後遺してはいけないので今は使いません。いや使ってはいけないと思います。ちなみに化学反応で製造する有機物は、特に医療材料では、科学的に安全性が確保されています。例えばナイロンにアレルギーは起きません。起きたら、靴下はけないでしょ?!。

難しい事を並べ立てましたが、様々な目的で、様々な部位に、様々な材料を使います。念を押して置きますが、医療においては体内埋入物の安全性は確保されています。私達の携わる形成外科や美容外科と言った美容医療においても当然です。美容整形屋が医療者でないといったら、喧嘩になってしまいそうですが、一部の美容外科医は、未だに科学的に安全性が低い物を使用する場合がある様です。私達は埋入物を聴かれたら、ちゃんとした物である事を説明します。

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