2020 . 11 . 15

眼瞼下垂症は鑑別診断が必要です。”前葉性と後葉性。先天性と後天性。蒙古襞の拘縮の程度。等々”

眼瞼下垂症手術は眼形成外科領域,Ophthalmic Plastic surgery は20世紀後半には定式化していました。私が33年前に形成外科に入局した頃には毎日の様に手術されていました。でも解剖学的素養を身に付けていかないと意外と難しいので、私は6年目に初めて術者をさせてもらえました。その後市中病院に出向して形成外科医長や部長を務める様になってからは、積極的に患者さんを見出していき、毎日の様に眼瞼下垂手術をしていました。

その後眼瞼下垂手術をマスコミに広告して啓蒙していた信州大学の松尾教授にも教えを請い、さらに症例経験を積んでいった今から約20年前に、父が日本美容外科学会の一つ!、JSASを主催した際に会長招宴として、眼瞼下垂症手術の講演を1時間かけて紹介しました。形成外科の研修を得ていない美容整形屋だけの集まりであるJSAS(非形成外科医の開業医の学会)に参加する医師は、眼瞼下垂手術をできる医師は皆無でしたが、私が講演してからは彼らも私達形成外科医に教えを請い勉強していき、徐々に手術メニューに加えていきました。

私など大学病院形成外科では、9年目まで美容外科手術をさせてもらえませんでした。ただし私は父の銀座美容外科でアルバイトしていましたから、形成外科医局員の新人時代から美容外科診療に携わっていました。その後1998年の日本形成外科学会で学会長が宣言して、若い形成外科医も美容外科診療に進むことが増えました。こうして、形成外科医と非形成外科医が眼瞼下垂手術を分け合う様になり、昨今は6年以下(日本形成外科学会認定専門医を未取得)の形成外科医も美容形成外科医院を開業して、美容形成外科分野の手術として眼瞼下垂手術を施行する様になりました。

結果的に学術的に稚拙な形成外科医もどきが眼瞼下垂手術を施行し、結果が得られていない症例も増えてきました。本症例は、確かにどう診ても、結果が非対称で、しかも診断が不備で前葉性と後葉性、先天性と後天性の鑑別診断が為されていないと考えられ、手術法の選択が為されていない結果と考えられました。その様な症例で眼瞼下垂手術(眼瞼形成術一般)のベテランの私に罹る人が増えているのは喜ぶべきかも知れません。頼られて嬉しいです。でもたいてい難しいケースなので困惑しています。頑張るしかありません。

症例は32歳女性。生来は一重まぶた=先天性前葉性。4年前に埋没。本年4月に他院で眼瞼下垂手術。すぐに二重=前葉は落ちた。両側LF14㎜で先天性後葉性ではない。ラインは変えないで、1㎜広げたければ1〜1.5×2+1=3〜4㎜切除するプラン。眼裂横径24㎜:内眼角間33㎜:角膜中心間57㎜と目(眼球)が離れていないのに、目の窓の間が平均値で、窓の横が小さいのは蒙古襞の拘縮が強いからで、前葉性眼瞼下垂の半分以上の原因となっている。用手的シミュレーションで見た目にも機能的にも効果抜群と診た。

画像は術前から。

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遠近像を診ても、右前葉が下垂しています。左もMRD<2㎜です。

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近接像で診ると、右上眼瞼の前葉は特に外側から内側にかけて滑り台状に落ちています。左眼瞼は中央まではおがっていますが瞼縁は隠れています。

これに対して下の様にデザインしました。

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重瞼線は左の既存のラインを使います。前回他院で切開して傷跡があるので、違う線を切開すると二本線になってしまいます。切除は4㎜としました。

DSC_0077いつもの図です。左眼瞼の目頭に描かれています。顔が小さい人なので今回は一辺3.5㎜のZ−形成とした。

ところで手術は大変に難しかったです。考えてみれば、右は前葉性で、瞼縁は挙がっていましたが小さく、挙筋は緩んでいます。つまり挙筋短縮の効果が足りないのは挙筋を確実に露出していないと思われます。逆にそれなら瘢痕が少ないので、私は露出しやすい訳で手術の容易でした。むしろ左は挙筋が効いているので、挙筋を露出したのでしょう。皮膚切開(切除)後、眼輪筋を切除しようしたら、その深部の眼窩角膜に癒着していて、眼窩脂肪も行方不明、挙筋腱膜とミューラー筋まで癒着して一枚の板状になり、一枚ずつはがしていかなければなりませんでした。挙筋腱膜を短縮する必要があるからです。縫っては座位で開瞼の対称性を診て、足りなければ糸を切って掛け直しての手技を4回繰り返して、やっと挙筋腱膜を短縮できて開瞼が得られた際には出血が増え、腫脹が拡がりました。

こうして術直後の画像を見ましょう。

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両眼瞼とも開瞼力が低下しています。手術に難渋して時間が通常の倍近く掛かり、また上眼瞼挙筋の短縮縫合を何回か、縫っては、診て、掛け直すために外して、短縮量を増やしていったら、血は出るは腫れるはで挙筋の牽引力が低下していました。

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しかも内出血は増えてすでに紫色な上に上眼瞼の上まで青いのは眼窩内の出血です。眼窩内出血は(眼)球後に動脈性に達すると視神経を圧迫しますから大変です。でないことは拍動性でないから安心しましたが、ダウンタイムは長引きそうです。

術後1週間で抜糸しました。

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遠近画像とも、両眼瞼ともよく開いてきました。

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まだ比べてみると左のほうが小さいですが、日々改善しています。左眼瞼縁の中央に挙筋短縮をかけた部分がカクッと挙がっています。周囲が腫脹して膨らんでいるのにこの部分だけが引き上げられているからです。腫脹が引いてから瞼縁の形態が見えていきます。

本症例は手術に難渋しましたが、その割に順調に経過しています。その様な症例では目頭の肥厚性瘢痕が起きる可能性が高いので術後3週間でも診たいとお願いしました。その際も画像を戴けると思います。お楽しみに!。

と思っていたらこちらの手違いで術後1ヶ月で来院されました。

IMG_2609開いてきました。あえて右中央と左外側の追加を申し出ましたが、実際には術後3ヶ月待ちます。

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左の方がまだ腫れています。でも軽快しています。肥厚性瘢痕は標準的です。内服で治ってきました。ステロイドの注射は不要です。悪化するようなら注射します。稀に術後6週間頃まで増長しますから、来月も見せてもらうことにしました。その際も画像を戴けるでしょう。

やはり術後3ヶ月での画像となりました。

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すぐに治すチャンスがないそうですが、やりたいことは確認しました。右のきらない眼瞼下垂手術と左外側のきらない眼瞼下垂手術。

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まず言えることは、目頭の突っ張った蒙古襞は解除できていて窓の形がアーモンドになりました。つり目でないと言うことです。この形は大事です。

左右比べてみると、右眼瞼の前葉成分は挙がったのですが、後は成分つまり挙筋の強化度がわずかにアンダー,under correctionです。術後1週間では充分に挙がっていましたが若干後戻りしました。左眼瞼は前葉成分は予定のラインです。後葉成分は術中から術直後はアンダーでしたが、術後1週間から徐々に挙がって来て今やオーバー,over correction傾向です。上の術前画像を見直すと、術前は右は前葉成分が落ちて後葉成分は不明ですが。左は前葉成分の挙がり(つまり重瞼)が甘くても瞼縁は見えていて後葉成分つまり挙筋も弱いのでした。

術中に前医の瘢痕を外すのに苦労していじっている間に腫脹で挙筋が効かなくなったので、短縮量を追加しました。結果開いたのですが、止めたのは中央が主ですから、三角形です。でもこの中央の開瞼は満足だそうです。もちろん兎眼(閉じられなくて乾いて角膜刺激)は呈していません。

二次的手術は前医の手術法が不明で解剖学的構造が変形しているために、私としても開けてみないと判らない、開けてびっくり玉手箱状態な場合があります。その場合修正が求められます。プランを立てました。今後スケジュールを詰めて、形態と機能を造り足していきます。その際も続けてブログ提示を頂けると思いますので、お楽しみに!

当院では、一昨年に厚生労働省より改定され施行された「医療機関ホームページガイドライン」を遵守しブログを掲載しています。

医療法を遵守した情報を詳しくお知らせするために、症例写真・ブログに関しましても随時修正を行っていきます。症例写真の条件を一定とし、効果だけでなく、料金・生じうるリスクや副作用も記載していきます。ブログにも表現や補足の説明を付け加えさせていただきます。

施術のリスク・副作用について:・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・目頭の切開部位は、目やにがでる場所ですので、消毒にご来院下さい。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、切開部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。

費用は眼瞼下垂症の診断が得られれば保険診療で3割負担は約5万円(出来高請求です。)目頭形成術は角膜に掛かる程でないと保険は適用出来ません。自費で28万円+消費税。