眼瞼下垂症手術は切らない手術では自費診療ですが、切開法では保険診療です。もちろん適切に診療されて、厳密な診断に基づく場合に限られます。ところで眼瞼下垂症は、私も毎回書いて来た様に、概ね四つのカテゴリーに分けます。先天性と後天性。前葉性と後葉性です。その中で先天性前葉性眼瞼下垂症、つまり遺伝的な一重瞼や、その上眼瞼挙筋の筋力低下を伴う先天性後葉性眼瞼下垂症を伴う場合でも、蒙古襞は被さり拘縮していることが、ほぼ必発です。
題名に書いた通り、一重瞼の遺伝子は蒙古襞の拘縮を起こす遺伝子と同座と考えられています。同座とは同じDNAが決めるということです。なぜかと言えば、目的があるからです。2万年前にモンゴル地方は最終氷河期でした。そこでは目がぱっちり開いている人は凍ってしまい見えないから、自然淘汰されたのです。同所では一重瞼と蒙古襞で目が小さい人が多く継代(遺伝子を継いでいく)しました。その後彼らが南下して、韓半島や中国へ進出し、日本列島にも弥生時代に渡ってきました。ご存知の様に、古墳時代には渡来人が多数となり(遺伝子の割合として70%以上)、一重瞼が流行り始めました。でも縄文時代以前から日本列島に渡来していた人間は、この遺伝子が東アジアに蔓延る前に来てますから二重瞼でした。ただし二重瞼の遺伝子が優性なので、現在統計上日本人は一重瞼と二重瞼が半数ずつとなっています。蒙古襞の拘縮と被さりは、遺伝子の濃さが左右しますから程度の差で、日本人を含む東アジア人は皆持っています。ですから一重瞼者と二重瞼者の蒙古襞の程度の差も統計上の差です。
結果的に、蒙古襞の拘縮が眼瞼下垂症の原因の半分を占めます。解りやすく言えば、一重瞼者の蒙古襞の被さりと、二重瞼者の蒙古襞の被さりは、内眼間距離(目と目の間)にして平均値として3㎜の差があります。したがって”自然!”状態に、つまり先天性前葉性眼瞼下垂症である一重瞼を治して正常の二重瞼に改善するためには、目頭切開術(本当は目頭形成術)を併用するべきです。その方が自然な形態と機能を造り出せます。
なお目頭の蒙古襞は切開と言っても切除するのではなく、Z-形成術を施行するべきです。何故なら、蒙古襞は拘縮=目頭の下に付着して突っ張ることが病態ですから、皮弁形成術の一種であるZ-形成術で、拘縮を解除することが目的に叶うのです。これこそ形成外科医の得意とする独壇場です。昔父(非形成外科医)が切り取る手術をしていましたが、それこそ不自然な形態でした。私はそれを見て、まともな美容形成外科手術をしたいと考えて、形成外科で勉強したのです。
現在、美容医療の分野は美容外科と形成外科が混在しています。今回の手術がその一つです。ですから、同時に併施する必要がある場合が生じます。その場合形成外科医と美容外科医が助け合って手術することになります。その場合は混合診療にならないはずです。
厚労省は医師会の言いなりなので、保健診療を護ることしか考えていません。逆に、政治家は献金を求めてますから、金持ちのS.やT.などのチェーン店系の非形成外科の美容外科医を、取り締まれません。したがってチェーン店系では金儲けのための自由診療に特化しています。美容形成外科医で保険診療と自費診療を併用している開業医も少なからず居ますが、広告が控えめな医師が多く、結局は細々と、保険診療をメインにしていくことが多いのです。
混合診療とはご存じの通り、保険診療と自費診療を同時に施行していくことですが、現在多くの例外があります。別の診療科目が手術するのはその一例です。保健医療の法制を適切に理解できないで、厚労省が誤解して、レセプト審査の係員が他院に調査に行ったのを聴いたので、手術を同時にしないことになりました。結果的に本症例の患者さんは連日手術することをお願いしました。
症例は22歳男性。来院時早速、「知り合いが先生に手術してもらったのですが、自然でよく出来ていましたから、僕もお願いしたいのです。」と嬉しいお言葉を賜ったのですが、私の心には”同様に好結果を出さないと残念感が強くなるな”とプレッシャーを感じます。
早速診療します。
画像は日時を追って診ましょう。
術前の両側眼瞼部遠近二葉。左が遠景、右が近景ですが、近景では輻輳するので寄り目になります。蒙古襞で目頭の白目(眼瞼結膜)が隠れるので、余計にそう見えます。
近接画像ですが、黒目(角膜)の上に架かる眼瞼が最大2㎜以上隠しているのは眼瞼下垂症の基準です。また白目の見える面積が、内側と外側でかなり違うのは蒙古襞の為です。
まず一日目は蒙古襞の被さりと拘縮から手術します。でも眼瞼下垂症の手術の為の切開デザインも書いておきます。消えないと良いのですが・・。
目頭Z-形成のデザインを、左側で視ましょう。上左図が術前です。上中図の左側の線画と同じはずです。上右図は術後です。上中図の右側の線画と同じになっています。60度の正三角形二つを入れ替えます。すると線画上で幾何学的に三角関数で計算すると、縦に1.73、”ひとなみにおごれや”(≒√3)倍に延長し、横方向に1/1.73の短縮しています。あくまでも机上の空論、あっ、いけない計算上の改良方ですが、視診上も効果は得られています。下図を診ましょう。
二日目の術前画像です。一日前に描いた眼瞼部のデザイン画は消えませんでした。よかった!。
二日目の術前画像は一日目の術後画像です。近接像で視ると、目頭の位置と向きが変わって、縦に拘縮(突っ張り)していませんし、内側の白目が見えます。この後眼瞼部のデザインを描き直して、手術いたしました。
手術の詳細ですが、まず切開&予定幅切除は皮膚、眼輪筋の順です。前葉性を治します。SOOF (脂肪)も切除して、眼瞼挙筋腱膜を露出します。次に、眼瞼結膜側から腱膜を瞼板に縫合して、後葉性を改善します。その糸を皮膚側に引き出して、瞼縁側の皮膚と繋げて重瞼を作成します。先天性前葉性眼瞼下垂症を解消します。
上には術直後の両側眼瞼部像、遠近二葉。術中にはよく開いていた左側がイマイチとなりました。実は手術の最後に毛細血管を貫いて出血したからです。左右の片側に合併症を起こすと当分差が見えてしまいます。困った!。
近接画像では腫脹の程度が明らかに判ります。
術後1週間で全抜糸しました。左眼瞼の腫脹は軽快中ですが、まだ左右差が見られます。
近接画像では左眼瞼の腫脹が減っては来ています。
術後3週間でかなり開いてきました。でもまだ重瞼に差があるので対称性が得られていません。
近接画像では開瞼の差が見られます。尚、術後3週間で見るのは目頭の肥厚性瘢痕の悪化が起きていないかを見る為です。その点に関しては良い経過です。次は術後6週間で悪化していないか診ましょう。
でもまだこの状態では、ブログを公開しません。
こうして術後6週間で画像を頂きました。
やっと左眼瞼の腫脹が軽快して来て、開瞼がほぼ対称的となりつつあります。
近接画像を撮る際には、むしろ左眼瞼の方が右眼瞼よりも大きく開いてくださいました。一瞬の時間差ですが、画になる様に患者さんの脳が調整してくれたでしょう。
ところで術後6週間で診る目的は、目頭形成後の肥厚性瘢痕の極期と考えられるからです。近接画像で診ても肥厚性瘢痕は起きていません。傷跡も目立たなくなって来ました。ケロイド治療は不要です。
なお、よく診ると、重瞼線の下の瞼縁部付近はまだ若干の腫れが診られます。特に左眼瞼の中央部付近が多いと見えます。そこで患者さんは、紫色が残っていると気が付きました。「内出血ですか?。」と尋ねます。私”いいところに目を付けましたね”。と思いながら、「重瞼線の下の部分は上下の血行が遮断されるから、静脈還流が落ちて紫色になるなのです。」と言いつつ、私が目を閉じて、眼瞼を見せます。「ほらね!?。私は二重瞼です。この様に線下は色があります。」患者さんは納得して「そうなんですね。」と仰る。
上左図は閉瞼時の患者さん。線が赤いのはまだ1ヶ月ですから、いずれは白い線になります。線下の皮膚は内出血ではなく紫色です。上右図は私が閉瞼して撮りました。線下は紫色というよりは色素沈着しています。64年間血行が低下して生きて来たので紫から濃い色になりました。
今回は上方視と下方視でも撮りました。ご覧の様に上向いても対称的によく開き、下向いての隙間も対称的です。よく開いているのを確かめました。
これで一度ブログ公開できます。もう一度術後3ヶ月で診ます。パッチリ、クッキリして、目力が付いているでしょう。私「来年社会人ですよね?、就職にも使えるでしょう。この目力は社会的に有用でしょう。」と軽口を加えておきましたが、次回の画像が楽しみです。
下には術後3ヶ月での完成像。
眼瞼部遠近二葉。よく開きました。患者さんからもお褒めに預かりました。
なぜか左眼瞼部近接像撮影時に内側視しました。ですが開瞼は見事に良好化しました。眼裂(目の窓)の形もアーモンド型で瞼に無駄がなく綺麗です。
当院では、一昨年に厚生労働省より改定され施行された「医療機関ホームページガイドライン」を遵守しブログを掲載しています。
医療法を遵守した情報を詳しくお知らせするために、症例写真・ブログに関しましても随時修正を行っていきます。症例写真の条件を一定とし、効果だけでなく、料金・生じうるリスクや副作用も記載していきます。ブログにも表現や補足の説明を付け加えさせていただきます。
施術のリスク・副作用について:・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・目頭の切開部位は、目やにがでる場所ですので、消毒にご来院下さい。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、切開部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。
費用は眼瞼下垂症の診断が得られれば保険診療で3割負担は約5万円(出来高請求です。)目頭形成術は角膜に掛かる程でないと保険は適用出来ません。自費で28万円+消費税。