2014 . 1 . 9

切る手術と切らない手術 切る、打つ、埋めるは基本

昨今、患者さんから切るか切らないかの手術法の違いの質問をよく受けます。これまで歴史上説明してきましたが、美容医療の萌芽の時代から、切る手術と切らない手術は併存してきたのですが、切らない手術を好しとする傾向から、紹介する機会も多くなったのです。池田先生のブログで、101人の名医のインタビューでも、語られています。、切らない手術がいいのではなくて、切らない手術でいい結果と持続性をもたらせなければならないという事です。今回その理由を説明します。

美容医療で求められる形態改良の方向として、足すか引くかと、挙げるか寄せるかがあります。部位別に例えれば鼻なら、もともと足りない鼻を足すとか、大きい鼻を寄せるとかが必要な形態のケースが多いです。瞼なら、挙げて目を大きくしたい、横を寄せて大きくしたい、弛んできたから引きたい、窪んできたから足したい。顔なら挙げるか、足すかです。大きい顔は引きたいのです。

話しは飛んで、もう一度、美容外科の原則をお話しします。父が、「飲む、打つ、買う。は男の甲斐性だが、美容外科の原則は、切る、打つ、埋めるっていうもんだ。」と、なんだかわけのわからないことをよく言っていたのを思い出しました。でもそうですね。上記の方向に改良する際には、①軟部組織か硬組織を切る。もちろん切れば縫う。②何かを打つ、注射ですね。昔はシリコンジェルやら、パラフィンやら、しょうもないものを打っていましたが、今は安全なものを使います。③埋めるのは固形物なら古来シリコンゴムです。今だに、これを超える固形物は開発されていません。糸も埋めるもので、これによって、挙げる、寄せることが可能です。切る、打つ、埋めるは健在です。

ところで身体顔面は、軟部組織と硬組織からできています。いきなり難しいことを言いますが、軟部組織とは、読んで字のごとく、身体の構成要素のうち軟らかいもの。硬組織とは硬いものです。具体的には、骨と軟骨は硬く、それ以外は軟らかいです。体表では皮膚、皮下組織(皮下脂肪等)、筋膜と筋体と表面から順に層構造となっていて、その内側に硬組織があります。硬組織は骨組みですから、その周りに軟部組織が張り付いて形を作っているわけです。また、神経や血管は軟部組織の中をある程度の解剖学的秩序にしたがって走行しています。

今回から数回に渉って、その軟部組織を扱う際の、[切るvs.切らない]について述べてみたいと思います。

例えば、顔面の形が加齢によって下がってきたとしたら、挙げたくなります。また、下がってきたためにその上のパートが減ってしまったら、足したくなります。これがアンチエージング美容医療の基本です。どこが落ちて、どこが、減るかは、基本的動向があります。もちろん、変化のスピードや部位に個体差はありますし、生来の形態的個体差があるのですから、どこの変化が目立つかは個体差があります。

または、瞼が弛んできた、落ちてきた。もともと被さっている一重瞼という変異を呈している。目が計数的に小さい。こんな時余ったものを引くのには、切るしかないのですが、落ちている瞼を挙げるだけなら切らないでもできます。

では、どうすれば挙がるのでしょう。切って縫うか、糸を埋めて引くかです。前者がリフト手術で、後者はスレッド(糸)リフト系です。材料や手技は様々な工夫がなされてきましたが、挙げるには、基本的にこの二つの方法しかないのです。瞼でも基本的には余分を切って縫うか、落ちた軟部組織を糸で挙げることが出来ます。鼻では、大きい鼻尖や、鼻翼を切って取るか、糸で寄せることが行われます。胸では、弛んだ皮膚を切って縫うか、糸で引き揚げることが行われます。

基本的に軟部組織は軟らかく伸び縮みするるもので、加齢によって伸びきってしまいます。また、生来の個体差や成長期の変異で、下がっている構造の場合もあります。これを挙げるのに切って縫うか、切らないで吊り挙げるかの選択肢があるのは、それぞれに一長一短があるからなのは、自明ですよね。そこを説明するのが今回のテーマです。

一言で言えば、ダウンタイムと侵襲vs.効果と持続性の損得勘定です。もちろん対価としての費用対効果も考慮しなければなりません。

切る手術では、ダウンタイムを要します。腫れ、内出血、術後の創の経過観察です。どの手術でも切れば、ゼロにはできません。あとは程度問題です。しかし、効果と持続性は、担保されます。

リフト手術では、何㎝挙げれば、何年分若返った感じになるかは確定されます。もちろん加齢は止められないので、また伸びてきますが、例えば5年分挙げたら、いつまでも5年分若く加齢します。

50歳の人の瞼の皮膚は、25歳からの25年で平均的には約5㎜伸展しています。これを5㎜切除すれば、若いときの目元になりますが、そこからの加齢は生じる訳です。この効果は絶妙で、しかも瞼の形態は開瞼という身体機能を反映するので、本当のアンチエージングとなります。

切らない手術では、ダウンタイムはないと言っていいものが多く、少なくとも、生活に支障を来さない程度なのが通常です。まれに、ちょっとした腫れや軽い内出血がありますが隠せます。これが、大きなメリットです。糸をかけるだけなら時間的にも短縮できるので、通常費用も低いのです。

切らない手術でも効果は得られるなければならないのは、当然です。程度はものによりますし、むしろ変化の少ない方が、バレ憎いから受けやすいというものです。しかし持続性にはばらつきがあります。スレッドリフトは永久性はないのですが、年単位の持続するケースもあります。重瞼術の埋没法や切らない眼瞼下垂手術は永続性を保つケースも多いです。切らない鼻翼縮小術は提示した通り、後戻りはしますが、その後の年単位の保持はされます。

何故、持続性に差が生じるのかを説明しましょう。切る手術は傷跡を作る手術です。傷跡を瘢痕と言いますが、私達美容形成外科専門医の手術では、表面に目立つ傷跡ではありえません。瘢痕を軟部組織のある層に作ることです。フェイスリフトと重瞼術を、もう一度先程の硬組織の骨組みと軟部組織が形を作るという観点から考えてみます。

フェイスリフト:顔面骨はほとんど加齢による形態変化がありません。しかしそこについている顔面表情筋群は、緩みます。当然その外側にある皮膚、皮下組織は緩み、重力で下がります。だから、挙げたいのです。そこで筋(筋膜)を縫い縮めて骨にフィットさせることと、皮膚を一度剥がしてから位置を挙げてその下層の組織に癒着させるのです。挙げた位置で面に瘢痕を作らせるのです。これなら、ずれません。フェイスリフトは、加齢でずれてきた構造をもとの位置に戻してくっつける手術なので、戻らないのです。

切開法重瞼術:まぶたは眼瞼挙筋が、開きます。筋はもちろん目の奥(眼窩)の骨についているから挙げられるのです。挙筋が瞼の瞼板を挙げる構造と皮膚を挙げる構造があり、皮膚に付着していないのが一重瞼なのは、これまでにも説明してきました。それでは、目を開ける際に皮膚が挙らないので満足な開瞼が得られないのです。つまり、機能的損失なので、改善が求められるべきなのです。そこで、挙筋と皮膚を連動させる構造を作りたいのです。切開して、挙筋を露出して、これと皮膚の間に瘢痕を作るのが、切開法重券術です。念を押すと、切ってそこを縫えば瘢痕が生じます。これが自然に存在する二重瞼と同じ構造になるのです。結局言える事は、自然なあるべき姿である構造を取り戻すのが、切開法重瞼術だと言えます。

オッとここで、余計な事ですが、興味を引いた点を紹介します。残りは次の次に続きます。

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