2017 . 6 . 22

ハムでもソーセージでもありません。眼瞼下垂を治せばキラリ!

ハム状態とは重瞼線が広く、食い込みが強く、線の下の前葉が余って膨らんでいる状態です。ボンレスハムを糸で縛った様な締め付けが見られるのをこう称する様です。もう一つの説としてはハムスターのハム太郎みたいなまぶたに似ているというのもありますが、定かではありません。ちなみにソーセージも腸詰めを縛るので比喩になりますが、縛る形が違いますから使いません。

もちろん自然状態ではあり得ない形です。病歴によると、約5年前に美容皮膚科!!で埋没法を受けて、直ぐ外れて切開法を受けたらこうなりました。昔ならたまに診ましたが、今でも作ってしまう医者が少なからず居ます。特に最近他科から(皮膚科は専門外)の転向した医者が見よう見まねでやってしまう事がある様です。

切らない眼瞼下垂手術=黒目整形基本形=NILT法でハム状態を解消したのが約一年前。中期的結果は大変良くてお悦びでした。下左が昨年の術前で下右が術後3ヶ月です。

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ところが今回、前回の手術から約9ヶ月後には、下左画像の如くハム状態が再発傾向にありました。やはり切開をして確実に持続的に治したいとの希望を述べられました。ハム状態は本来切開しないと治せないのです。私は速やかに同意して、切開法を施行しました。今回の手術は切開法での医原性眼瞼下垂の修正手術として保険適応となります。

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上右の画像の如く、術直後は一時的にオーバーコレクションになりました。

21週間で抜糸しました。

不思議と経過が早いですね。腫れが酷くなりませんでした。カクカク(Notch)が見られません。

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上の画像は一年前からの変化。左から術前でハム状態、その右が術後三ヶ月、更に右は今回の術直後、最右が術後1週間です。経過を追って行くと、一年前の術前と比べて、術後3ヶ月が良過ぎます。本当にキラキラして綺麗でした。ところが術後半年くらいから落ちて来た様です。今回の術後の画像ではハム状態は見られません。

切開法でハム状態の解消を図る為には通常の切開法に加えて特殊な手技が必要となります。1、`重瞼線の下`の余った皮膚を切除する。眼輪筋も余っているので膨らんでいるから切除する。2、固定を一度剥がして止め直す。3、眼瞼下垂を治す:医原性でも腱膜性でも、剥がれているなら挙筋腱膜を修復する。

今回の症例での手技を解説します。上記1に対しては前回の重瞼線の線下の皮膚切除を2㎜デザインしました。眼輪筋も同幅切除しました。2に対しては重瞼線を切開するので前回の固定は瘢痕を切除する事で一度外れます。そのまま瞼板の前面に達したら、線下の眼輪筋下を睫毛根が見られるまで剥離して、皮膚と眼輪筋を膨らまない様に引き上げて重瞼固定します。ラインは7㎜ですから、瞼板の上縁で適切な広さです。3、挙筋強化により後葉を引き上げれば、相対的に前葉が被りますから見かけの重瞼幅が狭くなり線下のハムの膨らみが見られなくなります。

実際に挙筋の状態はやはり、挙筋腱膜が瞼板から外れている医原性腱膜性眼瞼下垂でした。挙筋修復術が適応です。LT法でも同様の効果が得られます。しかも、LT法ではその糸を前に出しての重瞼固定が簡単に加えられます。ただし上に述べた通り、後戻りは大なり小なり起き得ます。昨年の手術で結果は得られたのですが、持続しなかったのはそのためです。

そこで、今回の手術では、1点は前方から挙筋腱膜を瞼板に縫い止めました。縫い止めると瘢痕が形成されて癒着してズレなくなります。中央(やや内側)に1本前転修復縫合をして開瞼の程度を確認してから、角膜の内外の垂線上にLT法を加える方法を多く利用しています。これなら後戻りが有って丁度いいのに中央は戻らないからです。LT法は重瞼固定にも利用出来ます。重瞼はLT法の糸を瞼板上縁で前に出して緩く固定するので、強さの調整が出来ます。

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上の術中の画像で説明しますと、糸が二本ずつ見えるのがLT法です。中央に白い挙筋腱膜が瞼板の上縁に付着しています。青い糸は喰い込んでいますが、よく見るとあります。上右でもまだLT法の糸が出ていますが、重瞼固定前だから、重瞼が引き込まれていません。この後重瞼固定して、皮膚縫合をして終了です。

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もう一度術直後の画像を提示して説明します。角膜の内外はLT法ですから、瞼縁がカクッと挙がっています。でもこれは後戻りします。前回もそうでしたから計算済みです。中央付近は丁度良く挙がっています。第一眼位(正面視)で、角膜の上が1〜2㎜隠れているのが正常です。前転修復部は後戻りしません。そして重瞼の深さはLT法の糸を前に出して固定しましたが深過ぎず浅過ぎず、綺麗に入りそうです。さすがに腫れていて結果は出ていません。でも、ハム状態の一因である強過ぎる重瞼の引き込みではないのは確かです。

目尻方面の創が長いのは前回残っていたたるみを切除するためです。腫脹が取れて行くと折れ込んで見えなくなります。重瞼の引き込み線はメイクで隠れます。

こうして一週間が経過しました。下左図が術直後で、下右図が術後1週間です。折角切開法での改善を図るので、通常の黒目整形切開法よりも複雑な手技を加えましたから、侵襲が強い筈ですが。

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近接像でも経過がよく見えます。この経過画像提示が本ブログの真骨頂です。

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オオッと〜、何故か経過が早い!。本症例では、術後1週間で、形態的に機能的にいい感じです。予定通りカクカク(Notch)は解消しつつあります。創跡はまだ見えますが、メイクで隠して下さい。上に述べた様に今回の手術では複雑な手技を加えました。特に線下の切除と剥離は侵襲が強いので腫脹と内出血が強い筈ですが、瞼縁がよく挙がると、線下が隠れるので目立たないのです。一週間の経過では昨年の経過より、更に良好な形態で機能が充足しています。綺麗です。

今回は何故LT法では後戻りしたり、定着したりするのか?。前転法の優位性と劣性を考察します。

LT法は眼瞼結膜側に、結膜円蓋から瞼板に向かって糸を掛けて縛ります。層は結膜、ミューラー筋と挙筋腱膜の一部です。ミューラー筋を縫い縮めても筋肉ですから繊維(当然縦方向)に喰い込んでズレていってしまいます。数年前JSAPSで信大の松尾教授が要約しました。眼瞼結膜の短縮でも挙上の助けにはなるとエビデンスを提示しました。でもズレて行くので後戻りします。次の層である腱膜に掛けて、瞼板に繋げれば接するので癒着して定着します。でも、癒着するには数ヶ月かかりますから、短期的には後戻りが起きます。本症例でもLTを掛けた二点のNotchは一週間で緩んで来ています。つまりLT法では、程度は大小あれど後戻りは起きます。でも腱膜を触れば後戻りは少なく定着します。

前転法は、腱膜を瞼板に縫合するのでその外科的侵襲に反応して癒着が起き、定着します。癒着は数ヶ月かかりますから、その間コラーゲンのリモデリングが起き少しは緩みます。でも通常目に見える程は無いです。問題は術中には局所麻酔や眼輪筋のダメージで開瞼がオーバーコレクションを余儀なくされる事です。後戻りでなく数日で適切な開瞼に戻ります。でもその数日間閉瞼不能な程オーバーには出来ません。逆に術中丁度いいと思ったらやはり不足なケースがたまにあります。その調節は難しく、経験がものを言います。

ですから、最近は中央に前転してややオーバーにし、瞼板の内外にLT法を加えます。上の画像の様に中央が適切な開瞼のまま、LT法でオーバーな開瞼が中期的に解消して丁度良くなります。それLT法では重瞼が緩過ぎずキツ過ぎず固定出来るので、丁度いい重瞼の深さが作れます。ハム状態の修正を目的にした本症例では特に重瞼の深さが重要ですから、この組み合わせの方法の最も良い適応と考えられます。

もう一つ線下切除は稀に行ないます。ハム状態の解消術に於いては必要です。年に数例取り扱います。他に医原性眼瞼下垂症で重瞼が広くなった患者で、挙筋修復と同時に線下切除を加える事はあります。昔の重瞼術切開法で十年単位で起こした場合皮膚も余剰になっているからです。私は父が施行した後遺症例をこの方法で何例か治しました。私が子供の頃好きだったテレビ番組の綺麗な目の女性はその一例だと考えられますが、医原性眼瞼下垂症を治さないで先日亡くなったのが残念です。ただし父の症例だとは断定しません。

余計な事は言わずに本症例の経過を追いましょう。ブログ提示症例の中でも最も難しく面白いので、ちゃんと診て行きます。