2016 . 12 . 14

上口唇短縮術の症例経過です。やりすぎか?。でも悦んでいます!。

口唇短縮術の症例の経過画像を提示します。

このところ上口唇(白唇部)を短くしたい患者さんの来院が増加しています。このブログを見て来院する人が多く、経過が良好で(傷跡が目立たなくなる。)詳しい内容が説明してある為に安心だという患者さんの声を聴きます。ただしこの手術は経過が長い。しかも傷が見える手術ですから、すごい絵になります。今回は手術当日と1週間後を画像提示しますが、苦手な人もいるかと思い、途中の画像は縮小し、拡大写真は最下段に載せます。怖がりの人は、画像を見ないで読むだけにしてください。なお今回はその後に詳しい解説を載せます。濃い内容です。

症例は30歳、女性。USAの白人と日本人のハーフでタレントさん。白人の要素として、顔面が縦横の比率的に長い。上中下顔面の長さもすべて6㎝以上で、頬骨最大幅は130mm以下と細い。ところが下顔面の縦長の中で、鼻の下が特に長いためバランスが悪い。鼻の下の皮膚の部分も唇です。赤い唇(=赤唇部)と白い唇(=白唇部)と言います。このところ上口唇(白唇部)を短くしたい患者さんの来院が増加しています。評判かどうかは判りませんが、このブログを見て来院する人が多く、経過が良好で(傷跡が目立たなくなる。)詳しい内容が説明してある為に安心だという患者さんの声を聴きます。嬉しい限りです。そんじょそこらのビジネス的非形成外科医や逆に美容外科を知らない形成外科医との違いが理解されて来たのだと思います。ただしこの手術は経過が長い。今回の画像提示でも術後1週間ではまだ結果が出ていません。

私は計測ポイントとして、鼻柱基部(中央の鼻と白唇部の折れ返り点)と赤唇部の中央(キュ―ピットの弓の最下点)の長さを計ります。15mm以下が標準です。症例患者さんでは20mmありました。

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術前の画像を見ると鼻の下が間延びしている。アジア人でもあるため上下顎が突出している。Bimaxillary Protrusion です。所謂エステティックラインAesthetic line(米語でない)がプラス=いってみれば口が出ているため、間延び感が余計に目立つ典型的な例です。

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デザインです。三つの留意点があります。1、鼻孔底へ切り込むデザインにするか?、鼻孔底前底の土手を温存するか?。2、鼻翼を超えて鼻唇溝へバックカットするか?。3、切除幅をどうするか?。三点についてはご覧の通りのデザインを希望されました。切除幅は6㎜としました。実は仰臥位になると、間延びしてい無い(重力で伸びていた。)為18㎜でした。これらの点とか内部処理については後日に説明します。

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縫合を行った直後です。かなり切除したためか?、局所麻酔が口輪筋に効いていて動かない(力が入らない)ため口が閉じません。でも術前のシミュレーションでは閉じたので心配はしません。

切除手術の際には、翌日に診察します。翌日には局所麻酔は切れていますから、口輪筋に力が入れられる様になりました。閉じようとすればちゃんと閉じます。力を抜けば、上の術直後よりは狭いとはいえ開いてます。でも半開きの口元が好きだそうです。確かに鼻の下が長いよりは半開きの口の方がずっといいです。

本手術は最終兵器だと前に述べました。何故かというと1、美容外科の典型的な手術の中で、顔面の前方を切る手術はこの手術と眉下切開だけです。いかに切除縫合を丁寧にするかがポイントで、絶対に形成外科医にしか受けてはいけません。かといって、一般の形成外科医は美容学(所謂美的センス)を学んでいないため、これらの手術をできません。私達の様な形成外科と美容外科を研鑽したものでなければ出来ません。でもそういう医師は日本では100人にも満たないのが現状です。2、顔面の印象は、目元の印象が約50%を左右します。目を見て話すからです。次に引いてみて正面輪郭です。口元の問題はバラエティーに富んでいる為に、一般の患者さんがゴールを見出せない部位で、顔面の印象を高めたのちに、「ああ、この口元をこうすれば品性が高められるんだ!」と気付く部位です。だから最終兵器となることが多いのです。3、口元は前後関係も気になる点ですが、骨切りまでするのは侵襲が大き過ぎて無理。そこで上下長の修正によって代替することがあります。いってみれば前後位置を上下位置を治して`ごまかす`訳です。その意味でも最終兵器となるのです。

口元の長さと突出は、印象として品性を左右します。今時の若い人に品性なんて求めても無駄かも知れません。この失われた20年の間に、日本人はヤンキー化して、品なんかに見向きもしなくなりました。でも考えてみて下さい。「鼻の下を伸ばす。」という言葉は現存します。また、口の出ていない動物は人間だけです。口で食べないで手で食べるからです。これが人間らしさで、品性に繫がる人間性です。ですから、口元の手術は美しさ(=進化系)のための最終兵器です。

話しが長くなってしまいました。ここからは拡大画像を載せて、上口唇切除術の一般的なデザインを解説しつつ本症例の経過を説明します。並行して私の手術法の特徴とその重要性も解説します。

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上左が術前、上右がデザインの画像です。

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上画像は術後1週間の抜糸直後です。左の様に力を入れて口を閉じたら閉じます。右の様に力を抜くと開いています。いずれにしても創の癒合状態がよくありません。もっとも、鼻の下の切除線は見えなくなります。問題は鼻翼を回る部分が余剰が生じている為に癒合が悪いのと膨らみが残らないか懸念されるのです。今後の経過観察を要します。一部創治癒が遷延したら再縫合も検討の余地があります。とにかく経過の長い手術ではあります。

デザインの三つの留意点をもう一度説明します。

1、鼻孔底へ切り込むデザインにするか?、鼻孔底前底の土手を温存するか?。鼻の孔の入り口のそこには土手状の膨らみがあります。鼻の孔の中が黒いのは、これの影になっているからです。ですから土手は温存した方が良いと思います。切開線を鼻の孔の中にデザインすると土手を切除することになりますから、平坦になって鼻の孔の中と外の境が無くなり不自然だと思います。私達形成外科医出身の美容外科医が手術すると、私達は創の縫合法(特に真皮縫合法。)に精通していますから傷跡が見えなくなります。ですから敢えて、土手を欠損させない様に土手の麓を切開します。本症例では患者さんがこのデザインを希望され、探していらっしゃったそうです。見つけていただいて有り難うございました。なお他科の医者は真皮縫合を出来ないどころか知りません。本当です。当院に勤める他科の医師に聴いてみたら知りませんでした。だから、私の様なデザインを用いることの出来る美容形成外科医は少数しか居ません。美容外科という専門分野に於いては、医師のレベル差は大きいのですよ。

2、鼻翼を超えて鼻唇溝へバックカットするか?、皮膚皮下組織を切除して口唇を上へ引き上げるので切った所の下部分しか挙がりません。鼻の下だけを切ると口角が挙がりません。そこで、切開を鼻の下から鼻翼を回ってさらに鼻唇溝に延長すれば口角も挙がります。数年前まではそのようなデザインを使用することもありました。ところが鼻唇溝の傷跡は線状に谷になりますから、目立つことがあります。悩ましい限りです。私達は一昨年から、口角挙上術を習得しました。ですから、昨年以来鼻唇溝へ延長する切開法は施行していません。今後は上口唇挙上術と口角挙上術を併用する方向、または後日追加する方向で行ないたいと思います。本症例でも後日の予定を立てます。同時にしなかったのは、それぞれの効果を見極めていきたいからで、患者さんの希望でもあります。

3、切除幅をどうするか?、切除深とその処理はどうするか?、切除幅は上に述べた様に数字的にデザインします。もちろん顔のバランスも考慮しますし、患者さんの希望も汲みたいと思います。場合によっては患者さんと医師側は丁々発止のやり取りをします。今回は術前の診察では7㎜を予定しました。摘んでみるシミュレーションでは難しいのが判りました。術直前に仰臥位になってから6㎜に変更しました。インターネットのある情報では術後に伸びる、つまり再発すると流されているそうです。私は「戻りません!」と断言しました。上に記した様に、縫合法が問題なのです。又候私は暴発しますが、非形成外科医の美容整形屋が施行した上口唇挙上術の術後に、傷跡が広がっている症例を何例も拝見しました。見ればすぐ判ります。当然長さも伸びています。許せないと思いました。私達形成美容外科医が施行したら、傷跡が広がりませんから伸びません。それが証拠に私はどの症例でも計測していますが、数字が証明しています。本症例でも本当ですか?といぶかっていましたが、そうなんですと言うしかありません。ところで深さですが、実は先日の学会(JSAPS)    で演題がありました。浅く皮膚だけ切除すると口唇が裏返る。深く切除すると裏返らない。当たり前です。そしてどちらがいいかは傾斜によりますし、好みも汲みます。口が出ている人には裏返らせたら余計出てしまいますし、口が出てない人なら、キスの様なセクシーを求めてむしろ裏返りを欲しがる人も居ます。使い分けなければなりません。私は通常、口輪筋の上まで(中間層)を基準に使い分けます。皮膚だけ切除し、皮下脂肪を残すのが浅い方法で、皮下脂肪は全層切除するのが中間。筋まで一部切除すれば深い切除になります。中間層と深層の切除法では筋層も縫合し、空洞を埋めると共に緊張緩和を計ります。そうしないと創跡が広がって伸びてしまいます。上に偉そうに書いた内容に反する結果になります。ですから私は、念入りに縫合します。時間もかかります。本症例では筋層にまで切り込みました。念の為付け加えると、顔面神経の問題と口腔内との交通の問題があり得ます。口輪筋には裏側から(顔面神経は皆そうです。)顔面神経が挿入されますから、全筋層を切除したら顔面神経も損傷しかねません。手術中は筋層を見ながら、半層は残す為に削ぐ様に切除していきます。そして、筋層の深部はすぐ口腔粘膜がありますから、気を付けます。筋層を残せば危険はありません。まだ経験がありませんが、口腔側での手術をした後は、粘膜と筋層が瘢痕で癒着している可能性があります。その際筋層の処理をすると、粘膜を損傷する危険があり得ます。ですから、既往歴をちゃんと得て、注意したいと思います。

上口唇切除術に於ける数々の注意点を解説すると同時に、本症例への適用を説明しました。まだ経過中ですから、創も目立ちます。でも三層に渉ってしっかり縫合しましたから、目立たなくなりますから、経過をお楽しみに。次回は口周りの手術の説明を加えていきたいと思います。