2015 . 9 . 9

ほくろ=母斑を取るのでも、形成外科・美容外科の技術は特殊です。―真皮縫合と皮弁形成術Ⅰ―

3週間前に先天性母斑(生まれつきの黒あざ、ほくろの一種)を切除し、皮弁形成術で被覆し、しっかり真皮縫合をした症例患者さんの経過写真を撮らせてもらいました。

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まずは患者さんの約束もあって、創の経過と真皮縫合による創跡の経過を説明します。

創とは、皮膚が離断または欠損した状態です。身体は外から、表皮、真皮、皮下組織、筋膜、筋の順に層を成しています。

表皮層は細胞が積み重なり、厚さは0,2〜0,4㎜。創になると細胞は分裂重層や遊走(分裂した細胞が横方向に押し出される)して表面を閉じます。通常縫合した創の隙間を数日で跨ぎ、塞ぎます。表皮層には血行はありませんが、滲み出た液で栄養されます。表皮細胞は表層にいくと、脱核して細胞で無くなり、包み紙であるケラチン蛋白の塊になります。密なのでバリアーになっています。これを角質層といい、2週間程度で剥がれて垢となります。また色素細胞(メラノサイト)は表皮層の底にあり、メラニン色素をばらまいています。

真皮層はコラーゲンを始めとした繊維が詰まっていて、毛細血管もあり血行があります。知覚神経の末端もあります。厚さは部位により1㎜〜4㎜あります。顔では2㎜くらいです。創が真皮層に達すると、コラーゲンは再産生されます。創が出来て4日目位から動員されます。体内を流れるアミノ酸を繊維芽細胞が取り込んでコラーゲンを作り吹き出す、一連の製造過程です。ここからが重要です。コラーゲンは支持組織とか結合組織と言うくらいで身体の構成を保つ、形を保持する物質で創が治る時に真皮層がしっかりくっ付けます。ところが、真皮層が完成するのに最低2週間、しっかり付いて結合するまで3ヶ月かかります。ちなみにコラーゲン;Collagenは膠原繊維と訳します。膠;にかわは糊の様なもので、ゼラチンと同じものです。

筋膜や筋まで断裂した創は、自然にはなかなか付きません。縫合しても筋は再生しませんが、コラーゲンで付いて連続性は再生できます。ここでは骨は割愛します。

創治癒には一次治癒と二次治癒(開放創)があります。一次治癒とは、断裂した部を接する様にしておいて治すことです。通常は縫合して寄せることです。表皮の隙間は数日でシールされ、真皮層に瘢痕(コラーゲンの塊)が出来て支持し始めます。ところが上に述べた様に、真皮層がしっかり支持するのには時間がかかります。その間に何らかの(運動や、腫れ等)が開く力が働くと幼弱なコラーゲンは断裂を繰り返します。その上の表皮も引き伸されます。こうして出来た創跡はコラーゲンが粗で、表皮がツルッとします。色素細胞が足りなくなるので白くなります。

そこで真皮縫合が効を奏するのです。断裂した創の両側の壁の真皮を縫うことです。真皮が糸で寄せてあれば新生した瘢痕性のコラーゲンは再断裂しません。3ヶ月支えれば強固になります。

真皮縫合は、形成外科の基本的手技ですが、これが、簡単ではありません。手技的には、真皮に糸を掛けて寄せるだけなのですが、結び目は下向きにします。しかし、創縁の高さを合わせないと段差になるし、寄せ具合で盛り上がりをコントロールしないとならない。場所により緊張力が違うので、力を使い分けなければならない。表皮にかかってしまうと谷になりみっともない。具体的には顔面では平らに寄せる。他では盛り上げの程度を調整することが要されます。この手技を合格点まで、6年はかかります。私なんぞ今でも100点満点ではなく、20糸に1糸は掛け直しをしています。手術終了前だからできますし、そこまで粘着に結果を求めます。

こんな手技は形成外科医以外には、習得できません。見よう見まねで他科の医師がするのを見た際には、見ていられないので取り上げて私が交代したことがあります。美容外科医でも形成外科の修行をしていない者が多いので、真皮縫合を要する縫合手術を受ける際には気をつけて下さい。

もう一つ、糸と道具も形成外科専用のものです。厚さ2ミリの層に0,1㎜のずれもなく糸を入れるためには細くても、硬い真皮に負けない鋭い針が要ります。特殊加工で滑りがいいコーティングがされている針を使っています。もう一つ、皮膚の裏側から糸を入れるので、裏返すのですが、スキンフックという先の小さ鈎を使います。これを操作するのは難しく熟練を要します。形成外科医でも、面倒なので半数以上の者は使わない様です。

真皮縫合の説明をいくらしても、患者さんは見られないし、細かくて判らないので、結果で判断してもらうしかないのです。顔では、幅の無い平らな創跡は、消えると言っても過言ではありません。私は半年以降見失うことさえ少なからずあります。

ところでこの症例では、Dufourmentel Flap で再建したのですが、次回皮弁形成術の一般について解りやすく書きます。