2023 . 12 . 2

遠方からいくつかの手術を受けに来られて、お互いに信頼を積み重ねてきた患者さん。今回の二重顎削徐術で完成に近づけます。

リフト手術とは読んで字の如く、持ち上げることです。フォークリフトはフォークで肉でなく荷物を掬い上げて運ぶ重機ですが、フェイスリフト,Face liftは顔をフォークでなくナイフ(メス,mesはオランダ語で、英語圏ではナイフ,Knifeまたはscalpelと言う)で、加齢で進展して下垂した組織(主に皮膚と皮下脂肪)の余分を切り取って、糸,threadまたはsutureで縫合して持ち上げる方法です。

昨今(実は半世紀以上前から)糸リフトが喧伝されています。棘などの付いた、何らかの引っ掛けるものを使って、皮下や皮下脂肪を裏側から持ち上げます。ですが、すぐ戻ります。問題点が二つあります。糸は顔の中に存在していても、吸収糸の場合生体反応が起きないので、糸は組織に癒合や癒着をしませんから、重力と外力でずれていき、挙上力は早晩消失していきます。もちろん吸収されるから、年単位は保ちません。逆に溶けない(非吸収性)糸を使う場合は、糸が永遠に引っ掛かっているので、ずれはあっても挙上力は保てますが、永遠に存在している糸は、加齢で皮膚が菲薄化すると皮膚正面に露出する可能性もあるし、異物ですから感染や異物反応も起き得ます。

また一時流行った金の糸は非吸収糸ですが、金は柔らかいので棘などの加工は難しく、細い糸を格子状に入れるだけです。金は錆びない(酸化しない)ので、生体反応がなく安全性が高いのですが、ただ体の中に入っているだけで挙上力はありません。また電気を通すので、局所の熱傷の危険から美容治療が限られてしまいます。また露出の報告も少なからず見受けられます。しかも高価です。

さて切開縫合を主体としたリフト手術は、欧米では前世紀初めから報告されています。基本的な手技は切って縫うだけですが、剥離の有無と剥離層、剥離範囲は組み合わせて種々報告されてきました。画期はSMAS法ですが、現在は有効性に疑問が呈されていて、顔面神経に対する損傷も低レベルの知識しか持たない非形成外科医で頻発している為、有用性が下がっています。私が数年来頻用してきた広範囲皮下剥離法は同様の効果が得られ、安全性も高いのですが、手技的に体力と時間を要するために、一般化しない様です。やっと次は本題です。おとがい下リフトは二種類あります。ターキーネック手術と二重顎解消術です。

ターキーネックは読んで時のごとく七面鳥(を代表とする鳥)首の改善です。「イー!」って言う時の、おとがいから縦に2本ある紐状の突っ張りです。本態は広頚筋の拘縮ですが、皮膚が薄く、顎が前突している欧米人には多く見られます。逆のアジア人では数少ないのですが、これがあるといかにも年寄りっぽく見えるので、筋の拘縮をZ-形成術で解除して治します。頻用している目頭Z-形成と同じ機序で、bow strig,弓の弦の湾曲を作ります。

二重顎は、おとがいの骨の後方に、皮下脂肪が溜まって下垂している形態です。同部には、中央には広頚筋が無く、深部に舌骨筋群だけがあり、表在の筋膜は弱いので、皮下のスペースがルーズで、皮下脂肪がお饅頭状に垂れ下がってしまいます。重力にも抗えないのです。

皮下脂肪なら脂肪吸引や溶解が効きますが、皮膚はやはり垂れ下がります。ですから私は、おとがい下切開をお勧めします。下顎骨は下から見てUの字でなくコの字に近く、おとがい部は前面を向いている部分があります。さらにその後方は、上に述べた様に筋がないため溝状で、さらに後ろにある皮下脂肪が二重顎を呈しています。おとがいのすぐ後の溝は切開縫合しても、傷跡は下から見なければ見えません。また顔面神経や筋構造の損傷の危険がない部位です。実は父は、下顎骨々切り術の際に、おとがい下切開を頻用していて、私が診ても見えない部位なので流用したのです。

切開後に、皮下脂肪が膨隆した二重顎の観られる部位を、皮下脂肪層下で剥離します。深部は薄い筋膜です。皮下脂肪を、剪刀=手術用ハサミで削り取ります。削る!、そういえば腋臭症の剪除術に似ている!?。皮下組織を剪刀で削り取るから剪除法と呼びます。腋臭症の場合はアポクリン汗腺を削り取ります。二重顎手術では皮下脂肪を削り取ります。両者の組織の性状は似ています。大事なことは削る際に皮膚をどれだけ傷めないか、血行を温存出来るかです。私は腋臭症に対する剪除法で、削り過ぎて皮膚壊死させたことはありません。でも他医がやっちゃったのは見たことがあります。腋臭症手術で私は、90%以上の汗腺を剪除することを約束しています。ぎりぎり壊死を防ぐ程度で削ります。コツは真皮下の毛細血管網を温存する様に剪刀を動かす技です。その結果血行が保てるので壊死はしません。但し、頸部は腋窩より血行が良いので、真皮ぎりぎりまで削っても壊死しません。この辺もこつです。

皮膚は丁寧に縫合すれば、溝に隠れて傷跡は見えなくなります。さて垂れ下がっていた皮膚ですが、お饅頭の表面と裏側は面積がほぼ同じですから、そのままくっ付けば垂れ下がりません。ですから重要なことは、皮膚の裏側と筋膜層を癒着させることです。毎回いろいろな手術の説明に書いてきましたが、剥離して最癒着させるから挙上が保てるのです。そのためには圧迫が主体ですが、今回はアンカリング,Anchoring:錨縫合(皮膚をベースに縫い付ける)も併用します。

こうして二重顎の中身を除去して、皮膚を吊り上げるので、リフト手術と言えます。頤から胸骨、下顎から鎖骨へは、側面や斜位から見て逆Jのカーブを呈しています。つまりボウストリング,bow string≡弓の弦です。垂れ下がったり(二重顎)突っ張ったり(ターキーネック)するとカーブが乱れます。吊り上げて逆J型のカーブを再現したいものです。

症例は46歳女性。これまで私が幾つかの美容形成外科手術を施行して来て、お互いに信頼関係が醸成されて来た患者さんです。ブログ提示にも協力されて、遠方からちゃんと画像を送ってくださる律儀な患者さんです。初診は2年前の暮れですが、このブログによく登場される患者さんに紹介されたそうで、後追いする様にいくつかの手術を施行してきて、毎回それぞれに対して満足されています。リフト手術も順を追って施行してきました。

本年に入ってからJowl liftから施行しました。次にこめかみリフトを施行し、どちらも効果抜群です。今回の画像でも一部、Jowlがないのが見えます。今回はおとがい下リフトです。二重顎の改善です。皮下脂肪の削除です。当初から計画して、順を追って手術してきました。

画像は各方向の術前と術直後を提示します。

正面像では頤下の二重顎が見えません。でもJowlが弛んでいないくて、下顎のカーブが綺麗なのは見事です。Jowlとは一般英語で動物の顎です。日本ではブルドッグと称します。

頸部後屈してもらって頤下を撮っても、影になって露出が難しく、膨隆が判り難いでしょう。上右図の術後では、点線で囲んだ範囲を削ったと判ります。

術後の下面像を正面から見れば、何をしたのかが判りますが、術前は撮りませんでした。点線で囲んだ範囲のおまんじゅう型の皮下脂肪を削徐しました。切開創は頤先端の後の溝です。上右図は近接画像ですが、創は丁寧に縫合しています。Anchorig済みです。

削徐(剪除)した皮下脂肪です。量は測りませんでしたが、あるものは全量取りました。

ここからは側面像や斜位像で観てみましょう。

側面像の上が術前、下が術後。上に書いた様な逆J型のカーブが再建されました。

斜位像では下の術後像に印が見えるだけです。若干膨らみが減った様に見えます。

そこで頸部を後屈して顎を挙げてもらって頸部を撮ります。

頸部の側面像。上が術前、下が術直後。術前は接線が直線的でした。顎を挙げれば伸びるはずですが、術後はカクッと曲がって逆J型に近づきました。

顎を挙げての斜位像でもよく判ります。上の術前像では、タルンと二重顎が膨隆しています。下の術直後像では、印の部位が凹んで隠れているほどです。

この手術では傷跡が見え難いのが本当でしょう?!。でも見る角度次第では変化も見え難いのですが、うまく撮れば判ります。しかも「よく取れました。」と患者さんにお褒めを頂きました。今後の術後の経過が重要です。画像を追加して更新していきます。お楽しみに!。

そして遠方にも関わらず、術後1週間で経過観察と抜糸の為に来院して頂けました。

やはり正面像では解らないので、頸部後屈してもらい下面像を撮りました。この画像では膨らんでいないのが判ります。糸の跡は見えなくなります。

側面像で観ます。

両側面像では、頤から胸骨に向かう頸部のカーブに二重顎の垂れ込みが無くなったのがよく見えます。逆J字型です。続いて下図の様に、頸部を後屈しての側面像です。頸部の皮膚が突っ張っている中で削った部は凹んでいます。

斜位像では判るかな?。

上二葉の両側斜位像では、頤の後が見えないのが効果です。下二葉で頸部後屈したら、見えるはずの二重顎部が見えません。効果的です。

細かい部分で、方向に依って見えたり見えなかったりですが、さらに言えば傷跡も見えなかったり見えたりです。白い線になれば判りません。今後圧迫は軽度にして経過を観ましょう。

遠方なので術後5週間で来院されました。

正面像では二重顎は見えません。

下方からの煽り画像では露光が足りなかったのですが、二重顎がないのは判りますよね!?。ただしよく見ると、傷跡の線の前後が膨隆しています。剥離腔の最前部の拘縮です。そういえばこめかみリフトでも、剥離腔の先端が拘縮して膨隆します。約3ヶ月で解消します。もひとつAnchiring糸の跡は赤い点になりましたが、これも消えていきます。

下列には側面像と頭を後屈して頸部を突っ張らせてBow Stringを観ましょう。

上の左側面像でも下の右側面像でも二重顎は見えません。頸部のカーブもなだらかです。

斜位像も頭部後屈と並べて観ましょう。

斜めから観た方が、二重顎の改善が判ります。頭部後屈ではBow String,弓の弦を引いた様にきれいです。敢えて言えば、傷跡の前後の凹凸が見えていますが、消えます。

術後3ヶ月で完成となりましょうか?。

やはり正面ではよく判りません。ただし二重顎は見えません。下から見ても正面像では立体視出来ません。

おとがいを挙げてもらうと傷跡は見えました。拡大するとまだ赤い線ですが、凹凸は見られません

側面像で頤から頸部のカーブに弛みがありません。頤を挙げてもらうと突っ張りの見あれません。二重顎だった頤の下はちゃんと凹んでいます。

斜位では二重顎で膨らんでいた部位にわずかに凹みが診られます。頤を挙げて斜位を見ると頤から鎖骨に架けてのカーブがC字?またはJ字?を呈しています。

「完成!。」と伝えたらニコニコお悦びでした。したがって話を次へ進めることになりました。

当院では、厚生労働省より改定され施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守しホームページの修正を行っています。

施術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・抜糸までの間、鼻下を伸ばす表情はお控え下さい。・口唇部の違和感は、2~4週間程度かかります。・手術後2週間は、口を大きく開けることはお控え下さい。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、鼻孔部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。

費用の説明も加えます。ネックリフトは35万円+消費税です。ブログ掲載の契約を受けてもらえたら、出演料として20%オフとなります。