2013 . 9 . 12

まぶたの機能と美容医療Ⅹ 重瞼術

これまで、まぶたの機能と美容について多方向の視点から、述べてきました。今回集大成として、重瞼術等に対する、私なりの正しいと考える点を述べたいと思います。

私の医学博士研究のテーマは「二重瞼と一重瞼の構造差」です。内容をもう一度説明します。目を開ける上眼瞼挙筋は、挙筋腱膜とミューラー筋に分かれて瞼の縁の瞼板に付いています。つまり挙筋は、まぶたの縁を挙げる構造になっています。挙筋腱膜の途中から前方に向かってコラーゲン線維の束が枝分かれしていて、皮膚またはそのすぐ深層の眼輪筋(目を閉じる筋)に付着していて、開瞼力が皮膚にも働いて、皮膚が持ち上げるような構造になっているのが、二重瞼。この構造が欠損していて、開瞼しても皮膚が置き去りになってしまうのが一重瞼。これが、本態です。この構造の差異を電子顕微鏡写真で描出しました。何度も述べましたが、皮膚が挙げらない一重瞼、つまり目の開きが小さいのは、眼瞼下垂症の一種といえます。ですから、一重瞼は先天性疾患です。近年、重瞼術は疾患の治療として保険診療を適応するべきだと考える形成外科医もいます。しかし、先天性一重瞼で、重瞼術の適応になる人は、わが国では半数近くいるため、残念ながら、現在の国家の経済状況では不可能な状態です。逆に言うと、保険診療でなくて自費診療でも、機能的観点からすれば、適応者に重瞼術を施行することは国民の福祉のためには、美容形成外科医の勤めではあるといえます。正しくないですか?。

ところで、重瞼術には糸でつなげる埋没法と、切開して瘢痕を作る切開法があります。一長一短があるから、二つの方法がある訳で、美容医療の有史以来両立してきています。

両者を比較を並べてみます。マ:埋没法/セ:切開法 まずは定着性=持続性。マ:永久的ではないと考えるべき、時には永久的、ただしこれは、後天性二重といい、成人になってから二重になる人もいるからです。先天性一重つまり、腫れぼったい一重では、多くの人が非永久的です。セ:永久的であるべき。その理由は後で述べます。次に侵襲=ダウンタイム。マ:針孔のみで、直後にも見た目には異常感がないか、ほとんどない。少なくても日常生活上困らない。当院では、麻酔針、針孔あけの道具、糸と通す針などすべての道具を特注し、世界最小の規格のものを使っているため、ダウンタイムも世界最短にできています。セ:どんなに優れた道具を使っても、切開すれば、出血しますし、その結果腫れます。糸は見えないのですが、ダウンタイムは1週間は見てください。当院の患者さんはほとんど眼瞼下垂の手術を兼ねて行いますので、疾患の治療と捉え、周囲の人に予告してから受けられるので、困らないとおっしゃっています。費用。セ:重瞼術は、先天性皮膚性眼瞼下垂の治療と考えていますので、切開法では保険適応するケースがほとんどです。3割負担では両側で約5万円です。マ:糸の本数と、挙筋の縫縮を加えるかで変わります。両側で10万円以下から、30万円前後までです。これより安いのは、安かろう悪かろうだと思います。

比較項目はまだまだあるかと思いますが、あとは、実際に診察時に・・。その前に、埋没法と切開法の科学的な仕組み、メカニズム、手順について述べておきます。先ずはまた、まぶたの断面図を提示します。美しい目の解剖

切開法は、瘢痕(傷跡)で二重の構造を作る手術です。まず重瞼線(開瞼時に折れかえる線)を切開します。皮膚は余っていれば切り取ります。切除幅は概ね年齢に依存します。経験上40歳で約3㎜、50歳で約4㎜、60歳で5㎜が適応と思います。皮膚、眼輪筋(図中:Orbicularis muscle)を切除し、眼窩脂肪(図中:Preaponeurotic fat)が垂れこんでいたら、上へよけます。すると挙筋腱膜(図中:Levator aponeurosis)が出ます。二重瞼は挙筋腱膜から眼輪筋への枝(図中:Lavator aponeurosis insertion into orbicularis)がある構造ですから、この替わりにここに瘢痕を作るのです。瘢痕とは=傷をつけると瘢痕で治ります。傷は瘢痕でくっつくのです。瘢痕とは、コラーゲン繊維の密な束です。ちなみに挙筋腱膜も枝もコラーゲン線維の密な束です。つまり、一重瞼で挙筋腱膜の枝がない構造を、瘢痕で二重瞼の構造に変換するのです。しかも、瘢痕のコラーゲンは、できれば二重瞼のコラーゲンと同様の強度を永久に保ちます。但し、瘢痕のコラーゲンは、固まるまでに3か月ほどかかります。ですから、コラーゲンができるまでは挙筋腱膜と眼輪筋をつなげておかないと伸びきったコラーゲンになってしまいます。これでは二重瞼になりません。しかし、眼輪筋と挙筋腱膜が接するほど近づけて縫い付けると、重瞼線が深くなってしまいます。昔は(父の時代は)皮膚を直接挙筋腱膜に縫い付けていましたから、目を閉じても二重になっていました。昔の芸能人に多い結果ですよね。私はそのような結果を数多く見てきて、これではおかしいと思いました。そして26年の経験を重ね、皮膚および眼輪筋と挙筋腱膜の間を丁度良く繋げることが出来る様になりました。そうして自然な二重瞼を作れるようになりました。この点は自負しています。もちろん傷跡は見えないくらいになるように細かく縫います。本来二重には線があるので、それと区別がつかないくらいの跡にできます。自分でした手術跡も判らないほどです。

埋没法は、二重瞼の構造である挙筋腱膜の枝分かれの替わりに、糸でつなげる方法です。0.3mm程度の太さの糸数本で、挙筋腱膜と眼輪筋をつないでおいていてあげるということです。糸を内蔵しておくのです。そんな細くても引き上げる力があるのかというと、充分です。コラーゲンは太さ1.5nm(nmは100万分の1mm)ですから束になってやっと力を伝えるのです。それに比べ糸なら最低2本でも充分です。糸を入れる方法は種々ありますが、眼瞼の裏側から挙筋群を貫いて皮膚に出し、結んで糸を孔に埋めるという方法が、多く用いられています。さて埋没法は戻ることがあります。何故でしょうか?。糸は切れたり、ほどけたりすることは滅多にありません。これまで他院で受けてから戻った人を、切開法でやり直すことが少なからずありましたが、糸が切れていたり、結び目がほどけていたケースはありませんでした。しかし必ず、糸のありかが、深くなっています。つまり術後当初は挙筋の力が皮膚または眼輪筋に伝わっていたのに、皮膚どころか眼輪筋にもかかっていなくなっているのです。糸は体に癒着しませんから、徐々に潜って行ってしまうことがあるからです。結び目が挙筋のすぐ上にあれば、皮膚、眼輪筋には開瞼力が伝わらないので二重まぶたではなくなってしまうのです。また眼窩脂肪が多く、挙筋腱膜の前に乗っていると、重さで糸が抜けやすいようです。では、どうすれば戻りにくくできるか?。LT法と組み合わせるのです。眼瞼下垂の時に説明した切らない眼瞼下垂手術法です。そもそも一重瞼の人は眼瞼下垂を伴うことが多いので、理にかなっています。挙筋を強くし、皮膚との距離を丁度良く結べば、皮膚にかかる力が減り、抜けにくくなります。あとは本数を増やせば1本当たりの負荷が減るので抜けにくくなります。但し絶対ではないのが、埋没法です。メリットは、ダウンタイムが最小であることです。二兎を追ってはいけません。そしてもうひとつ、万が一気に入らない結果でも戻せるのもメリットです。滅多にいらっしゃらないのですが、ゼロではないです。なんかこっちが否定されているみたいで切ないのですが・・。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です