2017 . 3 . 30

重度の一重瞼による眼瞼下垂症と横径が小さいのは眼裂狭小症といいますが、治れば普通に見られます。

今回の症例は一目で見て眼瞼下垂症を指摘出来る症例です。本来なら若年時から、いや幼少時からの手術適応です。機能的障害を伴うからです。上方の視界不良は身体機能の障害です。これは差別ではありません。治せる機能障害は、医学的診断の下に治しましょうと提唱しているのです。差別とは、改善できない障害者を社会に参画させないことです。改善可能な障害を治した方がいいと医療的に診断し治療するのは、逆に社会的に受け入れやすくすることを目的としています。つまり私たちは差別解消を図っているのです。

眼瞼の開瞼が低下しているだけでなく、黒目の内側が隠れる程に横径が小さい状態は、眼瞼狭小症;Blephrophimosis と診断されます。この言葉は合成語で、前半;Blepharoは眼瞼のことで、後半;Phimosisとは調べれば判ります。皮被りという意味で酷い言い草ですが、これは洋語の医学用語です。本症例はギリギリ黒目の内側が出ているのですが、機能的に視界不良です。障害かどうかは数字的な差異ですが、産まれ付きの形態が正常範囲か異常値かは別として、眼裂横径とMRDは低値であるのは確かです。

先ずは症例の術前術直後の画像を提示します。

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続けて術後2週間OLYMPUS DIGITAL CAMERA経過したら良くできました。

症例は18歳、女性。先天性前後葉性眼瞼下垂症。眼裂横径22㎜、内眼角間距離36㎜、角膜中心間距離58㎜と横径が正常下限値。眼球そのものは離れていない正常値。LF;挙筋筋力(滑動距離)10㎜だが、この横径では正常範囲。前頭筋は常時収縮している。吊り目で、目が線の形態。この写真でも判る様に角膜の上半分が隠れ、内側の白目がほとんど見えないギリギリの開瞼です。

形態的にも機能的にも改善が求められます。手術の絶対適応です。シミュレーションでデザインを決めます。重瞼は狭く末広型の最高位である6㎜にラインとし、切除3mmとします。4mmのZー形成法が適応です。

さてもう一度術前とデザイン(開瞼&閉瞼)と術直後と術後1週間と2週間の画像を並べます。

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むしろ術後の方が自然な雰囲気です。術前の写真やデザインの写真は寄り目に見られ、しかも睨みつけている様な目付きに見られます。患者さん本人(母親からも)からも術前にそのように訴えました。そうなんです。眼瞼狭小症は目が隠れていて細い、しかも寄り目だと視線が近くを見つめている様にまたは睨んでいる様に見えます。表情として特別な精神状態を表出している様に感じさせてしまいます。つまり社会的な機能障害を伴う事になります。良好な機能は自然な形態に宿り、あるべき形態は良好な機能を呈するという典型です。

本症例の術後経過は酷い状況でした。手術の程度が大きいからでもありますが、精神状態の不安定も影響していると考えられます。その証拠は術前の画像を見れば判ります。眉毛が挙がっているのがその証拠です。これまでも述べて来ましたが、眼瞼の機能が不全で目の開きが悪く視界が得られないと、脳が反応して額に力を入れようとします。日常覚醒して行動する際には目を開いていないと不便だからです。脳が覚醒して行動しようとする際には交感神経が優位に働きます。交感神経が常に緊張していると、精神状態が不安定になります。その程度が強いのです。見た目での感じでも眉を挙げている表情は緊張しいに見えますよね。そういう認識をします。本症例ではその程度が強い方だと考えられます。現に術中の出血が多く術後にも反映していました。

困ったなあ!。学校もあるのに早く治らないと可哀想!。翌日の画像はありませんが、腫脹と内出血は亢進し、1週間後に抜糸に来た時には更にすごい事になっていました。手術でも外傷でも、身体侵襲の影響は48時間は増強します。炎症期といって、出血に伴い止血作用と創傷治癒作用のトリガーである化学物質が血管内から層周囲へ侵出して腫脹し、内出血も周囲組織内に浸潤します。48時間のピークを過ぎると吸収され始めます。そのスピードは個体差はありますが、ピークの高さが反映されます。

手術から2週間目に来院してもらいました。どの程度治っているかビクビクしていました。そして患者さんを拝見した瞬間にホッとしました。内出血は通常2週間で吸収されます。高齢者で3週間罹った人も居ますが、若年者は2週間以内です。画像をご覧いただいてもその通りです。そして腫脹の軽減するスピードも年齢に比例しますが、ピークが高い割に本症例では早い方でした。やはり精神状態の安定化=交感神経の過剰な反応が低下して、治癒反応が向上したのでしょう。画像上でも眉毛の位置が下がっているのがその証拠です。

これなら、社会復帰も出来ますね。もちろん創跡はまだ見えますが、機能障害を治す為の手術を受けたのですから、周囲にも説明出来ますよね。創跡は数ヶ月で見えないに等しくなります。そうはいっても腫脹はまだ、ピーク時の30%程度は残存しています。したがって重瞼の幅も1.5倍くらい広がっています。あと2週間でかなり落ち着くでしょう。

こうして、もう一度近接画像で比較してみます。

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術前と術後でどちらが良い形態かと言えば当然術後です。機能的にも充分な開瞼が得られています。ではどちらが自然な状態かと言えば、術後の方が標準に近く、つまり自然な人間の形態に近いと言えます。何度もいいますが、先天性一重瞼で蒙古襞の拘縮が強いのは遺伝子異常です。神様が間違って作ってしまいました。神様の代わりに私達人間の手で行なう治療は真善美を体現しているという意味で、神の思し召しに基づく自然な行為です。眼瞼の機能と形態を治す手術を、「セーケー!」とか言って不正義だと唱える輩は、神に背く反知性主義者です。もしそのような人が周りに居たら、馬鹿にして無視して下さい。

術後1ヶ月目には術後経過が更に落ち着いていると期待されます。お楽しみに!