2013 . 12 . 6

腋臭症(ワキガ)と多汗症(汗の臭い)Ⅲ

今回は長くなったので、二回に分けました。

やっと手術法の説明となりました。多く分けて四法あります。でも私は脇臭症の診断の下には、剪除法しかしません。一応術式を説明します。

①切除法:20年前までは行われていました。皮膚ごと切除するものですが、酷い跡、多くは運動制限を伴います。もちろん取る範囲を小さくすれば、脇臭症は治りもしません。今はこの手術をする医者はいないでしょう。

②超音波法、吸引法:小さな穴から吸引管を入れ削り取る、さらに超音波で砕いてから吸い出す方法。頑張ってまんべんなく取ろうとするのですが、何ぶん見ないで取るので、残る。部屋を掃除するのに、一カ所に突っ立ってする様なものです。特に穴から遠いところはまばらになります。また超音波を長く当てると、やけど状態になり皮膚が痛み傷跡になってしまうので、作用しない部位ができてしまうのです。なんと言っても、傷が無いに等しい事はメリットですし、機械に任せるので短時間で終えます。でもアポクリン汗腺の除去率は吸引で50%、超音波法では70%を越えません。

③皮下組織削除法:いわゆる”イナバ式”という方法です。小さな傷からカミソリの様な刃を入れ、皮膚との間で挟んで、残す皮膚の厚さを調整できる機械で、削るものです。アポクリン汗腺は深いので調整があっていればうまく行きますが、何ぶん皮膚の厚さは個体差があり、医者の方もできるだけとってあげたい気持ちがあるので、皮膚を薄く削ってしまいがちです。植皮状態となるので、圧迫を要します。術後に糸でガーゼを縫い付ける必要があります。これの跡が広範囲で目立ちます。また植皮はツルツルの皮膚になります。見たらすぐ判る跡です。どうしても100%の除去をしたい人にはお勧めします。私はしません。

④剪除法:保険規則には皮弁法と書いてあります。保険適応の方法です。もう一度説明しますが、脇臭症手術の保険治療の適応者の但し書きには、社会的に支障があると判断された者に適応されるとされています。法律の判りにくさの典型ですね。汗は誰でも書くのですが、アポクリン汗腺が多いと特有の臭いを呈す可能性が高いので、社会的に支障がないとは、アポクリン汗が減って脇臭症を呈さない様にする事と読めるのですよね。ならば、社会的に普通になればいいという事ですか?。つまり非脇臭症体質の人のアポクリン汗腺量まで減らせば、普通になり得ると考えていいのでしょうか?。難しい議論ですが、私は90%の除去をする事が必要だと考えています。つまり、非脇臭症体質者に比べ、脇臭症体質患者はアポクリン汗腺を10倍持つのでこれを10分の1にすれば普通となると考えるしかない訳です。90%除去とはここに根拠があります。

コンセプト(能書き)はここまでとして、剪除法を手順を追って説明します。通常片側ずつ行います。腕の安静を要しますから、両側では生活に不便をきたすからです。もちろん局所麻酔でできます。当院では世界一細い35ゲージ針(0.15㍉の細さ)でしますから、くすぐったいくらいです。さらに特殊な管での注入で脇毛面を麻痺させます。脇のしわに沿った横方向の切開を一本します。長さは、脇毛の範囲の幅まで要します。個体差がありますし、性差がありますが、3~5㌢です。そこから、脇毛の範囲の皮下を剥離します。脇の皮膚の裏は、脇窩筋膜というコラーゲンの膜と柱の様なコラーゲンの束で止めてあるのですが、これを切ります。いい忘れましたが、アポクリン汗腺の存在する範囲は脇毛の生えている範囲です。深さは真皮下、皮下脂肪は個体の多少差が大きいのですが、その上です。するとアポクリン汗腺は皮膚の側にぶら下がった様にくっついています。剥離した皮膚はポケット状になっているので、裏返せます。するとアポクリン汗腺は見えます。脇臭症体質者では、まるで起毛絨毯の様に並んでいます。しかし、ここで止血が先行します。皮膚への血行は深部から立ち上がる細動脈の穿痛枝が所々にあり、剥離時に切れますから、これを電気メス(バイポーラーというピンセット状のもの)で焼いて塞ぎます。出血が止まってやっと、ポケットを裏返してアポクリン汗腺を取るぞという気になります。ところで皮膚は、皮下毛細血管叢という皮膚面に平行な真皮の下の血管が文字通り網目状に走り、これからの血液が皮膚を栄養し生かします。ですからできるだけ、これを傷めない様にします。アポクリン汗腺はその下にありますから丁寧に取ればいいのです。アポクリン汗腺は柔らかく、皮膚への導管は細いのですが硬いので、これを「シャキシャキ!」感じながら鋏で切っていけばアポクリン汗腺は取れます。予定した範囲を除去し、もう一度奥まで確認します。この時点で90%取れたら、「取れた!。」と叫びます。残りが多かったら、「ちゃんと取ります。頑張ります。」と、言いつつ続けます。ポケット状の皮膚を裏返すのは結構疲れますが、90%除去の予定は変えませんぜ!。「ヨシッ!。」っとなったら息を抜いて、もう一度止血を確認して、皮膚を戻します。縫合は真皮縫合を3〜4針しかしません。別に皮膚を切除している訳ではないので、充分です。そのかわり脇窩筋膜にも縫い付けます。その上で皮膚を密に縫って、場合によって浮いた皮膚を脇窩筋膜にアンカリング(アンカーとは留める、終えること。船の錨は停める。駅伝での最終走者は終えて留める人、テレビニュースでのアンカーは視聴者を留めるという意味と同じ。)これが効きます。念のためドレーン(シリコンの幅3㍉の細い管)を挿入して手術を終えます。ガーゼを2〜4枚当てて、脇窩の凹みを埋めて、その上からテープで抑えます。

実はこの手術は、術後が大事です。そもそも凹んだ脇窩、窩とは凹みです。ここから皮膚だけはがして浮かせるので、これが下の凹みにくっ付いてくれないと困る。もし皮膚が浮いたままだと、空洞になってしまいます。するとそこに血液や、体液が貯留してしまいます。一度スペースができると池の様になり、いつまでも溜まります。ですから初期にくっ付けたいのです。その為にガーゼとテープで押さえ付けます。しかも、抑えていても脇を挙げると浮いてしまいます。安静が必要で、腕と身体の軸を45度以下にしてもらいます。つまり、腕を上に挙げられません。生活に支障があります。ですから片側ずつ手術しましょ。でないと日常生活では、選択も干せない。電灯の紐は持てない。棚の上のものを取れない事になります。繰り返しますが片側なら生活はできます。経過次第ですが、2日後にドレーンを抜く為に来院して頂くのですが、その後は通常90度までの運動が可能な事がほとんどです。抜糸は1週間目です。その際キズが完全に閉じてなくても心配ないです。脇は血行がいいので必ず治ります。むしろ、90%の除去をすすと、傷の治りは遷延します。美容外科形成外科学会のベテランの医師の間の議論では、「開かない様な手術は結果として取れていないから患者にもいけない。」とのコンセンサスがあります。私は結果重視でその説に沿った手術をしてきました。

今回切々と述べた脇臭症の論議は科学的に正しいとされていますが、未だに多汗症と脇臭症の区別さえいい加減で多汗症患者に脇臭症手術を薦める美容形成外科医がおり、無駄な医療が行われている状況、さらに言えば儲け主義なチェーン店が横行しています。

今回のブログをまじめに読むと、1時間はかかるでしょう。もし同時にこれだけの診療をすれば、30分では終わりません。ですから、受診前にある程度知識を入れて下さい。正しい脇臭症診療=診断と治療が、本邦での可哀想な20%の患者さんに、そして国民の保険費用が適正に費やされる事を望みます。

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