2013 . 11 . 22

腋臭症(ワキガ)と多汗症(汗の臭い)Ⅰ

汗:人間は恒温動物ですから、汗によって体温調節しなければなりません。ですから、汗は人間らしさの特徴であります。体内で産生したエネルギーのうち余分を排出する。外界から熱エネルギーを受けても、体温を上昇させないようにする。その時熱い汗を出し、蒸発させて気化熱を奪うことで熱エネルギーを排出する。これができないと高体温となってしまいます。近年、毎年夏になると話題になる熱中症。昔は熱射病と言いました。高い温度にさらされ続けて、汗での体温調節ができないか、汗を出し続けて脱水になる状態。体温が上昇すると、脳は簡単に壊れはじめます。悪化すると死に至ります。

つまり発汗は人間にとって大事な生命維持機能なのです。しかし、臭いを伴います。水だけでなく、有機物を含むからですが、その割合は体内の組成により個体差が大きいのです。皮膚表面の物質が溶融するためこれにも個体差があり、同時に環境から付着する物質により臭いが変化することさえあります。

個体差があるのですが、汗のにおいは質よりも量で左右されます。これが、多汗症の問題です。

これに対して遺伝的に、アポクリン汗腺からのにおいの強い汗が多く出る体質。この質的問題を伴う人が腋臭症です。

大事なことですから、頭に入れておいてください。多汗症と腋臭症は違います。でも多汗症に腋臭症は含まれます。

多汗症は単純に汗の分泌が多いと感じる人。または汗の出る場面が体温調節に限らないで、いわゆる“ヘンな汗”が(=アポクリン汗腺からの汗をいうのだと思います。)多い人も多汗症と捉えられていることも多いです。先程の体温調節機能のための汗は、ほとんどエックリン汗腺から出ます。エックリン汗腺は体表のほぼ全面に存在しますが、やはり脇や体幹に多く存在します。何故脇なのかというと、体温とは血液の温度です。腋は太い血管が皮下を通っているから、皮膚温が体温を反映するのです。体温計は脇で測るでしょ!。だから、熱を発散させる汗腺も多く存在するのです。でも同じ気温でも、発汗の多い人とそうでない人がいます。多い人が多汗症とされます。はっきりした定義はありません。多い原因は何か?。

一つには体格差です。体格が大きくなると、体内エネルギー産生は身長の3乗分増えます。でも体表面積は2乗分しか増えません。だから相対的に、狭い体表から多くの汗を出さないと調節できないのです。縦の長さだけでなく横の長さにも同様の比が成り立ちます。だから、肥満者は汗っかきなのです。この点については別の問題もあるので、またの機会にします。

実はもうひとつ、より大きな差異の原因は神経にあります。汗は体温調節と言いましたが、神経反射です。体温が高くなるのを感じるのは脳です。延髄にセンサーの中枢があります。ここから、自律神経のセンターに信号が流れ、副交感神経が興奮すると、末梢の血管が開くと同時に汗腺が汗を出します。ところが、他のルートもあり、交感神経の興奮でも汗は出ます。いずれにしても、脳の反応ですが、この反射機構の反応が強すぎる人が、かなり多く存在します。いわゆる自律神経の調節障害の一種です。さて脳から出た信号は脊髄から末梢に流れ、末梢神経からの信号が汗腺から汗を出させます。ですから、反射経路のどこかで信号伝達を弱めれば治ります。

自律神経の調節障害には、いわゆる神経の薬が効きますが、ほかの作用もあるので、多汗症だけのためだけに使用することはためらわれます。脊髄から出たばかりの神経を選択的に遮断する手術は、確実に身体の一部の発汗を抑えられます。手と脇の多汗症を治すその手術は数年前まで流行ったのですが、代償性発汗がきつく、すたれてしまいました。

末梢神経を局所だけ遮断するボツリヌス菌薬は副作用もなく、腋だけに関して言えば著効します。私は14年来治療に携わっています。実はその時私が、日本で初めてこの治療を導入して学会発表したから、普及したのです。みなさん大変喜ばれますが、薬が高いので、万円単位の費用が掛かります。そしてこの治療は長くて1年しか持ちません。でも通常夏場に症状が出る訳ですから、年に一度治療すれば、快適さこの上ない様です。毎年訪れる患者さんが多くいらっしゃいます。

さて腋臭症とはなんでしょう?。ワキガ体質と言っておきます。アポクリン汗腺からの汗は有機物を多く含んでいます。タンパクや脂肪分です。そしてアポクリン汗腺からの汗が出る目的は、体温調節のためだけではありません。

アポクリン汗腺は本来哺乳類にとっては、大事な臓器です。フェロモンです。個体間で、特に異性間で臭いで認識し、誘導するための匂いなのです。哺乳類は、微妙な匂いの差を個体間で感じます。ところが人間は臭いに鈍感なので、退化してしまいアポクリン汗腺は腋の下にほとんど集積しています。ところがさらに、人間では、突然変異でアポクリン汗腺の発達しない遺伝子が出来ました。東アジア人に特有の遺伝子です。前に述べた一重瞼が生じた話しと似た原因です。東アジアの大部分で氷河期に、アポクリン汗腺からの汗が(寒くても精神的神経的興奮で出ます。)多い個体は、身体が凍結してしまうために多くは死滅し、突然変異でアポクリン汗腺が10分の1ほどしか作らない遺伝子を持つ個体が東アジアを席巻したのです。

日本人の中で80%の人が、アポクリン汗腺を少なく成長させる遺伝子を持ち、20%の人がアポクリン汗腺を普通に成長させる遺伝子を持ちます。後者が腋臭症体質です。成長というのは思春期以降に第二次性徴としてできてくるからです。第二次性徴とは性的発達のことですよね。毛、陰部、体形、顔付き、その他男性女性の差が出来てくる成長を性徴と言いますよね。アポクリン汗腺は先程も述べたごとく性的臓器ですから、当然に思春期以降に発達します。ですから、腋臭症の遺伝子を持っていても、思春期前にははワキガを呈しません。

東アジアに発祥した、このアポクリン汗腺が発達しない遺伝子は、いわゆる黄色人種に留まっており、純粋な白人や黒人には混入していません。従って、彼らはみなアポクリン汗腺が多いままです。それが、普通の人類なのです。むしろ、東アジア人は、人類から見れば特異体質なのでしょう。

間違っているかもしれませんが、日本人は、セクシーでない。またはセクシーを嫌う。または性的な話題を嫌う。これはアポクリン汗腺が成長しないのと、関係していると思います。匂うような色気がない人がほとんどなのですから、当然かもしれません。これも間違っている観点かもしれませんが、逆に言うと日本人でも腋臭症体質の人はセクシーな(私は男性なので特に女性に対して)人が多いように思うのですが???。

但し、腋臭症遺伝子を発現している体質、つまりアポクリン汗腺からの汗が10倍多く分泌するからといって、必ずしもにおいがきついとは限りません。アポクリン汗腺からの汗は有機物を含むので、確かに若干の特異的な匂いを持つものです。でも、純粋なアポクリン汗はむしろ、甘い匂いです。

アポクリン汗は有機物=栄養が豊富なので、細菌の繁殖を促進してしまうのです。非腋臭症体質の人に比べ、10倍の栄養があるのですから、細菌はよろこんで増えてしまうのです。その細菌は皮膚常在細菌といって、そんじょそこらに居る奴の中で皮膚に居る奴で、誰にでも宿す可能性があります。腋臭症体質の汗は栄養が豊富なので、その細菌は繁殖してしまう事が多いのです。洗っても毛穴や汗腺に隠れていて消えません。細菌が有機物を摂取し、分解し、排出する物質が大抵臭いのです。

こうして、腋臭症遺伝子を持つ、腋臭症体質となった、アポクリン汗腺からの汗が10倍多い人は、臭いに悩む事になるのです。残念ながら、東アジアの一国である日本では、この状態はマイノリティーなので、社会から忌避されてしまいます。そこで私達に治療が求められるのです。

先ず言っておきます。腋臭症手術は国が保険治療を認めています。人口の2%程度の生活保護を問題にしている政府が、人口の20%も存在する腋臭症を保険適応にしています。何故かと言えば、受けるのが面倒だからです。本当は職場や社会で、周りの人が困っているので治療を進めるべきなのに、先程述べた様に、こうゆう分野には触れないのが日本人の特性なのです。社会的に治療の適応がある症例は保険治療適応となると、法律に明記されています。職場等で迷惑なら、治療を受けさせる様に配慮すれば良いのではないでしょうか?。日本では、腋臭症体質者は異常体質なのですから、異常な人類である日本国家は、本当は正常な腋臭症者に対して、人権を守る配慮、例えば職場での特別扱いをするべきかも知れません。数日の休暇を与えれば済むのですから。これは労働環境の問題ですから、厚生&労働省が縦割りでない政策を立てることができるのではないでしょうか?。

難しい議論はここまでとし、腋臭症の治療法については、次回に回します。

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