私の９〜１０年次。平成８年、１９９６年までの話しは、残りのカナクリとのハードな折衝まで紹介します。尚ここもS前教授が引き攣れていきます。
その後は１１年次、平成９年に茅ヶ崎徳洲会総合病院形成外科・美容外科部長を務め、翌年平成１２年に、遂に銀座美容外科に常勤として一年だけ務める事になります。
カナクリの院長は、北里大学卒業で小児科に入局したのですが、数年で辞めて川崎の堀之内に開業しました。知る人ぞ知る、ソープ街ですね。もちろん性器科と男物が対象です。場所柄かなり儲ったようで、その後同様に自費治療の美容外科に進出しようと考え、十仁のベテランの副院長を引き抜いて指導を受けた後、渋谷に開設しました。直ちに広告戦略と、全国展開に乗り出し、その頃は支店数一位を誇り、売り上げも絶好調でした。
もう一度歴史を思い返すと、戦後すぐからの、美容整形は全くの自己流か患者を送って盗む事で手術法を覚えました。昭和３０年代から欧米で学んだ医師によって(S教授の時代)形成外科が診療される様になると、彼等は欧米の形成外科的美容外科,Aesthetic Plastic surgeryを普及しようとしましたが、広告戦略には勝てなかった。広告と言ってもコマーシャルは高く稀少で、番組出演が多かった。銀座美容外科院長の父は笑点に月一のレギュラー枠を持っていました。十仁はセールにでかでかと書いたヨットを葉山に係留していましたし、日本中の電柱に広告を貼っていました。昭和５１年に形成外科が昭和５３年に美容外科が標榜されると、おおっぴらに広告出来るから、戦略化しました。こうして、Tクリニックが打ち立てたビジネすモデルを真似てチェーン店が乱立しました。もちろん彼等は皆、形成外科医ではありませんから、技術や知識は持ち得ません。どこかで盗んだだけです。
しかし、カナクリが何故か一番になったのか？。一番の理由は、全くの素人だからです。そして盗むのでなく、教えを請うたのが効を奏したのでしょう。門前の小僧みたいな話しです。そして院長が素人なだけでなく、アウトサイダーで冷たい性格ですから、金儲けに徹していました。とにかく広告戦略に長けていて、電通からコンサルタントどころか電話対応要員の派遣を受けていました。それが後にもんだいを生じるのですが。
と言う訳で医療としての美容外科を向上させて、患者さんの利益を考える私達形成外科医としては一番の敵となっていました。そこで、元北里大学形成外科教授がターゲットにしようと考えました。彼は北里研究所病院の顧問もしていましたから、宇津木部長と医長の私を引き攣れて乗り込む事になりました。とは言ってもけんかしにいくのでは門前払いされるので、顧問契約の交渉を目的にしました。
まずは３人で白金から渋谷に出向きます。そこはカナクリ本院です。Y院長が歓待してくれ、まず現場を視察すると、学会で顔見知りの北大形成外科の医師がバイトしていました。その後、新宿のコールセンターに移動しました。そこは学校の体育館暗いの広さのフロアーにテーブルと電話が並んで、夫々に担当の女性が付いている。院長は「彼女等は電通から出向している。全国のフリーダイヤルはもちろん、地方からも自動転送されるのです。」と自慢する。私達は３人で、「そんなやりかただから、患者の希望何か汲む事なんか出来る筈無いし、だからトラブルも多いんでしょうね。」と影口を叩いてみました。でもその光景は圧巻でした。その後ラウンジに案内され、４人プラス秘書で会談しました。予め意向を伝えてあったので、院長から機先を制され「うちは教えてもらわなくても出来るよ！」と一言。すかさずS教授が「君は学生時代から成績も悪かったし、よくやってられるね。怖く無いの？」と尋ねても「ちゃんと研修システム立ててきましたから医療をしています。」と開き直り、宇津木先生が「欧米では、ちゃんと形成外科で勉強してからでないと、美容外科診療を出来ない制度があるのです。我々医局が顧問として教育していきたいと考えています。そうすれば医学的に向上します。」とか言ったら、院長は気色ばんで、「ここは日本です。そんな法律は無いし、あなた方よりうちの方が高度だ！」「そもそも、うちは３０院で３０億売り上げていて、広告に半分つぎ込んでいるから自分たちだけでやっていけるんだ。」と言い返され、こっちは黙ってしまいました。言うなればこちらも、教育と称してアルバイト口を得ようとしているのを見透かされていたのです。
私としては、会合の結果は予想通りでした。非形成外科の美容整形屋が形成外科の高度医療を求めない所か、却って下に見ているのは、父を見て知っています。ビジネスに徹しているカナクリがもっとも忌避するスタンスでした。
後日父とその話しをしたら、やはり「美容整形は歴史がある。形成外科は形成外科で、美容外科とは重なる部分はあっても違う部分がある。」と同じ事言ううし、返す刀で「そもそも、形成外科医って言うのははみだしもんだぜ。一般外科医としての、体力と知力の世界に着いていけない様な、ヤワな奴が転向したもんだ。整形外科医は知力要らないまあ大工と同じで、形成外科は体力の無いまあお針子か鋳掛屋とでもいっておこう。」とばかにされました。私はある意味納得し、「でも美容外科は何なんだ？」というと「ロマンだ。芸術だ。」とか言い返されてもう一度うなずきました。そして私は、美容整形でなく、形成外科を基礎にした高度な医療としての美容外科を推進していこうと決意したのです。こうして今の私があります。
後年カナクリは閉めます。そりゃあそうです。３０億稼いでも広告費の１５億は後払いですから、ちょっと下がると足りなくなりどんどん遅れるし、借りる事になる。そのうち銀行管理になり、電通からはてこ入れされ医療スタッフレベルは低下していくから、更に落ちていく。院長はそれまでの留保を持って、身売りして大枚残して見を引きました。数年間は継承されていましたが、最近それも消えました。
いやな世界を垣間みてみました。歴史には盛衰が付き物です。私達も心していかなければいけません。その前に歴史話に戻りますが、９〜１０年目の北里研究所病院から異動します。次回へ。
