2017 . 11 . 2

目の間(内眼角間距離)が離れていても、定番の手術でいい感じ!

これまで何例か目が離れている症例を提示してきました。手術の程度に悩みます。この種の症例に対しては、目頭切開が必須ですが、シミュレーションしてみないと解りません。術後6週間経て結果的に自然な形態に出来上がりつつあります。

症例は25歳、女性。先天性一重瞼。6年前埋没したが、外れている。LF挙筋機能11.5mm(正常値>12㎜)と先天性筋力低下に因る眼瞼下垂傾向だが、一重瞼では正常下限と考えられる。計測すると、眼裂横径は25㎜と一重瞼の人の平均だが、内眼角間距離は43㎜と正常範囲から逸脱している。でもそれは角膜中心間距離(平均値60㎜)が67㎜と、眼球が離れているからです。内眼角間距離から7㎜減じると内眼角間は36㎜と考えられ、蒙古襞の程度は一重瞼なら標準的と考えられた。

ブジーを当ててシミュレーションして、7mmの重瞼線をデザインしました。切除は最低限2mmとします。先天性眼瞼下垂の比重は低く、後天性(挙筋の筋力の成長不足)の眼瞼下垂と考えられるので、眼瞼結膜側から結膜とミューラー筋と挙筋腱膜を縫縮するLT法で可能と考えた。目頭は計測結果を検討すると、蒙古襞の被さりを取り過ぎると涙湖が見えて不自然になる。ただし一重瞼を二重瞼へと正常化する際には、蒙古襞を二重瞼に合ったサイズに変えないと不自然になる。その為には標準的な一辺4mm60度のZー形成法で蒙古襞の拘縮解除だけを要し、眼裂横径は計算上1.5㎜ずつ拡大し、内眼角間距離を3㎜減じるのが形態的に適切と考えた。

術前から術後の経過を追ってみましょう。

下に術前と術直後の眼瞼部の画像を提示します。術前に何故か左眼瞼だけギョロッとしています。眉を上げる反射的運動が強く働いているのです。術直後は腫脹と内出血(まだ出ていない。)ですごい画像です。開瞼も不明です。

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下に術後三日目と1週間目の画像です。術中出血に起因する腫脹は早く吸収されます。ところが腫脹は減っても血球成分は赤紫に、その後黄色く血色素が残り、それが吸収されるには平均2週間かかります。腫脹はどんどん軽減しますが、内出血の赤さは淡くなっただけです。開瞼機能は見事に得られていました。今回の症例はPuffy eye では無いので早く治ると思います。OLYMPUS DIGITAL CAMERAOLYMPUS DIGITAL CAMERA

下左に術後3週間の画像です。予定通り内出血は消失しています。腫脹は診られないので、形態と機能は得られています。重瞼もクッキリと綺麗です。実は鼻根にヒアルロン酸を注入しました。本症例は内眼角間距離が離れていますが、その原因は眼窩隔離状態にあります。角膜中心間距離が67㎜です。眼窩は発生成長中に両側から寄ってきます。移動が足りないと鼻も成長不足になりますから、鼻根部もフラットなんです。だから、鼻根を高くするべきです。また、鼻根部に目頭の間に壁というかつい立てがあれば、3次元的構造となる為に、内眼角間距離が意識出来なくなります。実際に画像を見ても、鼻根がある方が自然な感じで目が離れて見えないでしょう?!。OLYMPUS DIGITAL CAMERAOLYMPUS DIGITAL CAMERA

上右の術後6週間の画像を診ると、注射針の後も消えて、ヒアルロン酸は残っているいい感じでした。今後もメンテナンスしていきましょう。ところが右眼瞼の開瞼が若干落ちてきました。経過を追って診ると術後1週間では開瞼良好でしたが、今となってはよく診ると術後3週間でも差が有りました。術後6週間の画像は撮影時のフラッシュの反射が、左角膜には写っているのに右には写っていません。術前の画像では一重瞼なので眉を挙げる反射運動が起きていて、瞼縁も挙がっているのに、術後は眉を挙げる必要が無くなったので、下垂状態が見えています。

それでは近接画像で形態を評価してみましょう。各上段の術直後と術後6週間の拡大、下段に術後3日、術後1週間、術後3週間の順です。

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やはり左右を比べると右眼瞼下垂の改善度は後戻りが生じました。ちなみに目頭切開:蒙古襞の拘縮に因る開瞼抵抗の解除に関しては明らかに自然な形態的で、機能的にも効果が見られます。問題は挙筋の機能が何故低下しているのかのメカニズムです。要するにやはり、先天的に挙筋の機能が弱かった要素が存在したのでしょう。

LT法は、眼瞼結膜側から結膜とミューラー筋と眼瞼挙筋腱膜を折り畳む方法です。挙筋腱膜が瞼板から外れている後天性腱膜性眼瞼下垂症では折り畳む際に瞼板に縫い付けるので修復になり、効果が持続します。対して挙筋筋力が弱いなら挙筋腱膜を縫い縮めなければならないのですが、筋を糸で縫い縮めても筋繊維に沿って糸は抜けていくので徐々に戻ることがあります。LT法が後天性腱膜性眼瞼下垂症には効き、先天性眼瞼下垂症の要素には効くけれど後戻りを起こすのは上記のメカニズムに因ります。

筋力低下を伴う先天性眼瞼下垂症でも、腱膜を瞼板に縫い付けて癒着を図る方法なら戻りません。実はこちらの方法がオーソドックスで過去何十年も行なわれてきましたが、筋を瞼板に縫うと腫脹が強く、また開瞼度の調整が難しいため、可能な症例にはLT法を優先してきました。私はいつも言うのですが、診断は治療法(この場合手術法)の適応の為にあります。診断には診察力が必要で、私は今回知力が不足だったのを反省します。

本症例は目が離れていても、蒙古襞の改良で自然な形態を作り上げられる判りやすい例でした。前回「今後の経過で開瞼と創跡の変化があるかも知れません。ちゃんと経過をお示ししますよ!」と書いたらその通り変遷しました。術後3ヶ月を待って手を打つかも知れません。ちゃんと提示していく事が、この私のブログの義務です。その意味でも次回の経過をお楽しみに!。