2016 . 6 . 8

粉瘤の経過:これなら傷跡は消えます。

先週手術した粉瘤摘出の症例の経過です。

粉瘤は私達形成外科医の得意分野です。今回症例提示をご承諾いただけたので、画像を提示します。症例は55歳男性。背部に嚢胞があります。

実は本症例は経過が長く、年単位で破裂、炎症、他院で切開を繰り返し、当院には約1年前に辿り着きました。当院初診時も炎症が強く、切開排膿の後に連日清浄化し、閉創しました。最後に私が拝見して、「膿を出して炎症が治まっても、嚢胞(袋)は残るので、まず必ず再燃します。袋がはっきり触れる様になったら、摘出しましょう。今回はタイミングを逃さないといいですね。」と告げておいたのです。

予定通り、来院され、「これなら取れますよね。」と尋ねられた時には、私も「取り時ですね。いいタイミングです。良かったですね。」と答え、早速手術予定を立てたのです。OLYMPUS DIGITAL CAMERAOLYMPUS DIGITAL CAMERA

上記画像の左が術前約1㎝の不整形の皮下腫瘤にマーキングして、その上の皮膚は切除するため、長径3㎝の紡錘形に切除デザインをします。背部は皮膚に余裕があり、顔と違って部品がないので皮膚を切除しても寄せられます。上右画像が縫合術直後で、約3㎝の縫合層となっています。画像がないのですが、ちゃんと3層縫合しています。若干盛り上げて縫いました。

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上記画像が1週間後で、左が抜糸前術です。画像上は術直後と変わりませんが、創縁の線の赤さは減っています。1週間で表皮は癒合している証拠です。ですから抜糸します。右が抜糸後です。糸の掛かっていた孔は赤井のですが、創縁の赤みはほとんどありません。盛り上がりは保たれています。これなら、創跡は消えるに等しいでしょう。約3ヶ月間で赤みも消失し、盛り上がりも戻るでしょう。ちゃんと経過をお示しして行きます。

前回二つの事を説明しました。粉瘤の事と真皮縫合の事でした。今回は更に二つ説明を加えます。表面縫合法と、盛り上がりの件です。

表面縫合法は、真皮縫合が確実なら要らないと考える医師は少なからずいます。実は間違いです。縫合の目的は創閉鎖ですが、出来るだけ目立たない様な結果にするなら、縫合のプロに任せなければなりません。これには二つの理由があります。一つはまず、真皮縫合でピッタリ寄せられなければ創跡は綺麗になりませんが、それが出来る医師は形成外科医以外にはまずいません。ならば、真皮縫合が出来ない医師には綺麗に表面縫合をする機会もありません。形成外科医以外の表面縫合は綺麗に縫う動機はないのです。そして逆に、形成外科医でも表面縫合をするのは、完璧を期しているからです。真皮縫合でピッタリ寄せることは出来ていても、全く段差がないとは限らないからです。㎜以下の段差はままあります。これを表面縫合で治すのです。このくらいの単位の調整は、私達形成外科医なら容易に出来ます。だから表面縫合は仕上げとして必要なのです。

その表面縫合法として、今回使用した方法は連続縫合です。毛布の縁の様にかがっているのでブランケット法と呼んでいます。一つ一つ結ぶ方法を単結紮縫合法をいいますが、結び目が皮膚を潰すので点々の跡が出来てしまいます。ですから、必要以外は連続縫合法の方が治りが早いのです。これは真皮縫合の跡の段差が小さいから使える技です。決して楽をしている訳ではありません。これも一種のサービスです。

盛り上げて縫い、患者さんに見せると時々驚かれます。「わざとですよ。」と言い、「これが創を綺麗に治す重要な技の一つです。」と言っても、患者さんはたいていぽかーんと口を開いて黙っています。前回創の治り方を説明しました。表皮は数日で癒合しますが、真皮層が癒合するのには数週間かかります。その間に創縁に緊張が掛かると析出したコラーゲンが切れて幅が広がってしまいます。そこで緊張に負けないようにするには、更なる技術が存在します。真皮縫合で盛り上げて縫合する技です。そうすれば創縁が引っ張られてもコラーゲンは伸びてはまた戻るを繰り返すだけで切れないで済むのです。コラーゲンはバネみたいに弾力があるからです。具体的には切開時に斜めに約80度倒して切り、真皮縫合時に奥から掛ければ盛り上がります。簡単に述べましたが、実際には難しいです。そんな事形成外科医しか知らないので、他科の医師で出来たのを見た事はありません。ただし、盛り上げ縫合は場所により使い分けます。顔面等は血行が良好で運動範囲が小さいためなため、創治癒が良好なので、原則的には盛り上げません。下手に盛り上げるとガチッとくっついてそのまま畝が残ります。そしたらゴメンナサイです。比して体幹と四肢では運動により緊張が生じるので原則盛り上げます。特に他科の創跡修正では山脈の様に1㎝とか盛り上げます。それでも負けて幅が広がる事さえあります。とにかく体幹では盛り上げて始めて形成外科的な創を目立たなくする縫合だと覚えておいて下さい。ところで皆さん、盛り上がりとケロイドを区別して下さいね。時に患者さんに「エエッ、ケロイドみたい!」って言われますが、私は「逆にケロイド予防です。」と言い返します。そうです創跡が広がるからその隙間にケロイドができるのですよ。盛り上げれば広がりにくいのでケロイドを予防できます。

今回の症例では形成外科医療の粋を提示して、何が違うのかを説明しました。いいですか皆さん!。医療は専門家を養成しています。医者なら何でも出来る訳ではないのです。形成外科医はまず第一に、創跡を目立たなくする技術を研鑽します。そこらへんにある他科と違いますし、非形成外科の美容外科屋(主にチェーン店)はその点で下手です。ですから今回の説明を理解した上で形成外科を受診して下さい。逆に言えば、形成外科で切除や切開手術を受けましょう。下手な非形成外科の美容外科屋で無駄なレーザー治療を受けて、結局私達がやり直しをする機会が多いので間違わないで下さい。もう一つほくろでも粉瘤でも切除をした方がいい場合は、ちゃんと診断します。私達形成外科医が丁寧に手術すれば、創跡はもっとも目立たなくできます。手術を怖がって後手後手にならない様に、くれぐれもお大事に。