2023 . 5 . 5

何だか解らないけれど、鼻唇溝の内側に長年ある傷跡。無くしたいのですが、切除縫縮したら変形しそうなので、皮弁形成術を施行。患者さんも知っていました。

私、形成外科医としては大卒後入局して34年、美容外科医としては当初から父のクリニックでアルバイトを始めて33年になります。ですが、だから上手だとは自負していません。ただし、臨床経験は豊富ですから、いろいろな診療が出来ます。でもさらに言えば、多くの患者さんは医師の質と専門分野を知りません。近年はインターネットやSNSで画像を視られるから、結果は知り得ますが、中長期的経過は掲示していないことが多く、例えばなんちゃってリフトやプチ整形などでは持続性がないばかりか、跡が目立つのを隠すクリニックが横行しています。私がブログで提示している症例は3ヶ月の長期的経過を載せますから、明らかに長持ちしているにを観て、皆さん信頼して来院されるのです。最近ブログを観て来院した患者さんにも感動されています。

患者さんが診療科目を理解していないと、美容外科(ましてやビヨーセーケー)と形成外科の違いも知らず、説明に終始しなければならないことがあります。ただし両者共、目に見える形態と機能の改善を目的としています。違いは原因のある傷病の場合は形成外科医療の対象で、正常者の形態を改善するのが美容外科です。上に書いた様に私は両者を長く経験してきました。日本形成外科学会と日本美容外科学会,JSAPSの両方の専門医を持つ医師は、日本で100人程度しか居りません。

出来物を取るのに、綺麗に出来そうだからと間違って美容外科クリニックを訪ねる人が後を絶ちません。かと言って美容外科の診療経験がない形成外科医は美容的素養に乏しく、美しさの基準を知り得ません。確かに腫瘍を摘出するにも、美容的に損失を作ってはいけません。だから再建術が必要なのです。なんだか解らなくても皮膚病変が残存し、切除が求められる場合、変形をきたさない様に手術するべきです。切除部は欠損しますから、単純に縫合したら、変形する可能性があるなら再建術を要します。とか言っても、その分野は形成外科医の独壇場です。

まず第一に、縫縮ができるかです。摘んでみて変形の程度を見ます。周囲の臓器や顔の部品に変形をきたす様であれば、再建術が検討されます。主に二つ、植皮術と皮弁形成術です。前にも書きましたが、他科の医師は皮弁という言葉さえも知りません。非形成外科の美容屋もです。ちなみにこのブログのシリーズ中に2例の植皮術の症例が載っています。詳しい説明はそちらで。

皮弁とは、読んで字の如く弁状の皮膚です。弁とは心臓の弁のように一部が身体に付いたまま大部分がベロベロ舌みたいに浮いている状態です。欠損した皮膚を埋めるために移動させるために作成します。一部が付いている必要性は血行を保ったまま移動させるためで、顔では付いている茎部の幅が、長さの半分あれば血行が足りるとされます。皮弁は通常、血管が豊富な皮下脂肪層まで持ち上げます。皮弁を持ち上げた部分は欠損になりますが、いろいろな方法で閉じます。また、元の欠損部は顔の部品の変形を避けて、皮弁のドナーは顔の部品から遠ければ変形が見えない訳です。

今回の皮下茎皮弁は、皮膚を皮下脂肪層まで周囲を切開し、その深部は体に付着させておいて血行を供給する方法です。特に顔面は血行が良好なので、表情筋やSMASから穿通する血管が豊富ですから栄養が足りるのです。特にV-Y型皮下茎皮弁SPF,Subcutaneous Pedicle Flapは、欠損部へスライドするので、移動距離が欠損部の直径に等しく、皮弁での欠損が少ないので、まず変形を来たさないのが特徴です。ただし皮弁周囲を切開していますから、創傷治癒過程で、周囲の円形に近い瘢痕が拘縮すると、一度皮弁が盛り上げられることがあります。瘢痕拘縮は解消しますが、数ヶ月を要します。

詳しい説明は症例の画像を視ながらにしましょう。

症例は34歳女性。本症例の出来物の内容は解りませんから、病理検査の結果を待ちましょう。でもいつまでも治らない見た目に目立つ部位ですから、とにかく患者さんは困っています。今回は、変形を避けるために、V-Y SPFでの再建となりました。では初診時の相談内容を書きます。10年前から同部にニキビが有って、化膿巣を繰り返していました。その跡にアイスピック状の孔が残っていました。今年1月に押し出そうとしたら、跡が拡大したそうです。診察時に、患者さんがいきなり取って欲しいと言い、ブログを観たそうで「皮弁形成術ならできますよね?。」と訊いてきました。私慌てて「それ載せたの随分前でしょう?。」「今視られないけれど。」と言うと、患者さんはスマフォで見せてくれて、「これ綺麗ですよね。」とお褒めに預かりました。しかも余診票にも菱形皮弁と書いてあります。私困って「この部位に菱形皮弁をすると曲がりますね。菱形皮弁は無理だけれど、V-Yなら出来ますね。」専門的に菱形皮弁は転位皮弁で、V-Y SPF皮弁は前身皮弁だからだと説明しようとしても、難しい話は飲み込んで、顔の前でシミュレーションを始めました。診察初見はこれだけです。病変の大きさは6㎜でした。

術前に念を押して、病変の経過をもう一度聴きました。切除するべき理由を明記したかったのです。何回も化膿したし、孔は10年消えない。弄ったので酷くなったそうです。やはり切り取るしかないでしょう。鼻翼基部と口角からの距離からして変形をきたさない手術が出来ます。

画像は正面像の術前から。

小さくても治らない傷跡。もしこれを鼻唇溝に並行なスピンドルに切除して、線の創にすると赤唇縁が斜め上に引っ張られてしまいます。そこでV-Y SPFをデザインしました。ここで横方向に少し寄せても口唇も鼻も引っ張られません。

上左図は出来上がり。仰臥位でしたから、口角の位置が不明です。上右図は座位で撮り直しました。ご覧の様に口角の位置は左右対称です。

下図からは近接画像で手術の説明です。

傷?は、上左図の様にアイスピック状の孔があり、周囲が瘢痕状で赤黒く、ドーナッツ型に膨隆しています。上右図の様に直径は約5㎜です。

デザインです。まず傷を囲みました。皮弁の長さは切除の直径の2倍は必要です。切除部の外下と内上は追加切除します。したがって皮弁は若干回転しながら斜め下にスライドしていきます。これをOSSP flap,Oblique Sigmoid Subcutaneus Pedicle flapと言います。訳すと斜めS型皮下茎皮弁です

上左図は切除と同時に皮弁周囲を切開しました。それから皮弁をスライドしていきます。皮弁周囲を少しずつ深く切開していきます。上右図は途中です。この部では皮下脂肪層が厚く口輪筋は深いのですが、皮下脂肪全層まで切開しませんと、フックで軽く引いても届きません。

上左図で欠損部に届きました。よく解らないかも知れませんが、皮弁周囲の赤さが上上右図よりも赤黒いのは筋層が透けて見えるからです。だから皮下脂肪茎に乗った皮弁が動いたのです。上右図は縫合後。真皮縫合は13針は掛けて、皮膚は3箇所の停留所縫合の他は連続縫合です。

出来上がりの皮弁はデザインと変わらない長さ10㎜で、鼻側は線で縫縮しています。その長さは欠損部の直径と同じ5㎜です。完成増は逆Y型ですが、私は良く、テニスラケット型または羽子板型と教えます。

さて完成像は術後に傷跡が目立たなくなるまで診ましょう。術後1週間での抜糸後です。

なんでもそうですが、抜糸の際に糸を探ったり、引っ張ったりして皮膚も擦るので傷跡が赤くなります。しばらくは瘢痕は赤いのですが数週間後から肌色になります。

近接画像で左からでは皮弁がむしろへこみ気味です。右から見てもフラットに見えます。

次回は術後1ヶ月でかなり目立たなくなっている事でしょう?。お楽しみに!。

当院では、厚生労働省より改定され施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守し、ホームページの修正を行っています。

施術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・抜糸までの間、鼻下を伸ばす表情はお控え下さい。・口唇部の違和感は、2~4週間程度かかります。・手術後2週間は、口を大きく開けることはお控え下さい。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、鼻孔部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。

費用の説明も加えなければなりません。保険診療では点数性で、手術により決まっています。皮膚腫瘍摘出術は露出部で直径2㎝以下では1660点です。皮弁形成術等の再建術は少ない併施で算定できる手術です。25㎝2未満の面積の皮弁形成術は4510点です。患者さんの自己負担は点数の3倍ですから、18510円ですが、他に病理検査費用等や薬剤費や診察料が加わります。