2015 . 7 . 14

お勉強に励んでいます。−医者は一生勉強です。−Ⅳ

今回4回目となりましたお勉強シリーズですが、まだまだ眼瞼の論文で説明したいのがありますので、続けます。っといっても、今回は私の書いた医学博士論文です。医学博士とは、オリジナルの(つまり初出)の研究をして、欧米の医学雑誌に掲載された論文を、著者が説明して大学院の教授陣が審査員になり、科学的有用性があると認定された後、国会図書館に提出して医学博士の登録をして付与される称号です。テーマはオリジナルですから、時間と手間が掛かります。

Aesthetic Plast Surg. 2001 Jan-Feb;25(1):20-4.

Scanning electron microscopic study on double and single eyelids in Orientals

Morikawa K1, Yamamoto H, Uchinuma E, Yamashina S.

Author information1Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Kitasato University School of Medicine, Sagamihara, Kanagawa, Japan.

Abstract

The conventional theory is that Occidentals have a terminal insertion of the levator aponeurosis at the anterior portion, resulting in a double eyelid, whereas in Orientals this fiber is not present, and therefore results in a single eyelid have been anatomically demonstrated. However, there have been more than a few reports indicating that the anatomical difference between a single eyelid and double eyelid in Orientals cannot be explained by this theory. Therefore, in order to verify the direction of the levator aponeurosis in the eyelids of Orientals, we observed Japanese eyelids using a scanning electron microscope (SEM). As a result of three-dimensional, cross-sectional observations using SEM, we were able to confirm the existence of a branch of the levator aponeurosis that runs through the layer of the orbicularis oculi muscle and connects with the levator aponeurosis in the double eyelid, as in the occidental eyelid. This was not seen in the single eyelid. It is thought that this new anatomical finding will become an important fundamental for double eyelid operations in Orientals

この論文は、USAの医学雑誌Aesthetic Plastic Surgery 訳すとその名も美容形成外科に掲載された論文です。ISAPS; International Society of Aesthetic Plastic Surgery訳すと国際美容形成外科学会(=ISAPSの上部団体)に所属する美容外科医が審査する医学論文掲載誌です。
本邦では、初の美容外科分野の論文での医学博士取得です。敢えて余計なことを言うと、形成外科では、形成外科分野の研究で医学博士を取得するし、他科からの転科してチェーン店に勤める美容整形屋はもちろん他科の分野で医学博士を取得している医師もいます。
表題を訳します。“東洋人における一重まぶたと二重まぶたの走査電子顕微鏡による検索”としました。これまで、二重まぶたと一重まぶたの構造の違いを明確に説明する研究論文はありませんでした。何故かというと、一重まぶたは東洋人のそれも一部にしか存在せず、白人には興味がないからで、何度も言う様に、残念ながら、日本では国民が美容外科を医療として見ていない、または医療界で見下されているから、誰もこの分野の研究をしなかったからです。
これまで僅かに、光学的顕微鏡(=光学的レンズで拡大して見る子供でも持っているような者で、スライス像しか見えない。)での研究はありましたが、100倍がいいところですから細かいものは見えないし、3次元的構造の描出はできませんでした。そこで私は、走査式電子顕微鏡で3次元的構造を描出しようと考えました。
結論から述べますと、二重まぶたの人では、上眼瞼挙筋腱膜から皮膚に向かって腱膜からコラーゲン繊維が枝分かれの様に走っていて、まぶたの縁を挙げる際に(目を開く時に)皮膚も一緒に引き上げる構造であり、一重まぶたの人では、枝分かれのコラーゲン繊維がないという差異を画像に描出できたのです。
走査式電子顕微鏡とは、検体をいろいろな方向から見ることができるし、太さ1.5nm,長さ300nm(nmは10の9乗分の1m)のコラーゲン繊維を描出ができる器械です。画像を見ると本当にそのコラーゲン繊維の走行の差異=構造的差異が証明できました。
実は、私が世界で初めて解明したことではありません。なぜなら、これまでも手術中に視認していたから、そうだろうなとは思っていました。どういうことかと言いますと、一重まぶたの人を二重まぶたにする重瞼術の際には、瞼板上縁の高さで、上眼瞼挙筋の前には眼窩脂肪が眼窩隔膜に包まれたまま存在しているから、挙筋腱膜から皮膚への繊維がないのは見て判っていました。二重まぶたの人が、加齢により皮膚が伸展して切除する際に、重瞼線を切開して、上眼瞼挙筋腱膜前へ剥離していくと、ちゃんと腱膜から皮膚へ向かってコラーゲンと思われる繊維がすだれ状に並んで眼輪筋に入り、重瞼線の皮膚へ向かって行っているのが見られました。肉眼的、一重まぶたと二重まぶたの構造的な差異は見い出せていました。
ですからこの論文では、走査式電子顕微鏡でそのコラーゲン繊維の走行を描出しただけです。そこがポイントで、それがコラーゲン繊維であることを、科学的に証明しました。手術中に肉眼で見て、なんか構造が違う二重まぶたと一重まぶたの違いが、コラーゲン繊維の走行の違いであることを証明したのです。
実はこれで、手術中操作において注意点ができたのです。一重まぶたの人を手術する際は、コラーゲン繊維の替わりに、私たちが何らかの方法で(糸などで)連結を作ることが必要だと考えられます。そして二重まぶたの人を手術する際には、コラーゲン繊維の連結をそのまま活かすように注意するべきだと考えます。このことは、眼瞼の手術すべてに於いて重要な知識です。重瞼術叱り、加齢に対するしわ取り術=皮膚切除術叱り、眼瞼下垂症手術においても当然念頭に置いていかなければならない知識であり、診察時には鑑別しておかなければならない重要なファクターであることの証明であった訳です。
自画自賛のごとく、自分の論文を説明したのですが、医学博士取得のための研究は、周囲の先生方のサポートの賜物です。論文の共同著者の3人です。北里大学前教授内沼栄樹先生に、テーマを示唆してもらい、論文執筆に当たっては微細に亘り、校正を頂きました。同僚の山本博先生には、標本作成を手伝ってもらい、執筆時に多くのアドバイスをもらいました。末記の山科正平先生は、当時北里大学医学部解剖学教授で、標本作製のノウハウを授けてもらっただけでなく、走査式電子顕微鏡の使用法(結構難しい。)を教えてもらいました。そうだ、その点では、理学系の技術者の勝又さんに、すべて教えてもらいました。この場で皆さんに感謝の意を表させてください。
今回は手前味噌な論文説明でしたが、久しぶりに読み直して、勉強し直しました。日常的に診療場面で披露する機会がある知識はいいのですが、日常的に言葉にしない知識はそうです、知識は反復して頭に入れて置かないと抜けてしまうのです。学生時代の勉強を思い出しました。頭に入れるにはなんらかの筆記をすると効率的で確実でしたよね。だから、こうやってブログに書いているだけで知識がリフレッシュされるのです。

自分で書いた論文を説明して、自分も勉強になったっていうんじゃあずるい話なので、次回からまた、世界の論文を紹介して、知識を皆さんと共有していきたいと思います。