昨今、眼瞼下垂症の診療は、国民に膾炙しています。何故か専門外の診療科目である非形成外科医の美容整形屋でも触りたがります。もちろん自費治療で高額に設定出来るからです。実は😞、私が手を貸しました。今から25年も前の平成8年に父、森川昭彦(胸部外科出身の美容整形医の走り)が非形成外科系の日本美容外科学会JSASを主催した際に、会長指名演題として、私が眼瞼下垂症の症例発表を1時間も講演したからです。その際私は”難しいからお前たちにはできっこないから教えを乞いに来たら?”との甘い考えでいました。ところが一部のビジネス的美容外科やチェーン店系美容整形屋は経済的余裕があり、投資として眼瞼下垂手術が出来る医師を雇って、教わった彼らも見よう見まねで手術をし始めました。
逆に経済的に余裕がない地域、地方では美容外科も数少なく、形成外科に至っては大学病院(全都道府県に一つ以上ある)にさえも診療科目がない県もあります。実は眼瞼下垂手術はまだしも、他の形成外科診療は保険診療の点数が低く、採算が取れないからですが、医師が偏在しているからでもあります。ちなみに眼科医は視機能を治す科目で、眼瞼を治す診療に携わる医師はほとんど居ません。形成外科医でも、症例が少なければトレーニングの機会が少なく、上手く診療できない医師も居ます。また当初から美容外科医となった医師は、診療の機会どころか、教える医師に出会う機会さえも少ないのが実情です。
眼瞼下垂症は手術で簡単に治せると考える医師が横行していますが、カテゴリーを分けないと結果が得られませんし、直後に後戻りします。でも経験豊富な形成外科医でないと診察法も学んでいません。これまでも何回か書きましたが、先天性と後天性、前葉性(皮膚と眼輪筋=前の成分)と後葉性(眼瞼挙筋と眼窩脂肪=後ろの成分)の4種類に分ける必要があります。程度も多様です。中でも先天性後葉性眼瞼下垂症には短縮術と吊り上げ術を使い分けなければならず、診断が必須です。
先天性眼瞼下垂症は、産まれつき眼瞼挙筋の筋力が弱い人です。通常は両側性ですが、筋力に左右差がある場合が多いです。左右の差は見た目でわかります。解ったからと言って治せるかは判りません。挙筋筋力が弱いという事は、閉瞼時から第一眼位を経て上方視へ到る際に、瞼縁が動く距離が少ないのです。したがって例えば上方視まで13㎜必要だとしたら、11㎜の人は挙筋を3㎜短縮して、前や上を見られるようにしなければなりません。当然閉じにくくなりますが、2㎜以下なら問題はありません。ですが重症の症例では短縮は不可です。吊り上げて前頭筋で開かせる手術となります。本症例は軽症で、短縮しても閉瞼が可能でした。この様な診断が術前に行われなければ、有用な治療も出来ません。経験とトレーニングの質がものを言います。
ところで目頭切開については何度も書いてきましたが、先天性眼瞼下垂症に合併することが多く、前葉生眼瞼下垂の原因の一つでもあります。私は多くの症例に併施してきました。ですが理論的に、目頭の蒙古襞の切除は間違いです。そしてZ-形成法で蒙古襞の拘縮の解除を目的とすれば、眼瞼下垂症の改善に寄与します。今回の症例の患者さんは、ブログを視て、この部分は理解されて来院されました。
症例は22歳女性。片側優位の先天性後葉性眼瞼下垂症に前葉性を伴い、当然に蒙古襞は拘縮していると認識している患者さん。初診時にご自分で訴えてきました。「物心ついたら気付いた。」「小学校5年生で友人から指摘されました。」「頭痛肩こりも生じてきた。」「眼科、形成外科、美容外科で埋没法の重瞼術を受けました。」典型的な医療難民です。
診察します。LF,Levator function (挙筋機能、正しくは挙筋活動距離)は左15㎜:右12㎜と片側の先天性後葉性眼瞼下垂症です。矯正視力は1.2ですが、soft Contact Lenzを10年常用してきました。したがって後天性後葉性が進行している可能性もあります。その証拠にフェニレフリンで左は挙がり、右は挙がらない。つまり左は後天性で右は先天性です。そのままシミュレーションしてデザインを考えます。ラインは変えないで、切除2㎜が見た目に整う。右は短縮、左は前転LT。重瞼固定。眼裂横径24㎜:内眼角間36㎜:角膜中心間59㎜/頬骨幅(顔幅)140㎜と、顔に非して目は離れていないのに、間は遠い。つまり弧状の蒙古襞が拘縮していて吊り目を呈している。患者さんも知っています。目頭切開術は数字的に一辺4㎜60度のZ-形成法。1時間程自問されてもう一度説明して、目頭形成も併施することになりました。
時間を追って画像を提示します。
両側眼瞼部像。開瞼とは、眼瞼挙筋が収縮して上眼瞼(特に瞼板)を引き上げる際に開く程度、上下の瞼縁(まつ毛の根本)の間の距離です。重瞼なら皮膚は挙がっているので瞼縁が判別できます。明らかに左右差があります。
近接画像では開瞼差が明瞭です。なお蒙古襞は上眼瞼の二重瞼が内側にむけて狭くなり目頭では眼球を隠しています。隠しているだけでなく蒙古襞は下眼瞼に付着していますから、縦に弓形に突っ張っています。この皮膚の縦の長さが足りなくて弓の弦のように被さっています。
デザインです。術前の確認で、左のライン(臥位で緊張を書けないで4.5㎜)に合わせて、その上の皮膚を幅3㎜切除すると、第一眼位で1㎜広くなることを説明してデザイン。蒙古襞の稜線に沿って一辺4㎜の60度のZ-形成術を繋げます。
近接画像ではZ-形成のデザインに注目。下に使い回しの机上の図。
図は左側(向かって右側)眼瞼のZ-形成の机上の線画。図の左側が術前、右側が術後。説明すると、cabとdbaの二つの三角形を入れ替えてb’d’c’とa’c’d’の三角形になります。abがa’b’になるのですが、sin60度×2=√3×2≒1.73倍の長さになります。4㎜の蒙古襞が約7㎜になり逆に横方向は、cdがc’d’と7㎜が4㎜となり、蒙古襞は表裏に皮膚がありますから、蒙古襞が1.5㎜退いて、両側で内眼角間が3㎜近づく計算です。
上中右図は実物の蒙古襞。術前のデザインが術後は伸びています。
今回は術中写真を撮りました。
まず細かいZ-形成の切開を#11Scalpel(メスはオランダ語)で丁寧にデザイン通り切開。その後#15Knifeで眼瞼の皮膚を切開。眼輪筋を同じ幅で切除し、眼窩脂肪を上に避けながら、眼瞼挙筋腱膜と瞼板を露出して、その後目頭部の三角皮弁を入れ替えて、頂点だけ縫合した後に開瞼してみたのが上右図。
次に右眼瞼挙筋の中央付近を4㎜短縮して瞼板に縫合しました。上左図のように左右対称性に開いています。その後左眼瞼は眼瞼挙筋を固定しました。その後上右図の如く重瞼固定したら前葉成分も持ち上げなくてはならないため開瞼は落ちました。
術直後は疲れて、突っ張って、痛くて、開いて映ってくれませんでした。
近接画像でも開いてくれませんでした。
下は術後1週間の抜糸後。
開瞼は良好化していますがまだ差。特に上右図は近景でカメラが近いから怖くて開きません。
目頭の傷跡は目立ちません。
下にはやっと開いてくれた術後3週間の画像。
開瞼良好化。頭痛も消失しました。
両側とも内眼角に肥厚性瘢痕。早速ケナコルト注射しました。
術後6週間で診察しました。
上左図の遠景では、遠目でしっかり開いて写ってくれました。左右ほぼ対称です。キラキラして、患者さんも光が入ると言っています。上右図の近景でもよく開いていますが近いて写すと警戒して目の力を抜きますから、若干左(元々の患側)が弱めです。でも患者さんは満足です。
3週間でステロイド注射したので肥厚性瘢痕の肥厚と硬結は軽快し、発赤もメイクで隠せます。再度の注射は不要と判断しました。
術後3ヶ月です。
開瞼は左右対称に良好です。キラキラしています。
何故か違う方を見ています。内方視ではキラキラしません。
当院では、厚生労働省により施行された「医療機関ホームページガイドライン」を遵守しブログを掲載しています。
医療法を遵守した情報を詳しくお知らせするために、症例写真・ブログに関しましても随時修正を行っていきます。症例写真の条件を一定とし、効果だけでなく、料金・生じうるリスクや副作用も記載していきます。ブログにも表現や補足の説明を付け加えさせていただきます。
施術のリスク・副作用について:・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・目頭の切開部位は、目やにがでる場所ですので、消毒にご来院下さい。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、切開部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。
費用は眼瞼下垂症の診断が得られれば保険診療で3割負担は約5万円(出来高請求です。)目頭形成術は角膜に掛かる程でないと保険は適用出来ません。自費で28万円+消費税。