2016 . 6 . 6

粉瘤!

久し振りに、腫瘍切除術の提示症例です。

粉瘤は私達形成外科医の得意分野です。もう何年か前になりますが、当院の池田欣生先生の左側頭部(こめかみ)の径1㎝程度の粉瘤を私が切除して、ブログに提示したところ、反響がすごく、粉瘤の患者さんが殺到した事がありました。何年も続きましたが、さすがに検索に上がらなくなったようです。

そこで、今回症例提示をご承諾いただけたのを機会に画像提示を再開します。症例は55歳男性。背部に嚢胞があります。

実は本症例は経過が長く、年単位で破裂、炎症、他院で切開を繰り返し、当院には約1年前に辿り着きました。当院初診時も炎症が強く、切開排膿の後に連日清浄化し、閉創しました。最後に私が拝見して、「膿を出して炎症が治まっても、嚢胞(袋)は残るので、まず必ず再燃します。袋がはっきり触れる様になったら、摘出しましょう。今回はタイミングを逃さないといいですね。」と告げておいたのです。

予定通り、来院され、「これなら取れますよね。」と尋ねられた時には、私も「取り時ですね。いいタイミングです。良かったですね。」と答え、早速手術予定を立てたのです。

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上左の画像が術前です。直径1㎝強の嚢胞が皮下に触れます。点状にマーキングしています。切開排膿を繰り返して来たので、嚢胞が球形でなく不整形となっています。直上の皮膚は切開後の瘢痕だらけなので全摘する事にして、周囲まで紡錘形に切除するデザインです。結果として、長径3㎝強のサイズを切除します。上右の画像が縫合後です。ピッタリ縫いました。周囲の皮下組織に波及はなかったです。

今回は、術中の写真がありませんが、経過を定期的に追って提示して行きたいと思います。背部の3㎝程度の創跡は、形成外科医の手術結果ではほとんど見えなくなります。皆さんは本当?って思われるでしょう。じゃあちゃんと経時的にお見せしますよ。日本国の世の中の市民は、反知性主義国民なので形成外科の目的や実力を理解していません。変わりに広告宣伝にに騙されてインチキ美容整形屋を尋ねてしまうようです。また専門外で手術のできない診療科目でお茶を濁されるようです。彼等に油の塊とかいわれて切開排膿を繰り返されているのです。まあ逆にいえば、それは形成外科医が市民啓蒙活動を怠ったからでもあり、私達の側も反省しなければならないと思います。

なんて偉そうにほざいているから、理解されないのでしょう。今回は粉瘤の手術経過をお見せするのですが、形成外科医の最大の優位性は縫合法です。真皮縫合が最大の武器です。まずその説明から致します。その後粉瘤とは何かを解り易く説明致します。

皮膚は表面から表皮(細胞層)、真皮(コラーゲン層)、皮下脂肪層の順に重なっています。創跡は幅がなければ消えます。ところが創傷治癒において、表皮は数日で閉鎖しますが弱いのです。表面だけ着いても緊張力で広げられ伸びてしまいます。真皮がしっかり着けば創跡は支えられます。しかし離断したコラーゲンが再生するのには3ヶ月は掛かります。その間は緊張力に耐えません。その結果真皮層の隙間は広がり、上に乗った表皮層は薄く伸ばされてツルッとした肌理;キメのない面になってしまうのです。線が面になって残ってしますと目立ちます。しかし真皮縫合をすれば、真皮の離断した面どうしを寄せ続けられます。糸は3ヶ月で溶けますから邪魔にはなりませんし、その頃には真皮が再生しています。真皮縫合とは創の中の真皮の面を接しさせておく技術で、私はよく、皮膚の裏側を寄せておく事ですと説明しています。ただし真皮は厚い部分でも4㎜、薄い部位では1㎜しかありません。これをピッタリ縫い寄せるのですから、修練を要します。形成外科医は入局以来これを第一の習得目標とします。他科では修練しません。創を綺麗に治す為の技術は、真皮縫合の熟達に負うところが主体となりますが、その為の修練は形成外科医しか行わないので、他科の医師とは大きな差を生じるのです。

粉瘤とは?、読んで字の如く粉の溜まった瘤(こぶ)です。粉は角質=垢で、こぶは通常球形で皮下に埋まっていて時に突出してきます。皮膚に毛穴の様な孔があり、そこから皮膚の表皮細胞(上段の説明参考)が潜り込んでいって、当初は落とし穴状ですが、表皮細胞は分裂増殖(いわゆる代謝)して角質となりますから、垢が孔の中に貯まっていきます。貯まれば貯まる程、孔は拡大してしまい、球形に拡大していきます。袋の壁はすべて表皮細胞のシートですからある程度の緊張には耐え、腔は拡大していきます。体積は増えるばかりですから袋は球形になります。ある時入り口から微生物が侵入すると、角質は栄養価が高いし免疫が働かないので、ばい菌が増えて炎症を生じます。そうなると、壁は破壊され膿が貯まります。疼痛が強くなり、膿を菌と共に排出するしか方法はありません。本症例ではそれを繰り返してきました。排膿してぺちゃんこになれば一度は治まりますが、表皮細胞は必ず残り、再び分裂増殖して、そのうち袋は再生します。きりがないので、袋を取り除くしかありません。ただし、袋を確実に袋のまま出さないと、表皮細胞が中に残ってしまいますから、再発します。球体として取り出す為に切開は直径以上の長さを要します。ちゃんと、袋を取り除いて残さない事が大事です。また粉瘤は深くても皮下脂肪層までにしか達しませんから、神経や血管損傷のリスクは皆無に等しいのですが、その為には袋だけを取り除く繊細な手技が必要です。その後丁寧に縫合すれば皮膚の切除が最小限ですから、創に緊張が掛からないため、綺麗に治ります。上段で説明した真皮縫合をするのは当然ですが、袋を取り除いた空洞を縫い寄せる為にもう一層深いところも縫合する事があります。粉瘤の摘出は、孔の周囲の皮膚を最小限切除し、袋を破らないように、袋の周りは余分に取らないで、空洞を丁寧に閉じて、更に創をしっかり縫い合わせる手間のかかる手術です。だから、他科の医師はやりたがらないのです。

今回の症例を利用して説明を加えました。百聞は一見にしかずといいます。創跡の経過を経時的に提示していきます。