日本形成外科学会が認定する専門医の意義と形成外科医学教育の卒後研修の内容
医療は細分化し、標榜科だけでも今や24科、標榜の認可がまだ無い専門分野も入れれば数限りない科目があり、研究会を主宰しています。現在、厚労省が学会としての外形基準を審査し、医療における各専門分野を、国家レベルで認定し、保証はしませんが、より安全だと公示しています。さて専門医はどういう医師なのでしょう?。
私は、日本形成外科学会認定医です。ですから、形成外科専門医の認定法については知っていますが、他は知りません。私は好奇心があるので、他科の医師とのコミニュケーションで、聴いた事はあります。詳しくは知りませんが、おおむね似たレベルだとの印象ではあります。
私は平成7年に、日本形成外科学会認定医試験を受けました。北里大学を卒業して、即入局した北里大学形成外科では、6年の卒後研修の後に、認定医試験の受験資格を得られます。何が資格として必要かと言いますと、症例と知識の蓄積です。どれほどのものが求められるのでしょうか?。
認定試験には三つの関門があります。①;経験症例の書類上の提出。といっても二種類あり、⑴治療に携わった50症例。手術者は自分でもチームを組んだ上級医でも可。術前術後の診療に汗をかいた為、手術を含めた診療法を学ぶ事ができたという事です。⑵自分が手術計画を立て、それを、上級医にプレゼンテーションして、OKを得て手術した10症例。ビフォーアフター写真だけでなく、3ヶ月後の写真をも提出します。形成外科に於いては、形態の改善が求められる訳ですから、画像が医療レベルを示すと言え、社会的見地からしての価値が高いと考えられます。なお提出症例は11の分類をまんべんなく、偏りはないことになっています。②;マークシートによる筆記試験。形成外科診療の専門的知識を求められます。予め問題集が得られ、必要な知識範囲が網羅されていますが、臨床的に6年の研修を経験しても全ての症例を経験できる筈は無く、知識としては教科書を見直さなければ頭に入りません。私は、試験の一年前から、400ページもある問題集を1ページから解き始めましたが、エッ、これ見た事無いし、経験をしてもいない。この答えはホント?、と悩み、教科書を確認するのでした。当時、形成外科の成書=コンセンサスを得られている医学的常識を網羅した本は、5冊しかなく、これを次々にめくって確かめた上で知識として蓄積していったものです。毎日診療を終えた19時から最低1時間は勉強しました。(ちなみに当時診療していたのは、今話題の徳洲会の茅ヶ崎病院でした。忙しかったですよ!)③;10症例を題材に3人の審査員から口頭試問を受けます。今でもこのお三方には感謝しています。当時杏林大学形成外科の尾郷教授、慈恵医大形成外科の新橋助教授、愛知医大形成外科の青山助教授の3人の先生です。今でも学会で毎年話します。内容もだいたい覚えています。顔面骨折の手術に置いて、気管切開を要する症例とその目的との質問には、明確に答えられなかったのですが、新橋先生が答えに誘導してくれました。耳下線腫瘍の分類と手術法を聴かれ、自分の経験した症例だけを説明したら、じゃあ何故その手術法が適切なのか答えなさい!。と専門家の尾郷先生につっこまれ、「教科書的に正しいと考えたからです。悪性かも心配ですし。」と答えたら、「違う、多形性だから、耳下線を取らなければ再発するからでしょう。」と微妙な指摘をされて、点数を下げました。最終的には合格となりましたが、頭の中に貯めた知識を絞り出される様な1日で、ドキドキしたのは、今でも甦ります。
認定医資格はかくも過酷な試験に合格して得られるのです!?。レジデントは不勉強だと、教授をはじめとした上級医の許可がでないので、手術もさせてもらえません。6年間フルタイムで形成外科医療に携わり、難しい教科書や学術論文を読みこなして知識を持ち、その上で症例をたくさん経験なければ、受験資格さえ得られません。
認定医とはいい加減な基準ではなく、医者として当然の、あるべき卒後研修を受けた結果で得られる個人の能力を学会という、国家的ではなくてもその分野ではもっとも信頼の置ける集団が認定する機構です。
美容医療の両輪である、形成外科においても、美容外科においても、医師の卒後教育が診療の質を担保する事になるのは、自明ですよね。その限りに於いて、美容外科クリニックに卒後新人で就職すると、公的に、学問的に、科学的に、医師としてのあるべき能力が得られる筈がないのは、お判りになれましたか?。
今回長くなりましたので、認定医の基準をお示ししたところで回を終えます。続きとしては、認定医という目標に向かう卒後研修の内容を述べていきます。