2013 . 9 . 1

まぶたの機能と美容医療Ⅸ 眼頭切開2 -蒙古襞(もうこひだ)について治療法-

はじめに、私達の行う目頭切開術(内眼角形成術)は、特筆すべき経過および結果をもたらします。これは形成外科の経験、解剖および生理的知識に基づいて、美容外科手術の中でも、もっとも難しい目頭切開に上手に利用する事を目的としたからです。

何度も言いますが、私達は日本で69人しかいない形成外科専門医で美容外科専門医です。実はその中には、自称ナンチャッテ形成外科医が結構います。形成外科医の中には美学の無い、古い自称美容外科医が多いのです。美容と機能を満たす見解を持つと考えられるのは、60人のうち、私達東京皮膚科形成外科、リッツ、ベリテくらいで、一部の医師がシロモトの関東や高須にいるくらいです。

前置きはさておき、手術法は多岐に渉るので簡便に説明していきます。その前に復習!。蒙古襞は、目頭部位の涙湖=赤肉を隠す皮膚の被さりですが、下眼瞼とつながる事で突っ張り=拘縮を来たしています。

尚先天性に蒙古襞が異常に被さっている病態があります。一つは眼裂狭小症といい、眼瞼下垂に重度の蒙古襞が伴うため、瞳孔が隠れてしまう病態です。これまでにもいいましたが、瞳孔が隠れると、視力が発達しないので、生後早期に、全身麻酔下に、眼瞼吊り上げ術と内眼角形成術を行います。この場合の機能は視機能です。重度に対するサルベージ手術ですから、術式は美容的では無く、いかに開くかに焦点を置きます。突然歴史に戻りますが、蒙古襞はアジア人に特有です。形成美容外科は欧米発祥ですから、蒙古襞に対する美容外科的手術は行われませんでした。でも、眼裂狭小症は先天異常として欧米にも存在するため、多くの術式が欧米から報告されています。私はMustarde法をした事があります。日本で蒙古襞に対する目頭切開術が行われる様になったのは、戦後です。内田法が有名でした。もう一つ、蒙古襞というかは難しいかも知れませんが、ダウン症には内眼角贅皮があります。あの子供っぽい顔貌の一つです。ダウン博士は当初蒙古症と呼んだ事から、内眼角贅皮と蒙古襞を同一視し、人種差別していた様です。現在では遺伝子診断の対象になっていて、倫理的に議論されているところです。いずれにしても、ダウン症に於ける内眼角贅皮は、美容的には治療対象にはならない様です。機能的には開瞼可能なため、他の沢山の症状の治療を優先して、形成外科的には治療対象としない様です。

従来の目頭切開は切開の言葉の通り、切り取る方法では、被さりを取る事を目的としていました。その限りでは美容的形態の改善は満たす事ができますが、機能的改善を行えません。その結果機能敵損失は、形態的不良につながるので、形態的にも不満足な結果になってしますうのです。昔は蒙古襞を三日月型に切り取るだけの手術が行われていました。簡単な方法ですが、傷が再拘縮するので突っ張り、凹んでしまい美容的にも困った事になります。今だにこのデザインで手術する美容整形屋がいるのは困った事です。その後いろいろな手術法;拘縮を来さない様に、W型に切る内田法や父がよく行っていたJ二つ型に切るGonzarez法をはじめとして、数々の方法が報告されますが、どれも蒙古襞の拘縮解除には寄与しないデザインです。その結果やはり、再拘縮で傷が目立つ事になるるし、眼瞼下垂の改善には寄与しないのです。

ここからが重要です。私も池田先生も蒙古襞の拘縮に着目していました。父もです。蒙古襞は水かきなのです。10年前の学会で池田先生が学会発表をしました。その際池田先生が目頭切開の演題に質問をしました。他の聴衆は意味が解らず、シーンとしていましたし、演者もシドロモドロでした。私はこの時とばかり!質問しました。「蒙古襞は拘縮があるといいう事ですよね?」池田先生は「そう考えられますかね」と答えます。これは使える、解っている美容外科医だ1。それから彼に注目していました。

その時のこの術式は画像では提示されなかったのですが、Z形成法である事は聞き出しました。私は実はParkが1996年に発表したZ形成法をずっと行っていましたから、それの事かと思っていました。5年前池田先生と一緒に診療する様になって、教え合いました。彼の行っているのは韓国のカイロス式Z形成法で、同じ韓国のParkのZ形成法とはデザインが違いました。でも、両方とも、Z形成により、蒙古襞の拘縮の解除を行う方法です。私は今使い分けています。そこで構造をもう一度述べると、蒙古襞は下眼瞼の目頭側に終点があり、上眼瞼に向かって襞となっています。指の間の皮膚を例えば親指と人差し指を開くと指間の皮膚が突っ張りますよね。カエルなら水かきです。人でも水かきに似た構造です。そして蒙古襞も水かきに似た構造ですね。つまり眼を開くのに突っ張って邪魔している蒙古襞の皮膚を、如何にして邪魔しない様にするかで、眼が開きやすくなるかが目頭切開手術に於いて機能的に重要で、傷跡も再拘縮しないかが、美容的に形態的に良好な結果をもたらすかに寄与すると考えられます。

形成外科学的にはZ形成術の理論は1年生の問題です。でも、人間の皮膚の上ではデザイン次第で歪みを作ってしまうので、結構難しいものです。私達は微妙に角度や位置を変え、今や目頭切開で眼瞼下垂の改善に成功し、つり目の解消にもなる手術を開発しました。Z形成術は襞の稜線に縦の辺を描き、60度で一辺例えば4ミリなら襞の延長が3ミリ、襞の内側へ1.5ミリ移動します。両側で3ミリです。

Park法は皮膚を切除しながらZ形成するので、横の開きを優先する希望の患者さんには適応します。もちろんZ形成ですから、再拘縮が無いきれいな手術です。それに比してカイロス法は、皮膚を切らないので戻す事さえ可能ないい方法です。一辺の長さは3ミリから6ミリまでの範囲で症例によって使い分けます。デザインサイズにも因りますが、傷跡は大部分が残存する襞の後ろにあるため見えません。さらに糸は透明にするので、術直後にさえバレないほどダウンタイムが短い精緻な手術を行っています。これには特殊な道具も関与しています。ところで今述べた様に、蒙古襞はある程度残存させます。白人じゃないので、涙湖がすべて露出してはそれこそ不自然なのです。

こうしてバリエーションのある蒙古襞を、標準的なサイズにし、拘縮を除去し手め豚を開きやすくし、さらに吊り目を是正して優しい目元にする。こんないい手術あるの?ってみなさん思われるでしょうが、ほんとなんです。私は池田先生とこの手術を頻用していますが、患者さんに喜ばれ、そして「キレイですね。」って言ってあげる時、私も至福の喜びを感じています。

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