2013 . 8 . 17

まぶたの機能と美容医療Ⅵ 眼瞼下垂その4 -当院での治療法-

前回、最初に述べましたように、分類は治療法の選択につなげる為です。ただし、ピタッとはまらないこともあるのは生身の人間だからです。そこで、本日は治療法の紹介と適応(ガイドライン)を記しておき、診断法は次回:ただしこれは患者さんの自己診断ができる方法も紹介します。

治療法として当院で主に行われているのは多種類あります。それは病因と病態、社会的適応から、選択されるべきだからです。

その前に解剖的構造、を提示しておきます。

美しい目の解剖 眼瞼の断面図です。

このままでは解らないので、必要な洋語(解剖の単語は語源が英語ではなく、ラテン語、機能的医学用語は英米語)の訳を記します。

Orbicularis muscle:眼輪筋=瞼を閉じる筋。Levator aponeurosis:挙筋腱膜=挙筋力の伝達。Mullers muscle:ミューラー筋=弱い収縮と開瞼の調節。Levator muscle:挙筋=瞼を開く筋。tarsus:瞼板=瞼縁の形作り。 これからもこれらの用語は頻出します。

加齢性皮膚性には、皮膚切除が必要です。伸びてしまった皮膚は除かなければ治せません。ただし取る量はケースバイケースです。簡単にいえば、最低瞼縁に皮膚が被さらないようにするだけ、プラス@は好みです。また眉をあげて代償している人には、そこまでの引き上げがちょうどいいようです。一重まぶたや狭い奥二重の人で希望があれば、普通の二重にして皮膚を持ち上げれば、皮膚の除去量が減らせます。予定の形はシミュレーションできます。

  1. 皮膚を除去する場所は瞼なら二重瞼の線から上に幅何ミリかをデザインします。5mm幅までが適切です。なぜなら、取りすぎると皮膚の厚さが合わないため段差ができて府支援になるからです。適切なデザインで、私たち経験のある形成外科医が手術すれば、傷跡は判りません。普通の二重瞼の人には折れ返り線があり、そこに傷跡があっても不自然感はないのです。二重の深さは緩く、アソビがある感じが自然です。私は永年の経験から調節に自信があります。そこで、加齢性に先天性や腱膜性が合併している場合、後で述べる手技:具体的には、LT法や、腱膜修復(固定)法を同時に行います。実際には加齢性では加齢慢性刺激による腱膜性が伴っている人が多いため、ほとんどの方で挙筋腱膜の強化を同時施行しています。どちらにしても、瞼を切開するとここは血行がいい部位なので、大なり小なり腫れは起きます。通常一週間かかると考えてください。眼鏡かサングラスで隠せる程度です。眼はもちろん開きます。両目ではカバーしません。片側ではカバーも可能です。この手術は保険適応ですから、老化による機能低下を治すためと思って、周りの人には、告げてから手術しましょう。でも、私たちは形成外科、美容外科の経験ある専門医ですから、いい感じに仕上げますよ。
  2. 皮膚を切除するのを眉下で行うことも多いです。二重瞼がはっきりしていてでも皮膚が伸びてきてしまった人、一重まぶたや奥二重で皮膚が伸びたので邪魔になってきた中年者で、ラインを変えないで皮膚だけ取るのには眉下が適しています。眉の生えている直下は皮膚が厚く、傷の治りがいいため、私の手術した患者さんで傷跡が気になった人はいません。ただし挙筋の処理は同時に同じ切開からは行えません。後日追加を原則としています。老人性皮膚性眼瞼下垂症の診断の下には、保険治療が適応となります。術直後の傷は赤い線が見えますが、糸は透明にしますから見えません。腫れは少ないですが、内出血は起き得ます。でも傷以外の場所はメイクできますから隠せます。総じてダウンタイムの短い(数日)な手術です。当院の40歳代のナースの手術をした際は、そのまま仕事していました。患者さんには気付かれなかった様です。
  3. 腱膜性は、腱膜が瞼板から離れているだけで、筋力が弱くないものをいいます。この場合ただの修復固定術でいいのです。腱膜性眼瞼下垂症の方は、皮膚切開(切除)ののち、腱膜を露出させると、硬い腱膜が瞼板に連結していないか、腱膜そのものが薄く柔らかくなってしまっています。逆にいえば、正常な硬い腱膜は存在し、筋力も保たれているならば、硬い腱膜を瞼板にくっつければ、筋力が瞼縁に伝わってちゃんと瞼が開くようになるわけです。保険診療ですが、瞼のほぼ全層にわたる操作が加わるため、腫れます。約1週間はかかります。病気治療だと割り切ってください。
  4. 先天性眼瞼下垂で重症例では(幼少時に瞳孔にかかるほど開かない子)、視力発達のために3歳までに手術されます。術式は吊り上げ法が標準だと思います。瞳孔が隠れない軽症例では、幼少時に手術が見合わせられるケースも多いようで、大人になってから来院される方も多いのです。この場合私たちは、瞳孔にまったくかかっていないケースでは、まず挙筋短縮術を試行することが多いです。上記3の術式で、腱膜が外れていない場合(挙筋力が弱いと外れにくい)、一度挙筋腱膜を瞼板から剥がして、上方の腱膜を瞼板に縫合します。私は筋体まで短縮はしませんから、10mm短縮までとしています。この方法は、筋力を強化するのではなく、眼瞼の動く範囲を上に持ってくることになります。眼瞼が閉じた位置から最上方視までに動く距離(挙筋筋力または挙筋滑動距離と言います:次回詳しく説明します)は正常で12mm以上あります。先天性眼瞼下垂とは筋力が弱いのですが、つまり、動く距離が減るのです。例えば8mmの人は正面視で角膜(黒目)の上に2ミリ以上かかってしまいます。これを閉じた時には薄目とし、(2mm以下なら乾燥性角膜炎にはなりません)まぶたの動く範囲を上にスライドさせることになります。この結果開くようになるというわけです。但し、閉じたときの調節からして、たくさん縫い縮められません。それに薄目は美容上容認されないし、下を向くときも奇異な容貌を呈します。機能重視か容貌重視かが問われる難しい手術だと思います。幸い私共では、美容上容認できないほどの結果は作っていませんが、正直言って、他院での手術結果で、アレッと思うことはあります。
  5. 吊り上げ術は、中等度以上の先天性に有用です。先天性眼瞼下垂症では、開瞼時に、前頭筋を収縮して代償しています。でも、眉毛を挙げて瞼を開こうとしても、しょせん皮膚を介して引き上げる訳です。そこで、眉毛部の皮膚の裏と瞼縁(瞼板)を何らかの伸びない紐で繋ぐのです。そうすれば、眉を10mm挙げれば、瞼縁も10mm挙げられるようになりますよね。先ほども述べましたが、眼瞼下垂症の患者さんは眉を挙げて代償しているので、容貌的に変わりません。無駄な力が抜けて楽になります。但し、代償による自律神経症状は軽くなりますが、理論的には解消しません。程度の問題です。紐としては、ナイロンは外れます。但し反応がないので何度でも追加できます。ゴアテックスは皮膚組織に癒着して外れにくいのですが、長期的には判りません。最近できた素材でアスフレックスというのがありますが、まだ試用中というところです。ちなみにこれらの人工物は体内使用のための物質で、害はありません。自分の身体からの腱や筋膜は癒着して外れないのですが、採集部に傷が増えるので、最終手段としています。今のところ私はゴアテックスを使用しています。保険診療です。薄目になるとまずいので、通常は片側ずつの手術としています。
  6. 実は当院で一番多い眼瞼下垂に対する手術は、切らない方法です。LT法といいます。但し、通常は自費手術となります。上図を見ていただくと、眼瞼結膜(瞼の裏の赤目)の前に、ミューラー筋、挙筋腱膜があるのがお判りですね。そこで、裏側から、これらを修復または前転(短縮)するのです。従来、裏から切開して(経結膜的)これらを操作する方法がありました。しかし、視野が狭く、調節が難しく、皮膚も切除不能で、裏からしても腫れるものは腫れるので、現在では行う医師は少ないです。そこで、結膜側から糸ですくってミューラー筋や挙筋腱膜を瞼板に止めたり、短縮したりする方法が行われました。当院の池田欣生先生の発明です。当初は、糸だけでは戻るのではないかと考えていましたが、長期的(5年以上)に経過を診ていても、戻らない症例がほとんどです。大事なのは瞼板に止めることとその位置。丁度良く開瞼が作れ、キレイな目元、若々しい元気な目元を作るために日々の手術をしています。最近のタレントさんでもパッチリ過ぎる人も含めて、よく行われています。何しろダウンタイムはないに等しい手術ですから。またもし戻ってしまっても繰り返し可能です。適応は腱膜性と先天性の軽症例で、美容目的にちょっと大きくすることも可能です。
  7. 通常の埋没法を、皮膚性眼瞼下垂に対して行うことはあります。軽度の加齢性皮膚弛緩性眼瞼下垂に可能な場合が少なからずあります。シミュレーションして患者さんにも見てもらい、「ピンと来てイケる。」ケースはその通りの結果を出せます。原則自費手術です。当院の埋没法:MT法、LT法は。適切なデザインを選び、特殊な精密な道具を使い、丁寧に手術しますから、ダウンタイムはないに等しいです。

以上の多種の手術の組み合わせで、さらに多種類の手術法があります。診断はケースバイケースで、また患者さんには選択の材料を提示するためです。

となると、あらかじめ患者さんにも自己把握していてもらいたいし、私としても診断根拠を説明したいので、次回にします。

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