これまで2回、お勉強シリーズを書いてきましたが、シリーズ化してきました。そこで、表題を「お勉強に励んでいます。」として続けます。前回本邦の腱膜性眼瞼下垂の初出論文の紹介をしましたが、内容を説明しなかったので、再掲します。
Ann Plast Surg. 2001 Jan;46(1):29-35.
Etiology and pathogenesis of aponeurotic blepharoptosis.
Fujiwara T1, Matsuo K, Kondoh S, Yuzuriha S.
Author information
1Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Shinshu University School of Medicine, Matsumoto, Japan.
Abstract
How and why aponeurotic blepharoptosis develops was investigated in terms of the relationship between the levator aponeurosis and Mueller’s muscle functioning as the muscle spindle of the levator muscle. A total of 200 consecutive patients with moderate to severe acquired blepharoptosis completed questionnaires regarding their history of physical irritations to the eyelids, and intraoperative conditions of the levator aponeurosis and Mueller’s muscle were evaluated. Several kinds of physical irritations to the eyelids were reported, such as habitual rubbing of the eyelids, contact lens usage, cataract surgery, and continuous rubbing of the eyelids while crying all night. The two main findings for aponeurosis were that it was disinserted from the tarsus, resulting in a large amount of play between the aponeurosis and the tarsus, and that the aponeurosis and Mueller’s muscle were attenuated and elongated. The authors believe that rubbing may have caused disinsertion as well as attenuation and elongation of the aponeurosis, which result in transmission failures between the levator muscle and the tarsus as well as between the levator muscle and the mechanoreceptor of Mueller’s muscle, leading to clinical blepharoptosis.
この論文は、信州大学形成外科の松尾清教授が書いたのですが、Pubmed(USAの医学論文検索サイトで洋語のabstracct:抄録がある世界の医学論文のほぼすべてを網羅しています。)で、著者名と眼瞼下垂を入れると、一番古い論文です。
内容は、彼の現在に至る腱膜性眼瞼下垂の研究の始まりと考えられます。前回にも述べましたが、それまで眼瞼下垂症の病態において、先天性と後天性が混乱していたのですが、後天性腱膜性眼瞼下垂の病態を独立して説明しようとしています。 ここではまず、200人の患者に眼瞼への刺激の有無を質問しています。様々の刺激:まぶたを擦る癖。コンタクトレンズ装用。白内障手術。さらに一晩泣きはらして擦ったなどの原因があると記載されています。これは現在では常識化しています。
術中の肉眼的所見としては、上眼瞼挙筋腱膜の瞼板からの外れ:disinsertion と腱膜とミューラー筋の菲薄化と伸長が見られています。その結果、挙筋筋力=開瞼力の、瞼板=まぶたの縁への伝達が不足となり、さらにミューラー筋の力学的センサーが感知不能になり調節不能となり、臨床的眼瞼下垂症状を来すと述べています。
この知見は、これまでこのブログで再三述べてきたことそのままです。じゃあパクリかよ!って事ですが、そうです。医学的知識は、それを理解できる専門家集団で共有するべきであるからです。
ただし理解できる医師、理解しようとする医師、また日常勉強している医師はそう多くはありません。 実際、眼瞼下垂の疑いを持っている患者さんが、他の美容外科や形成外科にかかって治療を受けようとしたのに、「よく判らない!」とか、ろくに診察もしないで「うちでは重瞼術しかできない!」とか云われたり、要領を得なかったりして、彷徨うことになっています。そんな患者さんが当院を探してたどり付かれ、私が診察し、原因検索し、理学的検査し、フェニレフリンテストをして、後天性腱膜性眼瞼下垂の病態を説明し、診断の下に手術法の適応を説明すると、若年者はほとんど黒目整形:切らない眼瞼下垂手術=NILT法の適応となりますが、患者さんは「やっとできるクリニックにたどり着けた!。」といいつつ安堵されます。
ここでまた文中に戻ります。敢えて飛ばしたのですが、一番上の文節にある記述はこれから重要となる要素です。ミューラー筋の筋紡錘という存在が、現在に至るまで提唱されることになる眼瞼下垂症患者の合併症としての神経症状、つまり頭痛、肩こりや、交感神経症状=不眠、食欲低下、うつ状態等の機序として解明されていくための、科学的根拠になるからです。この後毎年の学会で彼がひとつひとつ解明しながら提示していくのですが、それこそ連続ドラマのように内容を理解し記憶していないと、次からさっぱりになってしまい、見続けられなくなってしまうのです。私も一応見続けてきましたが、飛び飛びになっていないとは言い切れません。
まあそれはそれでいいとして、皆さんに知って頂きたいのです。学術的な勉強をしている美容外科・形成外科医に比べて、勉強していない医師やビジネスとして美容整形もどきの美容外科を施行しているチェーン店クリニックの医師の、どちらの医師に診療してもらうかで差がつくのは当然です。
医療の質とは、医学的科学的知識に基づいて、ひとりひとり個体差のある患者さんいや人間を、診察つまり考察しながら適切な方法の選択をするかで決まります。勉強していなければレパートリーも狭く、適切な対処ができない訳です。
ですから、こんな難しい内容を解りやすく説明することが、私達医師にも反芻となり、役立つのです。知的話題はくだらないなどと言わずに、美容医療のコンセプトの理解の一助と思って眺めていて下さい。
もうひとつ、眼瞼の診療においては、機能(視野を得る)と形態(美容的つまり見た目)が必ず関連性を持ちます。なのに戦後の美容整形では、形態面だけを対象とし、思想的に忌避観念がありましたから、正しい美容医療が発展しませんでした。逆に言うと、機能だけを診る眼科医や一部の形成外科医は美容外科を馬鹿にしていました。美容医療は、美容外科と形成外科の両輪から成り立ちます。まぶたの美容医療はその典型で、いつも私が言う様に「良い機能は良い形態を見せ、良い形態は良い機能に宿る。」のです。今回のテーマからもよく解ると思います。
という訳で、今回も4編の論文を取り上げようと思っていたのですが、長くなったので次回に廻します。次回はいよいよ、二重まぶたと一重まぶたの考察をお送りします。
といっても私の書いた論文ですが・・。