2014 . 10 . 17

小顔とは?Ⅲ -ボトックスについてⅡー

ボトックス(BTXと略します。)とは、多くの方がご存知だと思われますが、ボツリヌス菌という生物が出す化学物質で、神経が筋肉に差し込まれる部分に挟まって、神経を流れてきた電気信号が筋肉に伝わらなくするという物質です。タンパクですから、生物しか作れません。しかし、数少ない生物しかこれを作れません。ボツリヌス菌はそこら辺の土壌の中にいくらでもいる生物ですが、こいつに生産させた神経伝達遮断物質を純粋な成分として取り出すのが難しかったのと、保存が難しかったので、薬剤としての製造を試行錯誤されていました。実は、生物兵器としての研究が先行していたのは、御多聞にもれません。歴史上兵器開発が科学の進歩に最大の貢献してきたのは誰もが知っている事と思います。しかし、上記の理由で兵器としての有用性はありませんでした。成功すれば、核並みの大量破壊兵器になり得たのですが、難しかったようです。生物をコントロールするのは人間の得意とする分野と不得意な分野があるようです。例えば、最近鰻が食べられなくなったでしょ。

医学的な有用性には、戦後から気が付かれていて、薬剤として抽出しよう試みられてきました。日本でも1980年代には成功していたのですが、純粋性が得られなく、安全性が高められなくて、製品化は断念されました。医学な有用性とは、有効性と有害性のバランスです。

まずボツリヌス菌毒の有害性としては、量に依存する多部位への効果の波及が最も憂慮されます。純粋に科学物質だけを抽出できなくて、菌混入したらどうなるか予想もつきませんし、抽出した化学物質の濃度も確認されなくてはなりません。現在薬剤として発売されているボツリヌス菌毒は、その点での安全性は確立しています。怖くありません。使う方の側の知識と経験から得られた適正量の把握が重要なのです。もうひとつ混入物というか、溶剤が問題です。何かに溶かなければ注射できないからです。初期のものは生物製剤に溶いていましたから、抗体が出来る可能性がありました。現在では人工溶液に溶いていますから安全です。敢えていえば、理論的には菌にも毒にも抗体が働いてしまい局所に炎症や、効果不良が起きる可能性は否定できません。頻回にすると起きると考えられていて、私は初期の製剤を実験的に自分にしていたのですが、試しに2か月毎にしてみたら、効かなくなりました。今でもその製剤は私には使えません。もう一度記しますが、現在の製品は適正量を使えば安全です。

有効性はターゲットにだけ効くかどうかです。ボツリヌス菌毒は、注射した部位のいちばん近くにある神経と筋のつなぎ目(神経筋接合部といいます。)から順次広がっていきます。タンパク分子が神経筋接合部に挟まると、離れません。タンパク分子数が必要な神経筋接合部を遮断するだけの数なら有効ですし、不足なら、効果不良だし、過剰両だと周りに広がります。原則として血流には入りません。もし入ると抗体ができて、その後の効果が得られなくなるだけです。要は止めたい筋肉にだけ足りる量を局所投与されれば、効果が得られるということです。もちろん、大量に血中や、消化管内に投与されれば全身の筋が動かなくなり生命維持出来なくなる訳です。

ここでもう一度、ボツリヌス菌とその毒素の食中毒について説明しておきます。ただしそれは、医療的に行われるボトックス注射とは、量的に100倍以上の差がある話です。何度も言いますが、医学的、特に美容医学的に使われるボトックスの有用性=有効性Vs.安全性は非常に高く、怖くありません。怖い話とは規模が違うからです。でも一応説明しておきます。ボツリヌス菌は土壌中にいっくらでもいます。でもこの菌は嫌気性菌といって空気、特に酸素が多い環境では繁殖できません。だから、土中にいるのです。また、温熱にも弱く人を含む生物の体温以上では毒素は不活化します。ですから、通常の食物に付いていても食中毒を起こさないのです。我国では何年かに一回、ボツリヌス菌による食中毒の発生をみていて、にゅうーすになります。どんな食物が原因になるかというと、植物についていることがあり、これをいきなり真空パックしたり、きつく容器に詰めて発酵させる飯鮓という押し寿司が過去に原因になっています。生ソーセージ類が原因になったこともありました。どれも、空気に触れないで混入したボツリヌス菌が繁殖した食物を摂食して、消化管から血中に毒素が周って、呼吸するのに必要な筋肉が動かなくなった結果起きています。ふぐや破傷風の中毒に近い状態です。さて、その量たるや、私達が使量の一万倍の量です。もし製剤と比較するなら、何百万円にも相当するのです。子供だとその十分の一量でも危険とされています。ハチミツに微量混入していることがあるため、幼児に生では摂食させてはいけないのは常識ですよね。ちなみに、もし血中(静脈内)に注射するなら、医療上使う量の千倍で死亡に至るとされています。少なく見積もっても20万円分です。高価ですね。このように、自然界の脅威は不思議です。人工的にコントロールするのには桁の違う高額を要します。ですから、生物兵器にもなり得なかったし、医療上の利用も、最近になってやっと出来る様になったのです。

怖い話はここまでとして、医学的利用は、1986年に始まりました。日本で抽出が試みられました。しかし、認可がされませんでした。その後、イギリスとアメリカでやっと発売されたのは、1990年代になってからです。我国には、今世紀に入ってから医師が輸入し始めました。私は2000年に試みました。J病院の医師達と共同で英国から輸入したのです。本邦初です。とてもいい薬だと思いました。

実際の使用法については長くなりそうなので、ページを変えます。