2013 . 8 . 2

まぶたの機能と美容医療Ⅲ 眼瞼下垂1

眼瞼下垂=まぶたを開く機能の低下。最近よく耳にされる言葉だと思います。瞼の機能は、形態に対して、如実に反映します。前回も述べましたね。

眼瞼下垂症そのものの疾病概念は、形成外科、美容外科の萌芽よりもずっと古く、20世紀初頭には医学的に認識されていました。主に眼科医が担当していました。このころの眼瞼下垂症の概念は、一目でわかる程度の病的な状態をいいます。視機能的医学の概念ですから、狭い範囲を定義していました。一言でいうと、瞳孔が隠れるかどうかで、定義していたのです。これを狭義の眼瞼下垂症といいます。

美容医療としての、形成外科や美容外科が、盛んに診療されるようになると(1960年代)、軽度の眼瞼下垂症が軽度の機能障害と形態的異常感を呈していることが見出されました。つまり、形態と機能の医学です。例えば、正面視では、瞳孔が露出しているけれど、上方視では瞳孔が隠れてしまうケース。これも、軽度の機能低下ですし、仕方なく、顔をあげて上を見ると頸椎症の原因になるので、予防医学でもあります。

軽度の眼瞼下垂症では、代償が働きます。瞼の力が弱いので、おでこに無意識に力が入って瞼を引き上げていたり、顎を出して顔を上へ向けて、下目使いで見る癖(上から目線にも見えます。)などの反射的無意識の行動で代償しています。これらのケースでは、視機能は得られているのですが、眼瞼下垂という瞼の機能低下を他で代償しているので、やはり疾病の概念に入れるべきだと考えられるようになりました。それにそのような代償運動は動的な形態としては、つまり見た目にも異常感を呈しています。前にも述べたように、良好な機能は良好な形態を呈するものですから、はたからも判るのです。

当時の眼瞼下垂治療は、上眼瞼挙筋を切り取って縫い縮める方法が主流でした。伸びたゴムを短くすれば強くなるという単純な機序に基付いていました。その結果、開瞼を良好にするという機能的な結果は得られましたが、閉瞼時や下方視時の不自然感を呈してしまう。つまり動的な形態は不満足な結果が散見されました。私は20年前に初めて眼瞼下垂の手術をしたのですが、それ以来、5年間は上記の挙筋短縮法をしていましたが、手術後経過が落ち着いてからの診察で、2例に1例くらいは「なんか動きが違う。」と感じていました。程度にもより、主観的な判断も加わるのですが、特に片側例や左右差のある例では、下方視や閉瞼時の異常感が見えてしまうのです。また、短縮の程度の調節で、瞼縁のカーブの左右差も生じやすかったのです。それに、代償性の反射的無意識運動の仕組みがまだよく解析されていなかったので、動的形態の改善が、不足だったことも異常感を残してしまっていた原因でもあったお考えられます。

もっともほとんどの患者さんは正面視しか見えないので、自覚はしていなかったし、「視界が広がった。」と、喜んでいましたが・・。

さて、その後、形成外科ではこの15年位前からさらに詳しく眼瞼が研究され、一般にも啓蒙されつつあります。その点での先駆者は、信州大学教授の松尾清先生です。彼は、眼瞼下垂の患者さんが代償的に様々な反射的運動を起こしているのに目を付け、これが自律神経の交感神経刺激症状を引き起こしていることを見出しました。そしてその機序(仕組み)を次々に医学的に研究し、明らかにしてきました。そして、軽度の、つまり開瞼が代償されている状態にある眼瞼下垂症でも、疾患として治療の対象となることを学会で提唱していきました。その結果、私達形成外科医のうちの学会好きな(勉強好きな?)者たちは、眼瞼下垂症の診療に対して興味を深めて、より力を入れるようになりました。学会で議論してきたことは、主に2点あります。

軽度の眼瞼下垂状態では、代償が働いていて、視機能には影響していないが、治療の対象となる。頭痛や肩こりが、眼瞼下垂から生じているケースが多く、治療の対象となる。さらに、手術前後に電気生理学的に比較検証し、これらの様々な交感神経刺激症状(自律神経症状)が、眼瞼下垂症の手術により、解消することを証明しました。それまで私達も、これらの症状が軽減するケースを多く経験していましたが、自律神経症状に目を付けて診療していくと、本当に様々な症状の軽減化を診ることができるようになりました。頭痛、肩こりはもちろん、頸部痛、腰痛、があった人も治ったり、不眠が治った人がいます。食欲不振が治って食事がおいしくなった人には、太ったと怒られました。眼瞼下垂の自律神経症状でうつ状態だった人が、術後すぐ気持ちが明るくなって、翌日、買い物に出掛けた人もいました。さすがに私も「糸付いていても気にならなかったんですか?。」と聴いたら、「だって、晴れがましい気持ちだから。」と言いました。私も「晴れと腫れが混在しているということですか?。」とダジャレを言って、一緒になってはしゃいでしまったのを、恥ずかしく思い出せます。自律神経症状は多岐に渉るので、診察が煩雑で大変です。

さらに、松尾教授は、マスコミに取り上げられ、眼瞼下垂症の啓蒙、ひいては形成外科の啓蒙にも力を入れました。眼瞼下垂が、一般人に広く知られるようになったのは、松尾先生のおかげと言えます。そして、治療法もよりよくなりました。それは眼瞼下垂の病態がさらに解明されたからです。その部分については次回とし、我々の独自の治療法も紹介したいと思います。

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