前回から、お勉強シリーズを始めてみました。長編となってしまい、とても読めないと思います。いいんです。英語文のところは無視して頂き、要約を読んでいただければ、言いたいことは伝わる筈です。というか、私としてはこういう勉強を日夜しているのですよ!。ということを知っていただきたかっただけです。
前回は、4編の論文を載せました。一応繋がりのある内容で、ハードコンタクトレンズの長期装用が眼瞼下垂症原因となる。ソフトコンタクトレンズでも起きる。組織検査では筋のダメージが見られる。腱膜性眼瞼下垂症の診断と同じである。との論文の説明を致しました。
そこで今回はさらにたどってみました。私達眼瞼の治療に邁進する美容形成外科医にとって、一丁目一番地ともいうべき、後天性腱膜性眼瞼下垂症の論文です。
Aponeurotic ptosis surgery.
Abstract
The recognition of defects in the levator aponeurosis associated with a renewed interest in eyelid anatomy has led to a revival of aponeurotic surgery. We describe our approach with emphasis on techniques that help obtain and maintain avascular planes throughout surgery. The advantages of this approach include preservation of (1) tear-producing structures, (2) Müller’s muscle and Whitnall’s ligament, and (3) normal anatomical planes and structures of the eyelid. Our results indicate that this technique is the procedure of choice for acquired ptosis cases. It also gives good results in congenital ptosis cases with at least 5 mm of function. Overcorrection at surgery is necessary in all cases. Tucking of the aponeurosis is to be avoided as no raw healing surfaces are obtained. Results in 60 eyelids with a minimum follow-up of one year are presented.
実に、今から36年前に既に、腱膜性眼瞼下垂症の概念と手術法が記載されているのです。それまでは、先天性眼瞼下垂症の治療ばっかり提唱されていました。形成外科や整形外科は先天的異常の治療を主たる目的として発展して来たからです。眼科領域では一部の医師しか眼瞼下垂を診療しませんから、論文も少ないです。 というか、欧米ではOphthalmic Plastic Surgery という科目?というか医学論文掲載雑誌があって、訳すと眼形成外科ですが、その分野を得意とする医師たちがまぶたの疾患、つまり主に眼瞼下垂症を研究しています。
これまで何度も述べましたが、アジアには一重瞼という先天性皮膚性眼瞼下垂症患者がたくさん存在し、眼瞼の治療というと先ずそこの修正=重瞼術から行われました。つまり形態の改善が目的とされていました。だから、ある意味医療として見られなかったような面がありました。だからぁ~違うんです。眼瞼は機能と形態が有機的に重なっている部位なんです。欧米人は全員二重瞼ですから、皮膚性眼瞼下垂の手術である重瞼術は発達しませんでした。そのため、狭義の眼瞼下垂症の診療分野が進んだのです。近年やっと、本邦でも形成外科医で美容外科を診療する医師が増え始めて(私達は歴史的にその先駆けです。)、機能と形態を同時に改善できる知識と技術が醸成されてきました。
本論から外れました。眼瞼下垂症は主に、先天性=筋力低下と後天性=腱膜性に分類されます。上に述べたようにごっちゃになっていたのを、後天性腱膜性眼瞼下垂症の概念が記載されたのは、36年前です。本邦では少なくとも、今から20年前までは学会でもごっちゃなままでした。2005年に信州大学形成外科の松尾教授が発表したのが最初です。下記に抄録を掲載します。
Etiology and pathogenesis of aponeurotic blepharoptosis.
- 1Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Shinshu University School of Medicine, Matsumoto, Japan.
Abstract
How and why aponeurotic blepharoptosis develops was investigated in terms of the relationship between the levator aponeurosis and Mueller’s muscle functioning as the muscle spindle of the levator muscle. A total of 200 consecutive patients with moderate to severe acquired blepharoptosis completed questionnaires regarding their history of physical irritations to the eyelids, and intraoperative conditions of the levator aponeurosis and Mueller’s muscle were evaluated. Several kinds of physical irritations to the eyelids were reported, such as habitual rubbing of the eyelids, contact lens usage, cataract surgery, and continuous rubbing of the eyelids while crying all night. The two main findings for aponeurosis were that it was disinserted from the tarsus, resulting in a large amount of play between the aponeurosis and the tarsus, and that the aponeurosis and Mueller’s muscle were attenuated and elongated. The authors believe that rubbing may have caused disinsertion as well as attenuation and elongation of the aponeurosis, which result in transmission failures between the levator muscle and the tarsus as well as between the levator muscle and the mechanoreceptor of Mueller’s muscle, leading to clinical blepharoptosis.
さて上記の論文は、信州大学形成外科の松尾清教授が眼瞼下垂症について書いたPubmedで検索できる最初のものです。 彼は、日本形成外科学会や日本美容外科学会(JSAPS)でも、毎回議論沸騰の発表をします。少なくとも、年配の美容外科・形成外科医には理解不能の様で、評価が得られていません。また毎回いくつもの発表をし、それが連綿と関連しているため、見逃すと次から解らなくなります。学校の勉強でもそうですよね。周りの多くの美容外科・形成外科医と話題にしても、理解している人はほとんどいません。難しいからではなく、論理構成が連続しているの途中でで解らなくなるのです。成書がないためでもあります。もちろんこうして論文をよく読み込んでいけば、ポイントは把握できます。
またその替わりに、マスコミでの啓蒙はかなりされています。もちろんそこでは、難しい論理は説明せずに判りやすく話していますから、特に日本人をはじめとしたアジア人には、一重瞼という眼瞼下垂症の基礎疾患を持つ人が多いため、国民には有用な知識を披歴しているとして、結構有名です。
さらにもう一つ、何年か前に議論した際に「一重まぶたの人は眼瞼下垂だから、重瞼術は保険治療にすべきだと思います。」といってました。国民に優しい医師なと感銘を受けました。
それはそれとして、かなり長くなってしまったので、一度手を止めます。 上記論文をはじめ松尾先生の論理の話は次回以降とし、Pubmedを見ていたら、さらに面白い論文があったので、2枚の表題を載せます。
The levator aponeurosis. Attachments and their clinical significance.
[Ptosis surgery: anterior approach for levator aponeurosis shortening (author’s transl)].
次回以降説明します。